ゴミの金継ぎ師

栗菓子

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第23話 アクタの進化

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目を奪われてから、アクタは一週間深い眠りについた。

嗚呼・・心配そうに犬と猫が視ている。犬が心細そうにアクタの頬を舐めている。早く起きてほしいのだろうか?

アクタは幽体離脱をしているのか・・どこかでアクタ自身の眠りについた姿と、犬と猫を上位空間で見ているような感じだった。


おかっぱの幼女神がアクタの霊体に気づいて、珍しく顔をほころばせた。

『よく耐えたな。アクタよ。お前には強力な加護を身に付けてしまった。これから色々な能力が覚醒するぞ。
人間にも火事場の馬鹿力があるだろう。あれじゃよ。潜在能力を引き出し、更に神の加護によって、神の力も身に付けてしまった。アクタはしばらく能力の使い方を学ぶんじゃ・・。
アクタは割れた椀とか欠片を修繕する「金継ぎ師」だったから・・恐らく、その能力が増幅されてなんでも修繕されるぞ。人間の身体や心もな・・。人間も精密な有機体じゃ。神が泥から作った人形の逸話もある。ならば、人間も簡単にアクタは治せるようになる。それどころが、前より遥かに上等な存在に仕上げることもできるかもしれんよ。』


「はあ?」

アクタは間抜けな声を上げた。それは昔の聖人のようなものでは・・?

お姫様の亡霊が不意に現れた。
『アクタ様。よく耐えられましたね。わたくし、アクタ様がそんな試練を超え、耐えるとは思っていませんでした。
思っていたより、アクタ様は激情家で、苛烈な面がおありになったのですね。わたくし、感嘆いたしました。』

お姫様は少し、悲し気に自嘲した。

『わたくしも。アクタ様のように立ちむかえる勇気があったなら‥あの男にかなわぬまでも些細な傷を与えればよかった。』

アクタは不意にお姫様が時々消えるのを知っていた。どこかに行っているとは知っていたが、妙にアクタは悟った。
「お姫様。もしかして貴女は自分を殺した男に会いに行ったのかい。」

『ええ・・でもあの男はわたくしの気配に気づきません。あの男はとても怖い人です。わたくし以外に何人も殺しています。異常な心と、凶運を持った男です。わたくしの母親は、あの男がわたくしを殺したことに気づいています。
でも証拠がなくて情けなきことですが、わたくしの父親はあの男に騙されて、誰かに攫われたと思っています。
真実に気付いているのは、わたくしの母親だけでしょう。』

「お姫様・・お姫様の遺体はどこにあるんだい。」

『見も知らぬ川に捨てられました。恐らくどこかの水底に沈んでいるでしょう。あの男は悪運が強いから悔しいけど
わたくしのような亡霊は見えません。何か変なものにまもられているように悠々自適と暮らしています。』


お姫様は、生きている時も、死んだ後も何もできぬ自分を歯がゆく呪ったこともあった。
しかし今は、アクタのような男に出会えて、これは神様のせめての祝福だろうかと思ったこともある。


アクタは、犬と猫の命をあんな怖い神様に捧げるようなお方ではなかった。自己犠牲に満ちて、思わぬ勇気がある
思いもがけない立派な男だった。知れば知るほど、アクタの優しさ、勇敢さに惹かれていった。


霊体なら、心も筒抜けだ。お姫様のほのかな淡い慕情がアクタに向けられていることをアクタは知った。

アクタはなんとなく当惑したが、こんな綺麗なお姫様に慕われるのは悪くはない。

アクタはありがとう。お姫様。俺もお姫様に出会えてよかったよ。と素直に告白した。


お姫様はアクタに受け入れられた事を知って花のような笑顔を見せた。

嗚呼‥生きているうちに会いたかったな・・アクタはそれを少し残念に思った。

もう体にもどらなきゃ・・アクタの何かが忠告した。

急速に幽体が身体に吸い込まれるような感覚がした。


アクタは目覚めた。犬と猫が嬉しそうに舐めていた。よしよしとアクタは苦笑しながら撫でた。

お姫様・・俺はあんたを殺した奴に復讐するよ。俺たちを苦しめた奴らに必ず相応の報いを与えてやる。


アクタは復讐の意思を秘めた男として蘇った。


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