ゴミの金継ぎ師

栗菓子

文字の大きさ
上 下
22 / 58

第22話 アクタと盗賊団の子どもの回想

しおりを挟む
父ちゃんはいつも疲れていた。
俺は子どものころから、父ちゃんの仕事を手伝っていた。

泣き喚く獲物から、物品や、金目のものをかっぱらっていた。
大人の怖い男たちは、父親らしき男の目の前で、娘や妻を犯して、見せびらかしていた。可哀そうに。その男は血の涙を流していた。目が血走って血管が切れたんだ。

そんなに辛いのかな。家族が目の前で犯されて奪われるのは。俺は子どものころからこれが日常だから何も感じなかったけど、父ちゃんは、元は真っ当な農家をやっていた。でも度重なる戦争と重課税で父ちゃんは逃亡農民になった。
父ちゃんはもう亡くなった母ちゃんが好きだったみたいだ。そのせいかあまり父ちゃんは女が犯されるのを見たくないそぶりを見せた。どこか嫌悪を抱えていたようだ。

そんなに女って、母ちゃんは良かったのかな?
俺は幼い頃、病気で亡くなった母ちゃんは覚えていないから分からない。唯、父ちゃんは、いつも、辞めたがっていた。

「おめえをこんな地獄にいつまでも置きたくねえ。本当はあんな奴ら嫌いなんだよ。でも母ちゃんが死んじまって、父ちゃんは全てを失った。だから生きるために、仕方かなくあいつらと仲間になった。おめえは母ちゃんと好きあって生まれた子なんだ。あんな奴らがやっていることと違う。あれは強姦と略奪だ。愛じゃねえ。あんなもの愛じゃねえ。」
「女は本当は嫌な奴とは愛せないんだ。間違っているんだよ。」

おれは父ちゃんと母ちゃんが好きあって生まれた子らしい。
驚いた。だって俺の前には女がいつも男に嬲られて殺されていく光景があるもの。時折、喚きながら、恋人らしき男が女を抱いて、共に穢されるぐらいなら自害したこともある。そんなに嫌だったんだろうか?そんなに辛かったんだろうか?

愛って何だろう。おれは父ちゃんが好きだから一緒に居るけど、やっぱり母ちゃんがいないからだろうか?
どこかおれには女には希薄な別の生き物にしか見えない。


ある日、父ちゃんがこっそりと女の子を連れてきた。可愛い女の子だった。怯えた痩せた子猫のように震えていた。
父ちゃんの仲間の娘らしい。またびっくりした。あの女ばかりを殺している奴らに娘が・・?

一番強い仲間には密かに気に入っていた女が居たらしい。その男は、その女を牢屋に閉じ込めて、独占していたらしい。そいつらになにかあったかはわからない。
とにかくしばらく男と女は付き合って、閨を共にして、赤子を孕んで女は産褥で息絶えたらしい。赤子は娘だったようだ。 とても可愛い娘だった。

男は、娘を殺さず、女を閉じ込めた牢屋で育てた。誰にも奪われぬよう、誰にも殺されない様、鍛えていたらしい。

怯えているように見えているが、その娘はいざとなると、ためらわなく敵の首を掻き切った。

やはり盗賊の血を引いているんだ。
父ちゃんは、珍しく一番強い仲間に気に入られて、娘を預けられた。悔しいけど父ちゃんのほうが弱かった。

俺はつっけっどんにあんたの名はと言った。唯の盗賊団の娘よ。名は無いわ。

嘘お。おれは叫んだ。おれだって、名前があるのに。母ちゃんは珍しい果実が好きだったから、サグロと名付けられた。

やっぱり可笑しな父親だ。何で名前つけないんだろう?

おれは素朴な疑問に満ち溢れた。そんなおれを冷たい爬虫類の目で見据えながら、語った。

「あんた、結構、親に愛されているね。世の中には愛が解らない奴も居るんだよ。あたしの父さんもそうらしい。
あたしの母だけは気にいっていたようだけど、あたしが生まれるとすぐに死んじまった。迷惑だよ。父さんはいつもその事で怒るんだよ。情けない。早く逃げおって。俺から逃げた薄情者。あたしは呆れたよ。だって妊娠は本当は女の命を削る行為さ。あたしが生まれたから母さんは力尽きたんだよ。それが母さんの限界だったんだ。
母さんにはすまないと思うけど、よりにもよってあの男が父親とはね・・。あたしより子どもだよ。情けなくってさ・・。」
おれはぽかんと口を開けた。目からウロコが出たようだった。

ああ。ああ。そうか。あの男は子どもより幼稚なんだ。先に好きだった女が死んだことに腹を立てているんだ。
なんで幼稚なんだ。

俺は父ちゃんが父ちゃんで良かったとじみじみと実感した。

娘は年よりも老成した表情で、ぼつりと言った。

あんたが羨ましい。あんたの父ちゃんは結構まともで女を好きになる感覚や愛を知っている。

でもあたしの親は壊れている。

壊れている?どこが?おれはまた疑問に満ち溢れた。

いつかわかるよ・・と名無しの娘は無表情で言った。

な、なんだよ‥俺は思わず怖くなった。なんだか底なし沼にはまり込むようだった。

俺はやめろよと言って去った。


娘の壊れているという言葉を実感したのは、あとになって嫌というほどわかった。そしてこのことが父ちゃんの盗賊団の夜逃げと、俺の運命も決まったのだ。

あの時、、もっと名無しの娘の言葉を知ればよかった。俺は殺されながらそう思った。


最期に父ちゃんからもらった秘密の鍵を見知らぬ男に渡した。お人よしの男。こんな見ず知らずの盗賊団の子どもまで助けようとするなんで・・嗚呼こんな人も居るんだなあ。

父ちゃんは正しかった。俺たちは地獄に居たんだ。俺だけが気づかなかったんだ。
ごめんよ。父ちゃん。母ちゃん。死んじまった女達。
俺たち本当は悪い事をしていたんだなあ。

最後に会った良い奴はアクタと言った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...