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どうやら神様は死んでから褒美を与えるらしい。
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昔の俺は、本当に馬鹿で能天気で悪意に鈍感で、何も知らない庶民として生きていた。
貧乏だが、日払いで肉体労働をして、気の合う仲間もできて俺にしたら上出来な人生だと思っていた。
親はもう亡くなっている。俺たちのような階級は早く亡くなるのが多い。
それでも、ここまで飯はくえるし、気の良い女将や、親切なばあちゃんや爺のお陰でなにか必要な生活用品はもらえた。代わりに、壊れたところを修繕したりして、お互いに助け合っている良い土地だった。
でも闇もあった。俺は知らなかった。そこは海岸の近くにあって、密漁や、良くない取引をしている怪しい奴らもいたらしい。俺は、随分と恵まれていたんだろう。貧乏でも善良でまっとうなやつらに育てられたんだから人生の前半は順調だった。ありふれた子どもとして育った。
その人生の陰りが差したのは、とても気のいい優しい友人が出来てからだ。そいつは顔は普通だが、穏やかな善良な顔をしていた。まさかそんなやつがとよくニュースで言っている。月並みだが、俺もまさかと思っていたよ。
そいつは人の心にするりと隙間に入るみたいに、依存させるのが上手かった。俺もその手口に引っかかった哀れな羊だった。
なんだかそいつといると、夢のように楽しいけど、不安にさせるところがあった。
嗚呼・・これって麻薬みたいなものかな。
なんかおかしいなと思っていても、そいつはボロを出さずにゆっくりと俺を侵食して、信頼させた。
そいつの紹介で俺は恋人を得た。普通の女だった。冴えないけど若くどこから見ても普通の女に見えた。
普通の女が一番気が緩むらしい。なまじ美人だとなぜこんな美しい女がと慣れない男は警戒するらしい。あえて普通の女を与えるのが一番の餌になるらしい。よく考えたものだよ。人間の黒い心理に巧みだった。あいつらは。
あいつらは気も長かった。よく数年も親友と恋人として演技していたよな。
ある日、突然、俺は変な奴らに捕まって、何故と問う暇もなく、呆然と、海岸に止まっている船に無理やり乗せられようとしていた。暴れると、目の横に、あの男が、黒い服を着た男から大金をもらっていたのが見えた。恋人もいつもより冷ややかに俺を見ていた。嗚呼これが薄々気づいていたあいつらの本性なんだと分かった。
俺は黙って睨みつけた。その金は俺を売った金か?と目で強く問いかけた。
友人は肩をすくめて、そうだよと君は高く売れたよよかったねとペットや犬にいうみたいに優しく言った。
俺には、こいつらの心が信じられなかった。呆気なく裏切って俺の人生を目茶苦茶にしても何も感じなく、良かったねというんだ。嗚呼・・こいつはエイリアンだったんだ。とても悪質なやつらだったんだ。もっと早く気づけばよかった。と俺は激しく後悔したね。俺以外にも多分犠牲者がいっぱいいるだろう。
俺は激しく自分を責めながら見たくないやつらを見ずに、黙って船に乗った。
そこは地獄の入り口だった。俺以外に攫われた異国の女や子供、男も居た。彼らは憔悴して諦めていたようだった。
屈強な男たちが、俺たちを捕えていた。
女や、子どもは売春宿や、変態野郎に売られた。
男は、とても過酷な労働をするところへ連れられて、監視付きでずっと労働させられた。
なかには食べ物も与えられず餓死する奴もいた。可哀相だけど俺には何もできない。
俺も酷使されているから頭がまともに働かない。逃げたくても逃げる方法が思い浮かばない。今更ながらに己の馬鹿さ加減に呪ったね。
俺は全てを呪いながら働いて働いてある日、病で呆気なく死んだ。 情けねえ。これが俺の人生かよ。やられっぱなしだ。あいつらは幸福にくらしているんだろうな。俺たちのような犠牲者を出して生き続けるんだ。
俺はなんだか人生の無情と真理を悟って死んだ。
そのあとは、よくある白い空間にいた。光る爺さんもいた。嗚呼‥神様かよ。おせえよ。もっと早く生きているうちに何かしてくれなかったのかよと俺はぶつぶつと呟いた。
ちょっと恨めしそうに神様を見た。その神様は水晶玉で俺の過去の記憶を見ていた。
ぼつりと神様は「酷いのお・・。」と一言呟いただけだった。
それだけ?神様もっとなんか言ってくれない?
