ゴミの金継ぎ師

栗菓子

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第34話 アクタの復讐

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アクタは、お姫様と心を通い合わせて生きているうちに会いたかったなと思った。

だんだんと、お姫様と共に過ごせば過ごすほど、お姫様がここに生きていたら、妻にして一生大事にしたいとも思った。お姫様の心根や、優しい気性を知れば知るほど、アクタのどこか荒んだ心も和らいでいった。お姫様も、好いた男に騙されて心に深い傷を負っていることがアクタにも分かるようになった。


その心の深い傷を治してやりたいな。 そのためにはまずお姫さまを深く傷つけ苦しめた男を殺さなきゃなあとアクタは冷ややかに決心した。


加護のせいだろうか、お姫様を殺した犯人の居場所や方角がなんとなくわかるようになった。

お姫様は、怖くて会いたくないだろうだからアクタは密かに、お姫様を殺した犯人を捜索した。


数週間かかったが、ようやく犯人の匂いがするまで近づいた。

嗚呼・・あの家だ。犯人の匂いが濃厚としている。

家から出てきた数人の者達を見て、アクタは瞬時に悟った。 一番面がいい男が、お姫様を殺した男だ。
罪の匂いが濃厚としている。


上品で、とても惨たらしい殺人をしたと思えないほど、紳士だった。
男でも何も知らないと、見惚れるような佳人だった。

でもその美しい皮を剥がしたら、とんでもない獣や、化け物の顔が出てくるんだろうね。

人は見かけによらないって本当だったな。

アクタは冷ややかに、その男を観察した。

その男は何も知らずに、友人らしき者達と楽しそうに語らいながら歩いていた。

その楽し気な幸福な様子がアクタは無性にたまらなくなった。あんたはお姫様を騙して殺したんですよ。罪悪感はないんですかね。それとも獲物が死んだとしか思っていないんですか?


アクタには、その美しい男が理解できなかった。理解したくもなかった。

唯、お姫様を深く傷つけ、その両親さえも癒えぬ傷を負わせた事は解っている。

お姫様はあんたのことを好きだったんですよ。なのに、あんたはお姫様を騙して面白がって殺した。

その真実だけで、アクタにとって、その男はどうしても許せない仇になった。

心の奥底で、青白い炎が揺れた。 本当の怒りはとても青白いのだ。

アクタははじめてわかった。お姫様を好きになればなるほど、アクタは彼に対する怒りが増していった。

こいつだけは簡単に殺したくない。じわじわと蛇の生殺しのように追い詰めて殺したい。

お姫様の苦痛や他の人の苦痛も何倍にもかえしてやりたい。


アクタは、ゆっくりと策を考えた。

アクタは、哀れな無知な浮浪者の子どもを捕まえて、仕事を頼んだ。

びくびくと子どもは怯えて何をされるのかとアクタを恐ろしい者をみるように見上げた。

嗚呼お前もろくでもない奴らに酷い目にあったことがあるのか。可哀そうに。

すまないね。お金はたんとはずむから、噂を流してほしいだけだよ。


アクタはそう思って子どもを宥めた。次第に子どももアクタの害意はないと解ったようで、落ち着いていった。

「・・に兄ちゃん。おいらになにが用があるのかい?なんだい。」

アクタは子どもをなるべく怖がらせないように柔らかな口調で言った。


「お願いがあるんだよ。お金には困っているだろう。このお願いをしてくれたらたんと弾むよ。でも悪い奴や、酷い奴にはみせたらいけないよ。ちゃんと信頼できる人に見せるんだ。そしてこの事は誰にも言ってはいけないよ。」

お金・・その言葉にびくりと子どもは見上げた。弟や母親が病気だと言った。でも医者に見せる金がない。

欲しいと切実に子どもは訴えた。


わかったとアクタは頷いた。
アクタは子どもの耳に近づいて、ゆっくりと仕事の内容を伝えた。

こどもは目を見開き、それだけでいいのかと当惑したような顔をした。


あの家の男の人が、何かをしているのを見た。 なにか悲鳴も聞こえた。女の人の悲鳴だ。 とても美しい男だった。 なにかを持ち運んでいる様子も見た。


そういう嘘をつくだけでいい。周囲の見知らぬ人に話すだけでもいい。なるべく嘘を広めろ。


こどもは当惑したようにアクタを見上げた。
「でもおいらは見ていない。本当は嘘はいけない事じゃないのか?」

アクタはほおと思った。なかなかしっかりした子どもだな。ちゃんとどうしてそんな嘘をつかせるのか疑問に思っている。
このまましっかりと生きてほしいな。

「そうだね。本当は嘘はいけない事だけど・・ついてもいい嘘はいるんだ。お前はみてはいない。しかしな。

あの家の男は本当に女の人にとても酷い事をしたんだよ。それだけは真実だ。だれにもバレていないと思って要るようだけどね。

証拠もないし、見たという人も居ない。 悔しいけどね。あいつは本当は悪人だよ。 お前は俺とあいつどっちを信じる? 俺は嘘であいつを怪しむ人を増やしたい。なにか化けの皮を剥がしたい。

