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第22話 アクタと盗賊団の子どもの回想
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父ちゃんはいつも疲れていた。
俺は子どものころから、父ちゃんの仕事を手伝っていた。
泣き喚く獲物から、物品や、金目のものをかっぱらっていた。
大人の怖い男たちは、父親らしき男の目の前で、娘や妻を犯して、見せびらかしていた。可哀そうに。その男は血の涙を流していた。目が血走って血管が切れたんだ。
そんなに辛いのかな。家族が目の前で犯されて奪われるのは。俺は子どものころからこれが日常だから何も感じなかったけど、父ちゃんは、元は真っ当な農家をやっていた。でも度重なる戦争と重課税で父ちゃんは逃亡農民になった。
父ちゃんはもう亡くなった母ちゃんが好きだったみたいだ。そのせいかあまり父ちゃんは女が犯されるのを見たくないそぶりを見せた。どこか嫌悪を抱えていたようだ。
そんなに女って、母ちゃんは良かったのかな?
俺は幼い頃、病気で亡くなった母ちゃんは覚えていないから分からない。唯、父ちゃんは、いつも、辞めたがっていた。
「おめえをこんな地獄にいつまでも置きたくねえ。本当はあんな奴ら嫌いなんだよ。でも母ちゃんが死んじまって、父ちゃんは全てを失った。だから生きるために、仕方かなくあいつらと仲間になった。おめえは母ちゃんと好きあって生まれた子なんだ。あんな奴らがやっていることと違う。あれは強姦と略奪だ。愛じゃねえ。あんなもの愛じゃねえ。」
「女は本当は嫌な奴とは愛せないんだ。間違っているんだよ。」
おれは父ちゃんと母ちゃんが好きあって生まれた子らしい。
驚いた。だって俺の前には女がいつも男に嬲られて殺されていく光景があるもの。時折、喚きながら、恋人らしき男が女を抱いて、共に穢されるぐらいなら自害したこともある。そんなに嫌だったんだろうか?そんなに辛かったんだろうか?
愛って何だろう。おれは父ちゃんが好きだから一緒に居るけど、やっぱり母ちゃんがいないからだろうか?
どこかおれには女には希薄な別の生き物にしか見えない。
ある日、父ちゃんがこっそりと女の子を連れてきた。可愛い女の子だった。怯えた痩せた子猫のように震えていた。
父ちゃんの仲間の娘らしい。またびっくりした。あの女ばかりを殺している奴らに娘が・・?
一番強い仲間には密かに気に入っていた女が居たらしい。その男は、その女を牢屋に閉じ込めて、独占していたらしい。そいつらになにかあったかはわからない。
とにかくしばらく男と女は付き合って、閨を共にして、赤子を孕んで女は産褥で息絶えたらしい。赤子は娘だったようだ。 とても可愛い娘だった。
男は、娘を殺さず、女を閉じ込めた牢屋で育てた。誰にも奪われぬよう、誰にも殺されない様、鍛えていたらしい。
怯えているように見えているが、その娘はいざとなると、ためらわなく敵の首を掻き切った。
やはり盗賊の血を引いているんだ。
父ちゃんは、珍しく一番強い仲間に気に入られて、娘を預けられた。悔しいけど父ちゃんのほうが弱かった。
俺はつっけっどんにあんたの名はと言った。唯の盗賊団の娘よ。名は無いわ。
嘘お。おれは叫んだ。おれだって、名前があるのに。母ちゃんは珍しい果実が好きだったから、サグロと名付けられた。
やっぱり可笑しな父親だ。何で名前つけないんだろう?
