ゴミの金継ぎ師

栗菓子

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第29話 アクタの復元能力

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アクタは唯ひたすらに能力開発に勤しんだ。

アクタは密かに、闇のバイトで惨たらしい死体を片付ける仕事も請け負った。その死体は事故で亡くなったり、縁故がなく無縁仏として誰にも知られることなく葬られる人ばかりだった。

こんなに孤独で一人で生きて死ぬ人が多いんだな・・。アクタは思った。
無いもない階級で生まれた人は、ほとんどが無知で奴隷のような仕事を請け負い、重労働で怪我したり、亡くなっていく。

今回の死人は、高いところへ登って、貴重な花や植物や実をとってこいと危険な仕事を上司に言われて、誤って落下したらしい。その死人は奴隷同様だったので、調査もせず、犬や猫やモノのように捨ててくれとぞんざいな扱いを受けて居た。

顔や身体は惨たらしく潰れて腐った実のようだった。アクタは嗚呼・・俺も貧しい境遇で生まれたけど下には下がいるんだ。だれからも知られずに死んでいく人は多いんだな・。

アクタはなんだか世界の虚無を味わった。
せめてこの顔や、身体だけは綺麗にしてやりたい・・。アクタはそう祈った。
すると、アクタの身体から、見えない金と銀の糸がで出てきて、千切れた肉片がみるみる修復されていった。
喪ったものは、他の綺麗なもので補充され、以前より美しい死に顔と身体ができあがった。

潰れた目はどこかに飛び出して見つからなかったので、アクタは硝子で創った義眼を埋め込んだ。

なんだかアクタは死体の人形を作っているようだった。

アクタは最後にそこらへんに咲いている花を葬花として胸に置いた。

それを見ていた老人の死体処理人が子どものように目を輝かせていた。

「こりゃあ。びっくりした。こんなに死体が綺麗になるなんであんた凄いやつだな。
この能力や技術はとんでもなく売れるんじゃないのかい?勿体ねえことするなあ。こんな赤の他人のごみによお。」

老人は呆れ半分、興味半分でぶつぶつと呟いた。

ゴミ?死体が? アクタは何故ゴミというのかと尋ねた。

「だってよお。こんなやつら。ゴミのような生き方をして死んでいった奴らだよ。死んだらみんなゴミだよ。もう使えないし、何もならないから。」

なるほど、老人の言うことも一理ある。

死んだらゴミか・・。虚しいけどそれは真理をついているともいえる。

ならばアクタはさしずめ、「 ゴミの金継ぎ師 」とやらになったのかもしれない。


アクタは最後には綺麗にしたかった。ゴミが綺麗になっても誰も文句言うまい。

これはアクタの自己満足でもあった。だんだんアクタはなんでも綺麗に直したい。修復したい。と願うようになった。
どんなゴミでも美しくする「金継ぎ師」としてアクタは闇の世界でも有名になっていった。



実は、アクタはもう一つ考えていることがあった。

瀕死状態の人を試しに能力を使ってみたら、みるみると重度の傷が塞がり、表面上、健康体に復元できたのだ。

アクタはこれは治療にも使えるのではないかと思った。
もしかしたら死体さえも蘇生させる能力に進化するかもと考えたが、失敗もあった。
表向き健康な身体に戻ったように見えた患者は、だんだん弱って死んでいった。

何故? 生命力?命そのものが戻らなくなっていくのか?

どうも死に近すぎた人は、死の世界へ戻るらしい。 余程生きたいと純粋に思うもの・・藍とソラのような純粋な思いをもった動物位生きることにひたむきなものはない。

殆どの人が、生きることに諦めて、死の世界へ帰っていく。何故だろう?

そんなに生きることは嫌なのか?辛かったのか?もう力がないのか・


アクタにはわからないことばかりだった。



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