ゴミの金継ぎ師

栗菓子

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第35話 アクタの復讐Ⅱ

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娘を殺された母親の願いは叶った。

普通なら、酷い噂に怒り、その噂を広めた元凶を探すだろうが、あいにく、その男は心あたりがありすぎた。

恐らく、その噂も実際に目撃した人が居たんじゃないかとあらぬ疑惑を抱くはめになった。


男は、しばらく噂が鳴りを潜めるまで大人しくして居ようかと思ったが、いざという時のために、金塊など財宝をかき集めて、逃亡の準備もしていた。

内心、理不尽な思いを抱いていた。 あの女が弱いからいけないんだ。 俺に騙されるからこうなるんだよ。馬鹿女! 穢く、無いもしていない妻を罵って、己を正当化した。男はそういう身勝手な汚濁に満ちた心を持っていた。


男は、お姫様を殺したことに全く罪悪感を抱いていなかった。唯、殺したかった。壊したかった。 どうしようもない醜い心を持った男に騙されたお姫様が愚かだったと思うだけだった。



男は、紳士の皮を被り続け、日常を過ごした。 内心歯ぎしりをするような魔女の鍋が煮えだぎっているような思いに駆られて、目の前を楽し気に通り過ぎる娘や幼子を異常な目で見ることもあった。


それを心配そうに遠くから見ている人も居た。その異常な目や、変な感じを噂を聞いていた人は、薄々気づいていたことを明確にするような感じだった。 紳士の本性が垣間見えた瞬間だった。


あんなやつに近づいたらいけない。 本能がそれを告げていた。

本性を垣間見た人は、急いで家へ帰り、家族へ変な目で娘や子供を見ていた。噂のあの男が・・と必死で語った。
家族も、その人の真剣な顔と話に何か思うことがあったようで、黙って聞いていた。


中には苦々しい顔で、証拠もないのに噂をうのみにしたらいけない。下手したら名誉損害で弱い者は訴えられるかもしれない。相手は上流の人だ。あまり関わらないほうがいい。と父親は家長として皆に諭した。


彼らはみんな頷いた。 自分の親しい人や、知人には、その事を伝えてなるべく離れていようと忠告した。

その知らされた人達も、自分の親しい奴に話して、その噂の男には近づくなと伝えた。


男は孤立するようになった。

内心男は見えない何かにじわじわと追い詰められるような感覚を味わっていた。


その噂を広めた奴らを殺したい殺意にかられたが、まだ理性が残っていた。
男は密かに、悪事の加担をした仲間と逢瀬をした。仲間が迂闊にバレるようなことを言ったのではないかとも疑心暗鬼に駆られたのだ。

「てめえ・・なにか誰かにあのことをバラしていないだろうな?」

だとしたら生かしてはおけないと凶相の顔で、男は仲間を脅した。


仲間は、ひっと怯えたように彼を見たが、だが、相手も悪党だけはあってふてぶてしく言った。

「もし・・言ったとしてどうするんだ。証拠はねえよ。あるとしたら・・女の髪が入った布団だ。 死体は水の底だからなかなか見つからないだろう。」


「なるほど・・それもそうだな。あの布団はどこにいった?」

「さあ・・いつの間にか誰かに買われていったよ。多分もうみつからないだろう。」


男は不安になった。こいつは絶対捕まらないと本気で思っているのだろうか?
思い込みが激しい奴は危険だ。 なるべく離れていようと思った。しばらく男は旅に出ようと決心した。噂が鳴りを潜めるまでだ。 あの女の両親も非常に、男を疑っている。目障りだ。何か虫や蠅が集っているような気分だ。