おれは素朴な疑問に満ち溢れた。そんなおれを冷たい爬虫類の目で見据えながら、語った。
「あんた、結構、親に愛されているね。世の中には愛が解らない奴も居るんだよ。あたしの父さんもそうらしい。
あたしの母だけは気にいっていたようだけど、あたしが生まれるとすぐに死んじまった。迷惑だよ。父さんはいつもその事で怒るんだよ。情けない。早く逃げおって。俺から逃げた薄情者。あたしは呆れたよ。だって妊娠は本当は女の命を削る行為さ。あたしが生まれたから母さんは力尽きたんだよ。それが母さんの限界だったんだ。
母さんにはすまないと思うけど、よりにもよってあの男が父親とはね・・。あたしより子どもだよ。情けなくってさ・・。」
おれはぽかんと口を開けた。目からウロコが出たようだった。
ああ。ああ。そうか。あの男は子どもより幼稚なんだ。先に好きだった女が死んだことに腹を立てているんだ。
なんで幼稚なんだ。
俺は父ちゃんが父ちゃんで良かったとじみじみと実感した。
娘は年よりも老成した表情で、ぼつりと言った。
あんたが羨ましい。あんたの父ちゃんは結構まともで女を好きになる感覚や愛を知っている。
でもあたしの親は壊れている。
壊れている?どこが?おれはまた疑問に満ち溢れた。
いつかわかるよ・・と名無しの娘は無表情で言った。
な、なんだよ‥俺は思わず怖くなった。なんだか底なし沼にはまり込むようだった。
俺はやめろよと言って去った。
娘の壊れているという言葉を実感したのは、あとになって嫌というほどわかった。そしてこのことが父ちゃんの盗賊団の夜逃げと、俺の運命も決まったのだ。
あの時、、もっと名無しの娘の言葉を知ればよかった。俺は殺されながらそう思った。
最期に父ちゃんからもらった秘密の鍵を見知らぬ男に渡した。お人よしの男。こんな見ず知らずの盗賊団の子どもまで助けようとするなんで・・嗚呼こんな人も居るんだなあ。
父ちゃんは正しかった。俺たちは地獄に居たんだ。俺だけが気づかなかったんだ。
ごめんよ。父ちゃん。母ちゃん。死んじまった女達。
俺たち本当は悪い事をしていたんだなあ。
最後に会った良い奴はアクタと言った。
俺は子どものころから、父ちゃんの仕事を手伝っていた。
泣き喚く獲物から、物品や、金目のものをかっぱらっていた。
大人の怖い男たちは、父親らしき男の目の前で、娘や妻を犯して、見せびらかしていた。可哀そうに。その男は血の涙を流していた。目が血走って血管が切れたんだ。
そんなに辛いのかな。家族が目の前で犯されて奪われるのは。俺は子どものころからこれが日常だから何も感じなかったけど、父ちゃんは、元は真っ当な農家をやっていた。でも度重なる戦争と重課税で父ちゃんは逃亡農民になった。
父ちゃんはもう亡くなった母ちゃんが好きだったみたいだ。そのせいかあまり父ちゃんは女が犯されるのを見たくないそぶりを見せた。どこか嫌悪を抱えていたようだ。
そんなに女って、母ちゃんは良かったのかな?
俺は幼い頃、病気で亡くなった母ちゃんは覚えていないから分からない。唯、父ちゃんは、いつも、辞めたがっていた。
「おめえをこんな地獄にいつまでも置きたくねえ。本当はあんな奴ら嫌いなんだよ。でも母ちゃんが死んじまって、父ちゃんは全てを失った。だから生きるために、仕方かなくあいつらと仲間になった。おめえは母ちゃんと好きあって生まれた子なんだ。あんな奴らがやっていることと違う。あれは強姦と略奪だ。愛じゃねえ。あんなもの愛じゃねえ。」
「女は本当は嫌な奴とは愛せないんだ。間違っているんだよ。」
おれは父ちゃんと母ちゃんが好きあって生まれた子らしい。
驚いた。だって俺の前には女がいつも男に嬲られて殺されていく光景があるもの。時折、喚きながら、恋人らしき男が女を抱いて、共に穢されるぐらいなら自害したこともある。そんなに嫌だったんだろうか?そんなに辛かったんだろうか?
