微睡みの子どもたち

栗菓子

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   二人の夫と花嫁③

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イアは甘いショートケーキを食べながらふあっと口内に広がる余韻を噛みしめながら、幸福に浸っていた。

嗚呼幸福だわ。まあ少し食べ過ぎたら走らなきゃいけないけど・・。

イアは幸福だった。 これもすべてはお母様が正しく二人の夫を選択したから、幸福な人生を得られたのだ。

こどもは分かっていた。この幸福は、お母様が選びとったもの。そしてわたしという子どもが生まれた。

幸いにも、わたしはお母様によく似て、家族としての愛も得た。

「こんな幸福はないですわ。これも全てお母様が正しくお父様たちを選んだ結果ですね。」

無邪気にイアは母親を褒めたたえた。 イアにもその恩恵がきて、まずまずの幸福を得ている。

外敵に脅かされない人生。家族運が良い。衣食住も十分な満ち足りた生活。

イアには何の不足もなかった。 

するとお母様は妙な顔をした。

「選んだねエ・・。あれはどちらかというと結末は決まっていたような・・。選ぶしかなかったような・・。」

どこか納得のいかぬ風情で、お母様は苦笑しながら、にっこりと娘に微笑んだ。

「まあ。こんな可愛い娘を授かったから良いよ。でも 君は本当はお兄ちゃんになるかもしれなかったんだ。

あべこべに生まれただけさ。」

「??」

お母様は時折わからないことを言う。わたしがお兄ちゃんになるはずだった?何を馬鹿な事をいっているのだろう?

「・・そういう未来もあったということさ・・。」

お母様は三日月のような笑いをした。目も月のようでわたしは戦慄した。

お母様は謎めいた女で、別人のような顔ももっていた。いつかお母様がわかるだろうか?

お父様も優しいけど子どものわたしにはわからないこともあった。

「ねえ。イア。この世界はお母様だけじゃなく前のそのまた前の花嫁さんが選んできた結果なんだよ。でもね。イア

全てわかって選んだ花嫁もいれば何も知らないで選んだ花嫁もいる。薄々気づいていた花嫁もいたよ。

全ては選択した結果だけど、過程もあったよ。それは大事だと思う。」


「よくわからないけどお母様はこの世界が嫌いですか?ではわたしも間違いだったのですか?」

そう思うとリアは悲しくなった。大好きなお母様がこの世界は間違っているかもと思っただけで、リアのようなちっ

ぽけな子どもは胸が張り裂けたようになってしまう。

だってそれはリアの生や根幹を否定されたような気がするから。


「オオ・・リア。そうではないよ。ごめんね。悲しませてしまったね。いや。リアは生まれてきてよかったとおもう

だけで十分に価値があるよ。僕もリアが楽しく生きているのをみるだけでほっとする。」

それだけでリアは幸福に満たされた。

お母様の愛が十分に伝わったから・・。でもお母様にはどこか迷いもあったみたいだった。もしかしたらもう一つの

選択もあったのだろうか?そう思うとリアは悲しくなった。

わたしではない子どもが生まれたかも知れない可能性があったのだ。

リアの足元が崩れていくようだった。でもお母様はそんなリアを見透かし、そっと抱きしめる。

「ごめんね。リア。貴方はここにいるよ。大丈夫。あなたは世界に祝福された存在だから・・。」

リアは頷いた。大好きなお母様がいったのだ。

リアはここにいてもいいのだ。

たとえ、リアがいることで、消えたかもしれない子どもたちがいる可能性をリアは打ち消した。


わたしは幸福だ。私は幸福だ。俺は幸福だ。 あたしは幸福だ。

リアの背後で子どもたちがその言葉をリフレインして繰り返されているようだった。

嗚呼‥幸福ってなんだろう。リアはこの滑稽な幸福を舌で感覚で味わった。

甘い‥甘すぎて苦いわ。リアは僅かに涙した。


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