だからお前に嘘をつくことを頼んだ。本当はいけない事だからいっぱいお金は弾むよ。」


こどもはしばらくアクタの顔を凝視して、話を必死で聞いていた。 子どもはそれを聞いてしばらく悩んでいたが、

兄ちゃんを信じる。ついてもいい嘘もあるってことを信じる。

おいらなるべく嘘を広めるよ。そして逃げる。 兄ちゃんそしたら金をくれるなと懇願するように頼んだ。


アクタは約束は守ると子どもに言った。


こどもは頷いて去っていた。


数日後、こどもはアクタと出会ったところを探しまわっていた。

アクタの顔をみてほっとしたように「よ。よかった。ここにいたんだ・・。」気が抜けたように脱力した。
ずっと緊張していたらしい。

「すまないね。お前に重い仕事を頼んでしまったようだ・・。大変だったろう。」

アクタは労った。 優しく子どもを撫でた。

こどもはなんだか嬉しそうだった。

「兄ちゃん・・。あのな。他の仲間たちにもこの仕事を言ったんだ。そしたら、たかが嘘位でそれが本当がどうかわかるんならいいんじゃないかって。一番頭が回る子どもが言ったんだ。みんなで嘘を広めたよ。あの家の男はおかしいとか、なにか危ないことをしているんじゃないかってうまい事広めたよ。」

「そうか・・そうかもしれんな。でも嘘はこれきりにしろよ。危ないからな。」

アクタはお金がいっぱいつまった袋をこどもに渡した。

「これはこどもたちにも分けろ。病気の母親と弟のためのお金はとっとけよ。奪い合いにならないように気を付けろ。」


アクタは子どものために色々と忠告した。

こどもは真剣にアクタの言うことを聞いた。

「兄ちゃん・・ありがとう。おいらのために色々と教えてくれて・・。これで母ちゃんも弟も助かるかもしれない・・。」

こどもは大切そうに袋を抱えて手を振って走り去った。

ごめんな。大変な仕事をさせて・・。でもどうしても許せない男を破滅するためなら噂で追い詰めたかった。

やってもいない事でも嘘の噂を広められたら、どうしようもないこともあるとある客がいった。
必死で、誤解や、噂の元を消すのに苦労したとアクタは聞いた。

ならば思い当たることがあるやつに嘘の噂を広めたらどうかな?

さぞや顔面蒼白になるだろうよ。あの野郎ども。


アクタは子どもたちに感謝しながら、詫びながらも、復讐の悦びに目覚めた。


子どもたちは仕事を上手くやったようで、男は周囲の噂の中心人物となった。

男は必死で表面的には何も感じないようにしていたが、冷や汗とか流していた。

庶民の主婦や、近隣関係の富裕者の界隈にも噂は流れていた。

ひそひそと彼女や、彼らはツバメのように語り合った。

ねえ、あの噂知っている? あの家の男、女の人を殺したらしいよ。なにか運ばれるのも見た人も居るみたい。

その女の人って誰かしら?まさか奥様? 

さあ・・しかしいきなりあの男の妻は消えたな。それだけは確かだ。とても上流の方だったから、そうたいそれたことをするはずなどないが・・家出しようにもできぬだろう。深窓の令嬢だったのだから。
だれかに何かされたことは確かだ。

面白半分に噂について話し合っていた彼らだったが、かすかに男に対して疑惑の種がまかれたことは間違いない。

まさか・・とかすかに彼らや彼女らは徐々に噂の男を怪しみはじめた。


男を避けはじめていく人たちも増えた。
その噂を聞いたお姫様の両親も身体を震わせながら、父親は当惑しながらもまさかと半信半疑になって、母親はやはりと確信を抱いてわなわなと手を震わせた。

憎悪と怒りが男に向いた。 証拠はないもない。ないが・・母親は直感で娘を殺した男が解っていた。


あの男を問い詰めたい。あの男から真実を吐き出させたい。でもあの男は絶対に己の不利になることは言わないだろう。 母親はそう理解していた。

だれかあの男に罰をあたえてくれまいか。母親はそう願わずにはいられなかった。

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