愛って何だろう。おれは父ちゃんが好きだから一緒に居るけど、やっぱり母ちゃんがいないからだろうか?
どこかおれには女には希薄な別の生き物にしか見えない。
ある日、父ちゃんがこっそりと女の子を連れてきた。可愛い女の子だった。怯えた痩せた子猫のように震えていた。
父ちゃんの仲間の娘らしい。またびっくりした。あの女ばかりを殺している奴らに娘が・・?
一番強い仲間には密かに気に入っていた女が居たらしい。その男は、その女を牢屋に閉じ込めて、独占していたらしい。そいつらになにかあったかはわからない。
とにかくしばらく男と女は付き合って、閨を共にして、赤子を孕んで女は産褥で息絶えたらしい。赤子は娘だったようだ。 とても可愛い娘だった。
男は、娘を殺さず、女を閉じ込めた牢屋で育てた。誰にも奪われぬよう、誰にも殺されない様、鍛えていたらしい。
怯えているように見えているが、その娘はいざとなると、ためらわなく敵の首を掻き切った。
やはり盗賊の血を引いているんだ。
父ちゃんは、珍しく一番強い仲間に気に入られて、娘を預けられた。悔しいけど父ちゃんのほうが弱かった。
俺はつっけっどんにあんたの名はと言った。唯の盗賊団の娘よ。名は無いわ。
嘘お。おれは叫んだ。おれだって、名前があるのに。母ちゃんは珍しい果実が好きだったから、サグロと名付けられた。
やっぱり可笑しな父親だ。何で名前つけないんだろう?
おれは素朴な疑問に満ち溢れた。そんなおれを冷たい爬虫類の目で見据えながら、語った。
「あんた、結構、親に愛されているね。世の中には愛が解らない奴も居るんだよ。あたしの父さんもそうらしい。
あたしの母だけは気にいっていたようだけど、あたしが生まれるとすぐに死んじまった。迷惑だよ。父さんはいつもその事で怒るんだよ。情けない。早く逃げおって。俺から逃げた薄情者。あたしは呆れたよ。だって妊娠は本当は女の命を削る行為さ。あたしが生まれたから母さんは力尽きたんだよ。それが母さんの限界だったんだ。
母さんにはすまないと思うけど、よりにもよってあの男が父親とはね・・。あたしより子どもだよ。情けなくってさ・・。」
おれはぽかんと口を開けた。目からウロコが出たようだった。
ああ。ああ。そうか。あの男は子どもより幼稚なんだ。先に好きだった女が死んだことに腹を立てているんだ。
なんで幼稚なんだ。
俺は父ちゃんが父ちゃんで良かったとじみじみと実感した。
娘は年よりも老成した表情で、ぼつりと言った。
あんたが羨ましい。あんたの父ちゃんは結構まともで女を好きになる感覚や愛を知っている。
でもあたしの親は壊れている。
壊れている?どこが?おれはまた疑問に満ち溢れた。
いつかわかるよ・・と名無しの娘は無表情で言った。
な、なんだよ‥俺は思わず怖くなった。なんだか底なし沼にはまり込むようだった。
俺はやめろよと言って去った。
娘の壊れているという言葉を実感したのは、あとになって嫌というほどわかった。そしてこのことが父ちゃんの盗賊団の夜逃げと、俺の運命も決まったのだ。
あの時、、もっと名無しの娘の言葉を知ればよかった。俺は殺されながらそう思った。
最期に父ちゃんからもらった秘密の鍵を見知らぬ男に渡した。お人よしの男。こんな見ず知らずの盗賊団の子どもまで助けようとするなんで・・嗚呼こんな人も居るんだなあ。
父ちゃんは正しかった。俺たちは地獄に居たんだ。俺だけが気づかなかったんだ。
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