「友人と恋人に裏切られて辛かったのお。可哀相じゃから、来世では褒美になにかやろう。何がいい?」
孫に餞別をやるみたいに神様は気軽に言った。
「いや、そんなことより、あいつらはどうなっている。あいつらに天罰をあたえてくれよ。」
俺は懇願した。子どものように駄々をこねた。
「それはできぬよ。人間は人間にまかせるんじゃ。お前は頑張ったから、まあ今度は人を見る目を養って生まれ変わるんじゃよ。来世は幸福になるんじゃ。」
光る爺さんはぬーんと髭を触って、決めた。褒美を与えると光を俺の身体へ吸い込ませた。
それが前の俺の最後の記憶だった。
気が付いたら、俺は赤ん坊として転生していた。美しい女が微笑んで聖母の顔をしてこんにちは。わたしの子と言った。嗚呼。お袋か。 親父らしき男も微笑んで喜んでいた。どうやら神様は俺に善良な良い夫婦に子どもとして俺を転生させたようだ。せめてもの情けらしい。畜生。神様。こんなことで俺が絆されるとでも・・とふんと俺は鼻を鳴らしそうになったが、母乳が良い匂いで俺は赤子の意識で一心に吸った。嗚呼美味しい。ハア!いけない。俺の意識が消えそうになった。
悔しいが、時がたつにつれて、新しい俺の意識が出るようになった。彼らの子として幸福に育っちまった。
でも時折、呪って死んだ前の俺の意識が蘇る。その度に神様の褒美とやらは何だ?と俺はいぶかった。
小学生のごろになってわかった。 神様の褒美は悪人を見分けることだったんだ。
悪人の周りは真っ黒に包まれている。悪人の言葉が汚い本音として現れる。 イイカモダ。これは美味しそうなエモノダ。嫌な本音だ。悪人の綺麗な言葉の副音声として、汚い本音が唯漏れだった。
嫌だなあ。俺はうんざりした。なんでこどものころから見分けがつくようになったんだ。疲れる。しんどい。
でも昔の俺はこんな奴らに騙されて殺されたんだ。
人を見る目のない俺を哀れんで、こういう能力を褒美として与えたのかも知れない。
俺はさりげなく親父や、お袋にあの人はどこか変だよおかしいよと怯えて見せた。
初めは親父もお袋もまさかと言って信じてくれなかったが、俺はなるべくそういう奴らから逃げた。
そんな様子に、親父もお袋も僅かに疑いを持ってくれたらしい。
なんとなくそういう人には両親も避けるようになった。
後に、そいつが詐欺の犯人として捕まったとニュースが出て、「おい。これ、あの子が言ってた奴だ・・。」
親父は呆然と、お袋に言った。
お袋も唖然と口を開けて、「やっぱりあの人は変だったのね。悪い人だったんだ。」と呟いた。
「「助かった・・」」
二重にはもった声が俺のところへ聞こえた。俺もほっとしたよ。家族全員詐欺の被害者になったら悲惨だからな。
お袋はどうしてわかったのかと俺に尋ねた。
俺はさあ・・とにかくおかしい奴と解ったんだと言った。だって神様の褒美でわかるようになったと言ったら精神病院へ連れていかれるかも知れないしな。
それぐらいの予測は俺にもつくのさ。知恵が身についたんだ。
ふうんとお袋はどこか納得できないらしいようだが、そんなこともあるとうまく誤魔化した。
どうやら神様は死んでから褒美を与えるらしい・・。遅いよと文句言いたいけど、そのお陰で、今の家族も救われたしなあ。
複雑な気分で俺は子ども時代を過ごした。
それ以来、母親は特有の勘で、あの人はどんな人が見てくれない?と試すようになった。
俺はうんざりした。
「お袋も、ちゃんと自分で考えて判断してくれよ。子どもの俺に任せてばかりはいけないよ。」
はっとお袋は目を見開いてそれもそうね。そうだわと呟いた。ごめんね。信ちゃん。と謝った。
ううんと俺は首を振ったが、俺もあんたが心配だよお袋と内心思った。
今の俺は信司という。何故か分からないが、信頼できるような子にと名づけた様だ。
あああ。名の言霊もあるかもしれない。俺の目利きはよく当たる様になった。
なんだかお袋は善良で、昔の俺のように無防備だった。
俺は心配で、どうしても危ないと思ったら、こいつとは付き合わないで。なにか嫌だからと、とにかく子どものように嫌がった。
親父もそんな俺を見て、なんとなく察したようで、危ない奴とは接触を断った。
その後、そいつらは数年後、殺人事件で捕まった。それも母子を殺した件でだ。呆れてものもいえねえ。そんなに狂ってやがったのか。そいつらは母子を奴隷として、搾取していたらしい。