一度は殺そうかと思ったが、死体の処理も面倒だから止めた。


数日後、猛烈な雨が降っていた。 丁度そのごろ、男は旅に出ようと決心した。

こういう気候ではあまり人は出ない。 絶好の逃げる機会だ。


男は、裏業界の人を呼んで、馬車を呼ばせた。密かに逃げるようにした。

馬車の御者は黒い帽子を深くかぶって顔が見えなかった。

馬車に乗って、行く先を告げた後、男は安堵の息をついた。 これでしばらくは敵から離れることができる・・。


「・・やっとこの時がきましたな。あんた。」

馬車の御者は小さくぽつりとつぶやいた。

「お姫様を殺してまあ良くのうのうと生きているねエ。それが悪党の感性なのかね。俺にはあんたが理解できねえよ。うんざりだ。あんた死んでくれ。」


男は嫌そうに呟いて、目に見えない金の糸を、殺人者の首に縄のように括り付けた。

中には黒も混じっている。お姫様の髪だ。
アクタは密かにお姫様の黒髪を持って、金と銀と黒の糸をイメージして創り上げた。 断罪の縄だ。

男はぐっと首が締め付けれる感覚を味わった。何だ。これは?
こいつだ!敵は! 噂を広めたのは! 男は直感的に悟り獣のように唸って吠えた。
「お前ええええええええ・・!!」
飛び掛かろうとしたが、動かない。全身縛られたように身動きできないのだ。

「ち、畜生・・。」

男は抗ったが、余計見えない縄に縛られてだんだんきつくなっている。

異常なぎらぎらした目で、アクタを睨んだが、もう遅い。アクタは冷淡な目で死刑執行人になった。

「お前は・・お姫様を・・自分の妻となった女を殺したな。それは真実だろう?」

アクタはこの期に及んで男が嘘を言おうとしたら即座に殺すつもりだった。

しかし意外にも男は素直だった。

「あ、ああ・・殺した。邪魔だったからだ。目障りだったからだ。嫌いだった。何も知らない裕福な穢れなき女。
大嫌いだった。壊したくてたまらなかった。」

「それは‥嫉妬かい。自分より素晴らしくて綺麗で良い女だったからか? 男のくせに女に劣等感や悪意でも抱いていたのか? 何故妻にした。はじめから殺すためか?」


「ああ・・面白かった。あいつらが騙されて、俺を信頼するのは滑稽だった。あの女は人形のように綺麗だった。
でも愚かだった。だから俺に殺されたんだよ。俺のせいじゃない。騙された奴らが悪いんだ。」

「それがあんたの主張か・・。本当にあんたはお姫様にすまないとは思わないんだ。お姫様はあんたが好きだったんだよ?分かってるのか? あんた妻を殺した非道な夫だよ。」

アクタは、男の醜悪な主張、本音に怒りとやるせない思いを抱えなから、嗚呼まったく価値観が違う悪人とは合わねえな。疲れるなあ。心が消耗しそうだ。早く殺さなきゃと思った。

アクタは男の言葉を聞いたことを後悔しながら、「死んでくれ。」と言った。

耳に男の穢れが纏いつくようで気持ちが悪かった。

見えない縄が男の首をぎゅううと締め上げた。

「が、がががあああ。」

獣の断末魔のような声を上げて口から泡を吹きながら、はしたなくも下半身には黄色い水は滴っていた。臭いにおいもする。きっと大便も漏らしたな。

縄で首を締め上げると、身体は弛緩して、下半身が緩くなるらしい。

アクタは異臭に顔をしかめながらも醜く絶命した男の死に顔を見届けた。 


男が呼び寄せた裏の業者は既に殺している。あとは仲間だけだ。


上品な男の顔は、最期は本性に相応しく、ぎらぎらと目をひからせて醜い形相をして舌をたらりと垂らして異様な顔になり果てた。


アクタは唯無感動に男の死に顔を見た。そしてお姫様がされた通り、川に落とした。

犯罪を取り締まるところにアクタは匿名の手紙を出した。


「あの男は、自分の妻を殺した。よって処刑した。妻は川の底に突き落とされた。同じ目にあわせた。
遺体は川の底から見つかるだろう。」

アクタは落とした川の場所を示した地図を入れた。

そうすればお姫様の両親も喜ぶかもしれないと思ったからだ。 だって遺体も見つからない探しまわっている哀れな両親の心の慰めになればいいなと思ったからだ。

危険だとは思って要るが捕まってもかまわなかった。

しかし、なぜだかアクタは捕まらない。何故? おかっぱの幼女神が加護が強力すぎるからじゃよ。と言った。

無意識に、彼らはアクタを現世では捕まらない人と認識しているのだ。


『そなたは半分神の領域にいっているからじゃよ。人間の裁きの範疇には入らぬ。』

「そんなものなのか?でも俺は人を殺した。当然とはいえ。」

『アクタ・・彼らは死んでしかるべきものじゃ。アクタはその死へ導いたに過ぎない。これでまた犠牲者がでることもなくなるんじゃよ。アクタはやってよかったんじゃ』
「そうか・・神様がそういうならそういうことにしておくよ・・。」

