ゴミの金継ぎ師

栗菓子

文字の大きさ
上 下
11 / 58

第11話 犯人 貴族リースサイド②

しおりを挟む
私リース・デイラン男爵は、あれがきっかけで何かが覚醒した。それは私を満たす欲望の神だったのかもしれない。


私は表向き、母譲りの美貌と、父譲りの商才と処世術で上手く世間や、周囲のものを騙しているが、鋭い人や目ざとい人は私の本性に気づいているかもしれない。

忌々しい事だ。ふうと私は溜息をついて、私だけが一番の世界に行きたいと埒もなく夢を抱いたこともある。


理性では、リース・デイランは貴族で一番位が低く、貴族では蔑視の対象になると制止しようとしているが、私の欲望が、この世で一番の存在になりたいという欲望は止まらず、私の欲望の暴走が始まった。

初めは密かに理性を保ちながら、私は格上の令嬢を狙った。

やはり資金繰りに困っている令嬢だ。私は擬態を装って、優しく親身になる男性として、彼女に近づいた。

容姿はまあまあ。凡庸な頭をもっているどこにでもいる令嬢だ。

子爵でも、当初は、祖国に貢献した英雄の子孫でも時がたつにつれて劣化する。
その意味で、子爵は、祖国にあまり貢献をしていなかった。唯先祖の功績を食いつぶし、過去の栄誉に縋る名ばかりの子爵であった。

いまにも断絶しそうな子爵とその夫人は、格下と言っても金が豊富にある相手を金の出る木とかでも思ったに違いない。私の甘い美貌も柔らかな微笑もそれを上手く相手を侮らせ、油断させた。

私は上手く子爵令嬢を騙して、結婚して、子爵とその夫人を喜ばせた。 子爵令嬢は少し不安げだった。
彼女は正しい。私の欲望に気づいたのだろうか?

私は密かに令嬢に少量の毒物を入れた飲み物を飲ませた。無味無臭で証拠の痕跡は無い特殊な毒だ。

少しずつ、何年もかけて私は彼女の理性と判断力を弱らせた。

もう一つある。彼女が私の美貌に惑わされた初心な令嬢であったせいでもあったので、彼女はかすかな不安と疑惑を抱きながらも誰もが喜ぶ婚姻を受けいれたのだろう。

これで子爵家は助かるし、我が家も子爵の懇意の縁のある貴族たちと繋がることができる。それは商売の拡大にも必要だった。人脈は大切だ。


彼女はだんだん弱っていく自分の身体をどう思ったのだろうか?私を不審に思ったかもしれない。でも証拠はない。

彼女は、結婚して数年後、「しばらく子爵家の別邸へ療養しに行きたい。」と言って、去っていった。

その後、皮肉にも、彼女は、その別邸の池で滑って転落死したのだ。

私は驚愕の顔をして動揺している夫の顔を見せた。 私も思いもよらぬことだったから不自然には見えなかっただろう。

でも証拠はない。唯間接的に殺しただけだ。

私は彼女の死に顔を見て、嗚呼と呻いて顔を伏せた。私は笑いそうだったからだ。

子爵と夫人は私を信じて疑わなかった。それほど私の擬態は上手かった。私は彼女に対していつも優しい夫の演技をした。

殆どの人が私に騙されていた。観察眼が鋭い人や、敏感な人は私の前から遠さがっていった。

私がやったのかもしれないと不審を抱いたのだろう。しかし証拠はない。


私は、不慮の事故で妻を失った夫として振舞った。


それを信じないのは極わずかな人達のみであった。

私は私の欲を満たすために妻を毒牙にかけた。単にそうしたかったからだ。

嗚呼妻の名前だけは憶えていなければ怪しまれる。

レイラ・ド・ジーン子爵令嬢だった。 覚えていなければいけない。

私は密かにさよなら。レイラ楽しかったよ。と語った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

処理中です...