嗚呼・・あいつらと同じだ。あのエイリアン化け物と同じだったんだ。
俺は悔やんだ。もっとあいつらが変なやつと言っていれば気持ちが悪い奴と言っていれば、あいつらはこれ以上犠牲を生み出さなかったかもしれない。
俺はしばらく落ち込んだ。
両親はそんな俺を心配そうに見ていた。親父は薄々察していたことを言った。
「なあ・・。信司。お前・・なんか悪人やおかしな奴の何かがわかるんじゃないか?そういう能力をもった奴もいるらしいし・・。」
お袋も頷いた。両親の勘は侮れない。俺は観念して、なんか悪人や危ない人だとはっきりわかることがあると白状した。
やっぱりと親父は言って、大変だったなとそっと俺を抱きしめた。偽りなく心配して言ってくれたことが分かって俺は子どものように泣いた。母親ももらい泣きしていた。
これからどうなるかはわからない。いつこの能力が消えるかどうかわからないが、上手くつきあっていくしかない。
親父とお袋と俺は家族で真剣に話し合った。
この能力はどうしても危険だと思ったら迷わず両親に話す事。決して一人で解決しようとはしない事と三人で決定した。
そして俺は他に思うところがあった。神様は俺の様に酷い目や悲惨な目にあった人に死んでから褒美を与えたんだろうか?だとしたらその人たちはどうしているのかなと俺は考えた。
多分、復讐や、何かをしているかもしれない。
その人たちに会ったら俺はどうすればいいんだろう。俺は少し悩んだ。
まあ神のみぞ知るってやつだな。なるようにしかならない。
俺も前の俺の記憶を持って、褒美をもらって生まれ変わるとは思いもよらない事だったし。
神様って意外といい加減で無責任で優しいよな。
俺もほっと溜息をした。この地上は或る意味、修行かもな。遊びや試練かも。
神様・・。今は俺は幸福ですよ。両親も俺の味方になってくれた。こんな嬉しい事は無い。
俺は家族と、俺の手が入る限り、守りたい。それでいいですよね。神様・・。
飄々とした老人がお空で、にかっと笑ったような気がした。
貧乏だが、日払いで肉体労働をして、気の合う仲間もできて俺にしたら上出来な人生だと思っていた。
親はもう亡くなっている。俺たちのような階級は早く亡くなるのが多い。
それでも、ここまで飯はくえるし、気の良い女将や、親切なばあちゃんや爺のお陰でなにか必要な生活用品はもらえた。代わりに、壊れたところを修繕したりして、お互いに助け合っている良い土地だった。
でも闇もあった。俺は知らなかった。そこは海岸の近くにあって、密漁や、良くない取引をしている怪しい奴らもいたらしい。俺は、随分と恵まれていたんだろう。貧乏でも善良でまっとうなやつらに育てられたんだから人生の前半は順調だった。ありふれた子どもとして育った。
その人生の陰りが差したのは、とても気のいい優しい友人が出来てからだ。そいつは顔は普通だが、穏やかな善良な顔をしていた。まさかそんなやつがとよくニュースで言っている。月並みだが、俺もまさかと思っていたよ。
そいつは人の心にするりと隙間に入るみたいに、依存させるのが上手かった。俺もその手口に引っかかった哀れな羊だった。
なんだかそいつといると、夢のように楽しいけど、不安にさせるところがあった。
嗚呼・・これって麻薬みたいなものかな。
なんかおかしいなと思っていても、そいつはボロを出さずにゆっくりと俺を侵食して、信頼させた。
そいつの紹介で俺は恋人を得た。普通の女だった。冴えないけど若くどこから見ても普通の女に見えた。
普通の女が一番気が緩むらしい。なまじ美人だとなぜこんな美しい女がと慣れない男は警戒するらしい。あえて普通の女を与えるのが一番の餌になるらしい。よく考えたものだよ。人間の黒い心理に巧みだった。あいつらは。
あいつらは気も長かった。よく数年も親友と恋人として演技していたよな。
ある日、突然、俺は変な奴らに捕まって、何故と問う暇もなく、呆然と、海岸に止まっている船に無理やり乗せられようとしていた。暴れると、目の横に、あの男が、黒い服を着た男から大金をもらっていたのが見えた。恋人もいつもより冷ややかに俺を見ていた。嗚呼これが薄々気づいていたあいつらの本性なんだと分かった。
俺は黙って睨みつけた。その金は俺を売った金か?と目で強く問いかけた。
