ゴミの金継ぎ師

栗菓子

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第39話 婆の子どもたち

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アクタは、復讐も終わり、旅の終わりの初めに、世話になった婆のいう息子の家によった。

息子は、アクタが来ると少し驚いた顔をして、警戒気味になったが、「婆にお世話になったアクタという者だ。
婆が旅の折に、立ち寄ってくれと言われた。」


そうアクタは言って、婆の書いた手紙を息子らしき男に渡した。


息子は婆の手紙の内容を見て、アクタを交互に見て、「大変だったなお前・・。」と家に招き入れた。



質素で古いが、手入れはしっかりとしている。頑丈で良い家だ。

「婆には色々世話になった。これは俺の作ったものと、それを売った金だ。 婆への感謝の証として受け取ってほしい。」

アクタはそう言って、息子にとても美しい椀と金子の入った袋を渡した。


「いいんですかい。旦那・・。だって旦那は冤罪で追放されたんじゃ・・?」

息子は、当惑の顔をして言った。アクタは薄く笑った。

「もう、犯人は捕まったらしい。その息子の父親の仕業だったらしい。 冤罪は間もなく晴れるだろう。

ろくでもない真実だったな。」


「ええ・・そんな真実だったんですかい。貴族ってろくでもない事をするもんだ。」

息子は実直そうな性根を現した顔をしていた。好ましい顔だ。


娘らしき女もあとから、やってきた。 隣村に嫁に行ったが、時々、走って兄の様子を見に行っているようだ。

食べ物らしきものも持っている。 差し入れだろう。素朴で善良そうな娘だ。

長年の世間の荒波を受けた食えない性根をした婆とは違って、あまり世間ずれしていないようだ。


不思議なものだ。 親子なのに・・。


「母さんとは、あまり付き合ってないんです。母さんは何かとても危ない商売をしていたらしく、犯罪じゃないけどそれに近い灰色の事をやっていたようです。そのせいか母さんはわたしたちをあまりまきこみたくないらしく真っ当な農家をやっている叔父に預けたんです。どうも、偉い人と懇意になっているらしく、色々な世界に手を突っ込んで生きているようです。」

「その代わり、叔父や親戚に何があったら、問題を解決してくれる人を手配できるようになったんです。
お陰で、叔父や親戚は何事もなく生きてゆけます。
わたしたちもちゃんと真っ当に育ててくれました。」


娘はアクタの疑問に答えるように、婆と子供たちの事情について話した。子どもたちの父親はとうに亡くなっていたそうだ。女一人ではなかなか厳しい世界だったようで、やむを得ず叔父に預けたらしい。

結果的にはそれがお互いにとって幸いで良好な運命を築いたようだ。

「・・子どもの頃は泣きましたし、つらかったけど今となってはこれで良かったと思うこともあるんですよ。」

娘はどこか達観したように母と子の歴史を語った。

「それにしても・・良かったですね。冤罪も晴れて・・もう逃げなくていいのでは?
これからアクタ様はどうなさるおつもりですか?」


娘の素朴な疑問に、アクタは笑って答えた。

「良いところを探す。 そして仕事をする。だって俺は「ゴミの金継ぎ師」なんだからな。」

アクタは、婆の笑い声を真似てカカカと笑った。

嫌な事や、憂い事も何もかも吹き飛ばすような晴天に突き抜けるような力強い笑い声をあげて笑った。


「母さんみたいな笑いをするな。アクタ様は・・」

息子と娘もつられて笑った。

何もかも夢のようだ。3人は笑いながら、婆の事情とか、人生とか、アクタの仕事とか色々と話しあった。

とても楽しかった。 久しぶりだ。こんなに人と交わったのは・・。

一夜泊まって、アクタは彼らにさよならと言った。

「ありがとうよ。楽しかったぜ。婆のお陰ですっきりしたよ。」

アクタはにっこりと息子や娘に笑いかけた。

「いやいや。俺たちも母さんの事を聞けて嬉しいですよ・・。気になっていましたからね。」

彼らは、お互いに楽しい思いを抱いて別れた。

手を振りあいながら名残惜しそうに振り向きながらアクタは去っていった。


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