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第14話 アクタの海
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穴を掘る人達が作ったトンネルをかすかな明かりを頼りにアクタは、長い間、歩いた。
誰も居ない。アクタだけのようだ。いや、猫と犬の生きている呼吸がする。
「神様、お姫様 怖いから何か話してください。この洞窟みたいなトンネルは何なんでしょうね?」
『ここは、昔、さる城主が品物や食料を運ぶために人夫に任せてつくらせたトンネルじゃ。しかし石など落ちてきたり、壁が崩れたりかなり危険な作業だったようじゃ。何人も事故で亡くなった人も居るようじゃ。ところどころに
まだ死んでいることに気づいていない亡者も居る。哀れな事じゃ。早く気づいて天に昇ればよいのに。』
お姫様も語った。
『わたくしにも見えまする。悪い事はしなそうですが、いまだに自分がどうなっているのかわからないままさ迷っていますよ。早く気づくといいのですが‥。』
「昔の人たちも大変だったんだな。」
アクタはそう呟いて、先人が作ったトンネルを歩いた。
すまねえな。あんたたちがつくったトンネルを使うのも何かの縁だろうな。 早く気づいて天に昇るといいな。
アクタは、乾燥した良い匂いがする花束をトンネルの横に供えた。果物も食べ物と水も少し供えた。
これであいつらも死んだことがわかって天に昇るといいんだが・・。
アクタは気の毒な人たちのために鎮魂を願った。
『アクタ・・』『アクタ様・・』
幼女神とお姫様はアクタの供養を見て唯、名前を呟いた。
『そなたは強いのお。アクタ。まっとうで健やかな魂を持っておる。』
『ええ。アクタ様と一緒に居ると、心が休まり、ほっとします。まるで神様のようですね。』
『そうじゃのお。あたしも一応神なんだけどね。』
あ、とお姫様はすまなそうに口元を抑えた。
『済みません。神様にそんなことをいって・・失礼でしたか?』
『いや‥アクタのほうが神様らしいよ・・死者の鎮魂もするし、生者を幸福にすることもできるから・・ちょっと悔しいのお。』
おかっぱの幼女神は膨れ顔をした。
お姫様は思わずくすりと笑いそうになった。
そんなにぎやかな仲間の話をつづけながらアクタは長いトンネルを抜けた。
暗いトンネルを抜けた後は、アクタは目を見開いた。
まるで別世界だった。 森林とかすかに見える青い海。 嗚呼始めて見る。これが海なんだ。なんで広大な水たまりなんだ。端が視えねえ。どこまでも続く青い水溜まり。
かすかに塩の匂いがする。
『海は塩の水じゃよ。だから直接飲んでいかん。』『魚や食べられる海藻もある。』
おかっぱの幼女神はそう忠告したが、アクタははじめて見る海に興奮を抑えられなかった。
嗚呼‥何で凄いんだ。世界ってこんなに広いんだ。アクタは故郷から随分離れたところにいると実感した。
おかっぱの幼女神が、遠目をして言った。
『 白い砂のある海岸が先にあるそうじゃ。そこは地元もあまりいかない隠れ場所のようで、あまり人は訪れぬ。』
『アクタよ。そこが今夜の寝床にいいぞ。』
「 分かった。」
アクタは神様の言う通り、荷台を動かして、暗くなる前に、息切れしながら白い砂のある海岸まで辿りついた。
シンと耳が痛くなるほどの静寂と、美しい白い砂。 白い泡をした波が繰り返し打ち寄せている。
そんな幻想的な美しい光景にアクタはしばらく見惚れた。
夕暮れになっていた。空も夕暮れで赤や蜜柑のような色、深い藍色、様々な色に染まってこの光景は一生忘れられない絶景だとアクタは思った。
犬と猫が甘えるようにアクタの太ももに足を乗せた。
「嗚呼‥お前らごめんよ。よく頑張ったな。ご飯にしよう。この砂なら足も痛まねえ。歩いていいんだぜ。
思い切り遊びな。ごはんの用意はするからよ。」
犬と猫は嬉しそうに海岸を走り回った。珍しそうな貝殻を漁ったり、海の波をそっと触れたりぱっと離れたり、彼らは遊ぶのに一生懸命だった。
アクタは犬と猫のために柔らかい飯と水を用意した。
随分と、犬と猫のお陰でアクタは救われている。生きている命が遊んでいるのを見るとアクタの心は休まる。
神様とお姫様も救いになるが彼女らはもうこの世の存在ではない。
嗚呼、俺は死者や神様や生きている命に救われているのかもしれねえな。俺だけじゃあ恨んで自殺していたかもしれねえ。こんな人生と泣きわめいていたかもしれない。
でもそうならなかったのは仲間のお陰だ。