友人は肩をすくめて、そうだよと君は高く売れたよよかったねとペットや犬にいうみたいに優しく言った。
俺には、こいつらの心が信じられなかった。呆気なく裏切って俺の人生を目茶苦茶にしても何も感じなく、良かったねというんだ。嗚呼・・こいつはエイリアンだったんだ。とても悪質なやつらだったんだ。もっと早く気づけばよかった。と俺は激しく後悔したね。俺以外にも多分犠牲者がいっぱいいるだろう。
俺は激しく自分を責めながら見たくないやつらを見ずに、黙って船に乗った。
そこは地獄の入り口だった。俺以外に攫われた異国の女や子供、男も居た。彼らは憔悴して諦めていたようだった。
屈強な男たちが、俺たちを捕えていた。
女や、子どもは売春宿や、変態野郎に売られた。
男は、とても過酷な労働をするところへ連れられて、監視付きでずっと労働させられた。
なかには食べ物も与えられず餓死する奴もいた。可哀相だけど俺には何もできない。
俺も酷使されているから頭がまともに働かない。逃げたくても逃げる方法が思い浮かばない。今更ながらに己の馬鹿さ加減に呪ったね。
俺は全てを呪いながら働いて働いてある日、病で呆気なく死んだ。 情けねえ。これが俺の人生かよ。やられっぱなしだ。あいつらは幸福にくらしているんだろうな。俺たちのような犠牲者を出して生き続けるんだ。
俺はなんだか人生の無情と真理を悟って死んだ。
そのあとは、よくある白い空間にいた。光る爺さんもいた。嗚呼‥神様かよ。おせえよ。もっと早く生きているうちに何かしてくれなかったのかよと俺はぶつぶつと呟いた。
ちょっと恨めしそうに神様を見た。その神様は水晶玉で俺の過去の記憶を見ていた。
ぼつりと神様は「酷いのお・・。」と一言呟いただけだった。
それだけ?神様もっとなんか言ってくれない?
「友人と恋人に裏切られて辛かったのお。可哀相じゃから、来世では褒美になにかやろう。何がいい?」
孫に餞別をやるみたいに神様は気軽に言った。
「いや、そんなことより、あいつらはどうなっている。あいつらに天罰をあたえてくれよ。」
俺は懇願した。子どものように駄々をこねた。
「それはできぬよ。人間は人間にまかせるんじゃ。お前は頑張ったから、まあ今度は人を見る目を養って生まれ変わるんじゃよ。来世は幸福になるんじゃ。」
光る爺さんはぬーんと髭を触って、決めた。褒美を与えると光を俺の身体へ吸い込ませた。
それが前の俺の最後の記憶だった。
気が付いたら、俺は赤ん坊として転生していた。美しい女が微笑んで聖母の顔をしてこんにちは。わたしの子と言った。嗚呼。お袋か。 親父らしき男も微笑んで喜んでいた。どうやら神様は俺に善良な良い夫婦に子どもとして俺を転生させたようだ。せめてもの情けらしい。畜生。神様。こんなことで俺が絆されるとでも・・とふんと俺は鼻を鳴らしそうになったが、母乳が良い匂いで俺は赤子の意識で一心に吸った。嗚呼美味しい。ハア!いけない。俺の意識が消えそうになった。
悔しいが、時がたつにつれて、新しい俺の意識が出るようになった。彼らの子として幸福に育っちまった。
でも時折、呪って死んだ前の俺の意識が蘇る。その度に神様の褒美とやらは何だ?と俺はいぶかった。
小学生のごろになってわかった。 神様の褒美は悪人を見分けることだったんだ。
悪人の周りは真っ黒に包まれている。悪人の言葉が汚い本音として現れる。 イイカモダ。これは美味しそうなエモノダ。嫌な本音だ。悪人の綺麗な言葉の副音声として、汚い本音が唯漏れだった。
嫌だなあ。俺はうんざりした。なんでこどものころから見分けがつくようになったんだ。疲れる。しんどい。
でも昔の俺はこんな奴らに騙されて殺されたんだ。
人を見る目のない俺を哀れんで、こういう能力を褒美として与えたのかも知れない。
俺はさりげなく親父や、お袋にあの人はどこか変だよおかしいよと怯えて見せた。
初めは親父もお袋もまさかと言って信じてくれなかったが、俺はなるべくそういう奴らから逃げた。
そんな様子に、親父もお袋も僅かに疑いを持ってくれたらしい。
なんとなくそういう人には両親も避けるようになった。
後に、そいつが詐欺の犯人として捕まったとニュースが出て、「おい。これ、あの子が言ってた奴だ・・。」
親父は呆然と、お袋に言った。
