大輪の花火の輪

栗菓子

文字の大きさ
上 下
1 / 33

第1話 天涯孤独

しおりを挟む
わたしは若い頃、こんな時がくるとは予想もしていなかった。

だってわたしの家族は貧しくても大家族だった。 片田舎だったけど、因習や下らぬ迷信もあったけど、そのしがらみを上手くあしらえば、住みやすい場所はない。

わたしの家は山奥で柑橘類や野菜やコメなどを作る農家だった。

祖父は頭が良く、どのように栽培して、どこに売ればうまく利益が出るか良く解っていた。

そのごろはとても羽振りが良くて、わたしもその恩恵にあやかっていた。

一時はあの◎家の娘さんだよ。とひそひそと噂が好きな主婦のおばさんたちが鳥のように話しあっていた。

わたしはそしらぬふりでしっかりと聞き耳を立てていた。

だってわたしの服は、他の子より豪華だった。その時代のお洒落な服を着て見せびらかしていた。
羨ましそうにわたしの服や豪華な弁当を見る度に、よだれを垂らす貧乏な子どもたちを見ては優越感に浸ったものだ。そのごろはよくある無知で生意気な子どもだった。相当わたしは彼らにとって嫌な奴だったろう。


でも何も知らなかったのだからしょうがない。子どもと言うのは時に残酷なものだ。

わたしは高慢なお姫様のように、漫画の真似をして高らかに笑って「ほほほ。」と演技をした。

わたしはお姫様だった。傲慢に笑って見下していた。

お腹を減らしている子どもに、恩着せがましく、犬にやるように「ほら。あげるわ。感謝することよ。」
と美味しそうなお菓子をふんそりがえって差し上げたものだった。

思えば、典型的な俗物悪役娘だったわ。わたしって・・((´∀`))

良く道を踏み外さなかったものよ。 今になって思えば・・と回想すればするほど己の下衆ぶりが鮮明に蘇る。


でもそんな子供があっていいと思うのよ。今頃の子どもは大変聞き分けが良くなったけど、その分つまらなくなったしね。

相当金を得た父親は男らしく女の放蕩をしたわ。まあ、お世辞にも美しいとは言えない所帯疲れした母親だったから。可哀そうだけど、殿方は糟糠の妻より、成功したらより美しい女を求めるしね。

わたしは、おばあちゃん子だったから、おばあちゃんから男の真理とか心情とかを教わっていた。お陰でわたしは子どものごろから耳年増になっていた。

ある日、父親の浮気が母親にばれて、母親は泣きながらわたしを殺そうとしたわ。「裏切者の子!いらない。こんな子!」
もう驚愕したわ。 いつも父親に従順な大人しい影の薄い母親が、いきなり鮮明な般若の形相をして、泣きながら怒りまくって、わたしを出刃包丁で刺そうとしたのよ。

嗚呼・・こういうのって母親は父親に煮え湯を飲まされて坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってやつよね。

御祖父ちゃんはことわざ好きでいつも何かに使っていた。

まさか。こんな時にこの状況で思い浮かぶなんで、脳って不思議だわ。

わたしは、本能のままに逃げたわ。 しかし、怒れる母親の瞬発力は強かった。
なんと母親は激昂のままに、わたしの首に包丁を刺したわ。
でも躊躇いもあったのでしょうね。わたしの首は皮をきっただけで頸動脈や致命的なところまで届かなかった。

わたしは辛うじて死を免れた。

嗚呼。お母様。もう貴女を舐めないから。でもね。そんなにいきなり爆発するぐらいならお父様に直接立ち向かってね。知らなかったわ。お母様って。相当苛烈なのね。

でも、子どもにとっては、八つ当たりなのよ。わかっているかしら。お母様。
わたしは衝撃のあまり気絶した。

「何やってんのおお・・・!!」
悲鳴を上げながら、祖母や親戚のおばたちが駆け寄って狂乱する獣のような母親を抑えているのを薄れゆく意識で見たわ。

遠くにいるお父様。いえあの男は、蒼白になって呆然と眺めていたわ。

あのさあ。あんた。迷惑だよ。あんたのせいでわたしまで恨まれたよ。


ええと。これって。あれかしら。今の時代では親ガチャというの?親が外れだったのかしら?

わたしはなんとなくそう感じなからだらだらと血を流して倒れたわ。

意識が消失した。

わたしは気づいたら天涯孤独になっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。 母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。 心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。 短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。 そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。 一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。 やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。 じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...