「なんか疲れたな。休まさせてくれ。」

アクタは、ごとりと深い眠りについた。


眠りについたアクタをしばらく幼女神は眺めていた。そしてそこに居るのであろ。でてくるのじゃ。と言った。

怨嗟をこめたぎらぎらした男と、数人の黒い亡霊がアクタを恨めし気に見ていた。

『 怨嗟をこめた亡霊よ。だがこれは因果応報よ。そなたらが撒いた悪い種が跳ね返ってきただけの事。

アクタに恨みを持つでないわ。そなたらに相応しい死者の世界に行くがよい。とく散れ。』

威厳をこめて幼女神は唱えた。

瞬間に亡霊たちがかき消えた。あるべきところに行ったのだ。あいつらの心に相応しい世界へだ。人は恐らくそこを地獄と呼ぶかもしれない。


『当然の報いじゃよ。醜い心のままに深く他者を傷つけたものばかりいるところじゃ。』

ふうと幼女神は息をついた。


匿名の手紙によって、男の遺体と、 お姫様の遺体も損傷が激しいがやっと見つかった。

両親は嘆きながらも、遺体だけでも再会できてよかったと帰ってきたと少しだけ嬉しそうに呟いた。

お姫様の夫、醜い心をもった男の犯行は調査隊によってどんどん暴かれていった。


お姫様の髪はまばらだった。
髪はどこへと母親は尋ねたが、布団の中に入れてどこかへ売ったと仲間の証言により髪だけは見つからなかった。

仲間の証言は、反吐が出るような悪事だった。お姫様を深く玩具のように壊して殺したという話を聞いた母親は蒼白になりながらも気丈に最後まで聞いた。父親はがくりと肩を落としながら呻くようにな、何故だ。あの子がそんな目にあうんだ・・?そんな男が夫だったなんで・・と己の情けなさに号泣した。


母親は唯、どこか冷淡に父親を眺めるだけだった。

そして心の中で感謝をした。誰か分からないけど、あの男を殺して、あの男の罪を暴いてくれてありがとう。
そして私に娘を返してくれてありがとう。

あの男に相応しい末路を与えてくれてありがとう。


母親は、手を合わせて、男を処刑した誰かに感謝した。どうか捕まらないで幸福になって下さい。

貴方はわたくしに心の安寧を齎したのですから。幸福になって下さい。


噂を聞いて怪しんでいた人達は、男の突然の死によって暴かれた犯行が明るみになると、嗚呼やはり・・と噂は本当だったのだと確信をもってしばらくその事を話題にした。
夫に殺された妻の遺体も見つかって、男は紳士の皮をかぶったおぞましい獣であったことが明らかになった。



しばらくして川のほとりにはお姫様の好きだった花束が葬花として並べられた。とても綺麗でもの悲しげだった。
母親は、それを見て静かに泣き続けた。

『お母様・・わたくしはここに居りますのに‥。』

ふわふわとお姫様は、お母様に触ろうとした。でも透けて触れないのだ。嗚呼もう別の世界にいるわたくしはお母様に触れることも言うこともできない。

お姫様は今、この瞬間死んだことを実感した。


お姫様は唯、お母様とお父様が泣きながら家へ帰っていくのを見守っていた。


「お姫さん・・帰ろう。」
『お姫様。帰ろう。藍とソラも待っているぞよ。』

お姫様は振り返った。 アクタとおかっぱの幼女神だ。

嗚呼・・そうなのか。わたくしはもう新しい家族や仲間が居るのだ。アクタの旅が終わるまで付き従おう。それがわたくしの運命なのだ。あの男は地獄へ行ったと幼女神から言われたが、わたくしは果てはどこへ行くのだろうとも思った。願わくばそこはアクタや藍やソラや幼女神が居ますようにと願わずにはいられなかった。





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