お袋も唖然と口を開けて、「やっぱりあの人は変だったのね。悪い人だったんだ。」と呟いた。
「「助かった・・」」
二重にはもった声が俺のところへ聞こえた。俺もほっとしたよ。家族全員詐欺の被害者になったら悲惨だからな。
お袋はどうしてわかったのかと俺に尋ねた。
俺はさあ・・とにかくおかしい奴と解ったんだと言った。だって神様の褒美でわかるようになったと言ったら精神病院へ連れていかれるかも知れないしな。
それぐらいの予測は俺にもつくのさ。知恵が身についたんだ。
ふうんとお袋はどこか納得できないらしいようだが、そんなこともあるとうまく誤魔化した。
どうやら神様は死んでから褒美を与えるらしい・・。遅いよと文句言いたいけど、そのお陰で、今の家族も救われたしなあ。
複雑な気分で俺は子ども時代を過ごした。
それ以来、母親は特有の勘で、あの人はどんな人が見てくれない?と試すようになった。
俺はうんざりした。
「お袋も、ちゃんと自分で考えて判断してくれよ。子どもの俺に任せてばかりはいけないよ。」
はっとお袋は目を見開いてそれもそうね。そうだわと呟いた。ごめんね。信ちゃん。と謝った。
ううんと俺は首を振ったが、俺もあんたが心配だよお袋と内心思った。
今の俺は信司という。何故か分からないが、信頼できるような子にと名づけた様だ。
あああ。名の言霊もあるかもしれない。俺の目利きはよく当たる様になった。
なんだかお袋は善良で、昔の俺のように無防備だった。
俺は心配で、どうしても危ないと思ったら、こいつとは付き合わないで。なにか嫌だからと、とにかく子どものように嫌がった。
親父もそんな俺を見て、なんとなく察したようで、危ない奴とは接触を断った。
その後、そいつらは数年後、殺人事件で捕まった。それも母子を殺した件でだ。呆れてものもいえねえ。そんなに狂ってやがったのか。そいつらは母子を奴隷として、搾取していたらしい。
嗚呼・・あいつらと同じだ。あのエイリアン化け物と同じだったんだ。
俺は悔やんだ。もっとあいつらが変なやつと言っていれば気持ちが悪い奴と言っていれば、あいつらはこれ以上犠牲を生み出さなかったかもしれない。
俺はしばらく落ち込んだ。
両親はそんな俺を心配そうに見ていた。親父は薄々察していたことを言った。
「なあ・・。信司。お前・・なんか悪人やおかしな奴の何かがわかるんじゃないか?そういう能力をもった奴もいるらしいし・・。」
お袋も頷いた。両親の勘は侮れない。俺は観念して、なんか悪人や危ない人だとはっきりわかることがあると白状した。
やっぱりと親父は言って、大変だったなとそっと俺を抱きしめた。偽りなく心配して言ってくれたことが分かって俺は子どものように泣いた。母親ももらい泣きしていた。
これからどうなるかはわからない。いつこの能力が消えるかどうかわからないが、上手くつきあっていくしかない。
親父とお袋と俺は家族で真剣に話し合った。
この能力はどうしても危険だと思ったら迷わず両親に話す事。決して一人で解決しようとはしない事と三人で決定した。
そして俺は他に思うところがあった。神様は俺の様に酷い目や悲惨な目にあった人に死んでから褒美を与えたんだろうか?だとしたらその人たちはどうしているのかなと俺は考えた。
多分、復讐や、何かをしているかもしれない。
その人たちに会ったら俺はどうすればいいんだろう。俺は少し悩んだ。
まあ神のみぞ知るってやつだな。なるようにしかならない。
俺も前の俺の記憶を持って、褒美をもらって生まれ変わるとは思いもよらない事だったし。
神様って意外といい加減で無責任で優しいよな。
俺もほっと溜息をした。この地上は或る意味、修行かもな。遊びや試練かも。
神様・・。今は俺は幸福ですよ。両親も俺の味方になってくれた。こんな嬉しい事は無い。
俺は家族と、俺の手が入る限り、守りたい。それでいいですよね。神様・・。
飄々とした老人がお空で、にかっと笑ったような気がした。
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4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
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