ゴミの金継ぎ師

栗菓子

文字の大きさ
上 下
14 / 58

第14話 アクタの海

しおりを挟む
穴を掘る人達が作ったトンネルをかすかな明かりを頼りにアクタは、長い間、歩いた。

誰も居ない。アクタだけのようだ。いや、猫と犬の生きている呼吸がする。

「神様、お姫様 怖いから何か話してください。この洞窟みたいなトンネルは何なんでしょうね?」

『ここは、昔、さる城主が品物や食料を運ぶために人夫に任せてつくらせたトンネルじゃ。しかし石など落ちてきたり、壁が崩れたりかなり危険な作業だったようじゃ。何人も事故で亡くなった人も居るようじゃ。ところどころに
まだ死んでいることに気づいていない亡者も居る。哀れな事じゃ。早く気づいて天に昇ればよいのに。』

お姫様も語った。
『わたくしにも見えまする。悪い事はしなそうですが、いまだに自分がどうなっているのかわからないままさ迷っていますよ。早く気づくといいのですが‥。』


「昔の人たちも大変だったんだな。」

アクタはそう呟いて、先人が作ったトンネルを歩いた。
すまねえな。あんたたちがつくったトンネルを使うのも何かの縁だろうな。 早く気づいて天に昇るといいな。
アクタは、乾燥した良い匂いがする花束をトンネルの横に供えた。果物も食べ物と水も少し供えた。
これであいつらも死んだことがわかって天に昇るといいんだが・・。

アクタは気の毒な人たちのために鎮魂を願った。

『アクタ・・』『アクタ様・・』

幼女神とお姫様はアクタの供養を見て唯、名前を呟いた。

『そなたは強いのお。アクタ。まっとうで健やかな魂を持っておる。』

『ええ。アクタ様と一緒に居ると、心が休まり、ほっとします。まるで神様のようですね。』

『そうじゃのお。あたしも一応神なんだけどね。』

あ、とお姫様はすまなそうに口元を抑えた。

『済みません。神様にそんなことをいって・・失礼でしたか?』

『いや‥アクタのほうが神様らしいよ・・死者の鎮魂もするし、生者を幸福にすることもできるから・・ちょっと悔しいのお。』


おかっぱの幼女神は膨れ顔をした。

お姫様は思わずくすりと笑いそうになった。

そんなにぎやかな仲間の話をつづけながらアクタは長いトンネルを抜けた。

暗いトンネルを抜けた後は、アクタは目を見開いた。

まるで別世界だった。 森林とかすかに見える青い海。 嗚呼始めて見る。これが海なんだ。なんで広大な水たまりなんだ。端が視えねえ。どこまでも続く青い水溜まり。

かすかに塩の匂いがする。

『海は塩の水じゃよ。だから直接飲んでいかん。』『魚や食べられる海藻もある。』

おかっぱの幼女神はそう忠告したが、アクタははじめて見る海に興奮を抑えられなかった。

嗚呼‥何で凄いんだ。世界ってこんなに広いんだ。アクタは故郷から随分離れたところにいると実感した。


おかっぱの幼女神が、遠目をして言った。
『 白い砂のある海岸が先にあるそうじゃ。そこは地元もあまりいかない隠れ場所のようで、あまり人は訪れぬ。』
『アクタよ。そこが今夜の寝床にいいぞ。』

「 分かった。」

アクタは神様の言う通り、荷台を動かして、暗くなる前に、息切れしながら白い砂のある海岸まで辿りついた。


シンと耳が痛くなるほどの静寂と、美しい白い砂。 白い泡をした波が繰り返し打ち寄せている。

そんな幻想的な美しい光景にアクタはしばらく見惚れた。

夕暮れになっていた。空も夕暮れで赤や蜜柑のような色、深い藍色、様々な色に染まってこの光景は一生忘れられない絶景だとアクタは思った。


犬と猫が甘えるようにアクタの太ももに足を乗せた。

「嗚呼‥お前らごめんよ。よく頑張ったな。ご飯にしよう。この砂なら足も痛まねえ。歩いていいんだぜ。

思い切り遊びな。ごはんの用意はするからよ。」

犬と猫は嬉しそうに海岸を走り回った。珍しそうな貝殻を漁ったり、海の波をそっと触れたりぱっと離れたり、彼らは遊ぶのに一生懸命だった。


アクタは犬と猫のために柔らかい飯と水を用意した。

随分と、犬と猫のお陰でアクタは救われている。生きている命が遊んでいるのを見るとアクタの心は休まる。

神様とお姫様も救いになるが彼女らはもうこの世の存在ではない。


嗚呼、俺は死者や神様や生きている命に救われているのかもしれねえな。俺だけじゃあ恨んで自殺していたかもしれねえ。こんな人生と泣きわめいていたかもしれない。

でもそうならなかったのは仲間のお陰だ。


災い転じて福となす。 正にアクタの人生のようだ。こんな美しい絶景を見られるとは思わなかった。

アクタは己の幸運に感謝した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!

ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。 私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...