災い転じて福となす。 正にアクタの人生のようだ。こんな美しい絶景を見られるとは思わなかった。
アクタは己の幸運に感謝した。
誰も居ない。アクタだけのようだ。いや、猫と犬の生きている呼吸がする。
「神様、お姫様 怖いから何か話してください。この洞窟みたいなトンネルは何なんでしょうね?」
『ここは、昔、さる城主が品物や食料を運ぶために人夫に任せてつくらせたトンネルじゃ。しかし石など落ちてきたり、壁が崩れたりかなり危険な作業だったようじゃ。何人も事故で亡くなった人も居るようじゃ。ところどころに
まだ死んでいることに気づいていない亡者も居る。哀れな事じゃ。早く気づいて天に昇ればよいのに。』
お姫様も語った。
『わたくしにも見えまする。悪い事はしなそうですが、いまだに自分がどうなっているのかわからないままさ迷っていますよ。早く気づくといいのですが‥。』
「昔の人たちも大変だったんだな。」
アクタはそう呟いて、先人が作ったトンネルを歩いた。
すまねえな。あんたたちがつくったトンネルを使うのも何かの縁だろうな。 早く気づいて天に昇るといいな。
アクタは、乾燥した良い匂いがする花束をトンネルの横に供えた。果物も食べ物と水も少し供えた。
これであいつらも死んだことがわかって天に昇るといいんだが・・。
アクタは気の毒な人たちのために鎮魂を願った。
『アクタ・・』『アクタ様・・』
幼女神とお姫様はアクタの供養を見て唯、名前を呟いた。
『そなたは強いのお。アクタ。まっとうで健やかな魂を持っておる。』
『ええ。アクタ様と一緒に居ると、心が休まり、ほっとします。まるで神様のようですね。』
『そうじゃのお。あたしも一応神なんだけどね。』
あ、とお姫様はすまなそうに口元を抑えた。
『済みません。神様にそんなことをいって・・失礼でしたか?』
『いや‥アクタのほうが神様らしいよ・・死者の鎮魂もするし、生者を幸福にすることもできるから・・ちょっと悔しいのお。』
おかっぱの幼女神は膨れ顔をした。
お姫様は思わずくすりと笑いそうになった。
そんなにぎやかな仲間の話をつづけながらアクタは長いトンネルを抜けた。
暗いトンネルを抜けた後は、アクタは目を見開いた。
まるで別世界だった。 森林とかすかに見える青い海。 嗚呼始めて見る。これが海なんだ。なんで広大な水たまりなんだ。端が視えねえ。どこまでも続く青い水溜まり。
かすかに塩の匂いがする。
『海は塩の水じゃよ。だから直接飲んでいかん。』『魚や食べられる海藻もある。』
おかっぱの幼女神はそう忠告したが、アクタははじめて見る海に興奮を抑えられなかった。
嗚呼‥何で凄いんだ。世界ってこんなに広いんだ。アクタは故郷から随分離れたところにいると実感した。
おかっぱの幼女神が、遠目をして言った。
『 白い砂のある海岸が先にあるそうじゃ。そこは地元もあまりいかない隠れ場所のようで、あまり人は訪れぬ。』
『アクタよ。そこが今夜の寝床にいいぞ。』
「 分かった。」
アクタは神様の言う通り、荷台を動かして、暗くなる前に、息切れしながら白い砂のある海岸まで辿りついた。
シンと耳が痛くなるほどの静寂と、美しい白い砂。 白い泡をした波が繰り返し打ち寄せている。
そんな幻想的な美しい光景にアクタはしばらく見惚れた。
夕暮れになっていた。空も夕暮れで赤や蜜柑のような色、深い藍色、様々な色に染まってこの光景は一生忘れられない絶景だとアクタは思った。
犬と猫が甘えるようにアクタの太ももに足を乗せた。
「嗚呼‥お前らごめんよ。よく頑張ったな。ご飯にしよう。この砂なら足も痛まねえ。歩いていいんだぜ。
思い切り遊びな。ごはんの用意はするからよ。」
犬と猫は嬉しそうに海岸を走り回った。珍しそうな貝殻を漁ったり、海の波をそっと触れたりぱっと離れたり、彼らは遊ぶのに一生懸命だった。
アクタは犬と猫のために柔らかい飯と水を用意した。
随分と、犬と猫のお陰でアクタは救われている。生きている命が遊んでいるのを見るとアクタの心は休まる。
神様とお姫様も救いになるが彼女らはもうこの世の存在ではない。
嗚呼、俺は死者や神様や生きている命に救われているのかもしれねえな。俺だけじゃあ恨んで自殺していたかもしれねえ。こんな人生と泣きわめいていたかもしれない。
でもそうならなかったのは仲間のお陰だ。
災い転じて福となす。 正にアクタの人生のようだ。こんな美しい絶景を見られるとは思わなかった。
アクタは己の幸運に感謝した。
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