5つの花の物語

栗菓子

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月下香の章

第1話 真白き花

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真白き花。白は潔白。清潔のイメージを与えるが、この花は違った。
どこか妖艶で艶めかしく、見る人々に快楽と官能的な恍惚を放つ匂いをしていた。

異国の花は、夜の女王とも謳われ、各国で痛く寵愛されていた。
もう一つ、これを愛用するのは、娼館宿や、大人のための情事に飾る花でもあり、情欲や官能を掻き立て、燃え上がらせる花でもあったため、危険な関係、官能、快楽とその清楚だが華やかな白い花に名付けられた。

ニヤニヤといつも笑っている魔猫のような男は、その花を眺め、お前のようだと貴族の男に告げた。
夜の女王。正に、夜だけに現れる女王だな。
男との逢瀬のたびに、女装する貴族の男を見て、幻の女だと思った。
幻想的だが、なかなか妖艶で女より女らしい。貴族らしい高慢さがあってそれが余計女王らしく見せた。
つんと女王は猫のように澄まし顔をして気高く、男を見下ろした。
男は益々面白いと思った。初めて犯したときは痛みで泣いていた癖に、あくまで私のほうが位は上だと見せている。
確かに気品もあり、美しいが、情事の時はよがり狂う淫売の様なのにな。ふん。いいだろう。俺もお前の体と顔は気にいっているんだよ。
男はなかなか貴族の男が化ける妖艶な女王に溺れていた。
それこそ愛していると言っていいぐらいにのめりこんでいた。
貴族の男もこの関係を楽しんでいるはずだ。でなければ今頃男の命はない。貴族の男のほうが地位も力もある。
下劣な男一匹ごとき処分するのはたやすい。
それをしないのは、男が貴族の男が女になった時の初めての男だからだ。
他人にその秘め事をこの誇り高い男が見せるとは思えなかった。
女の時は、こいつは男を受け入れるのだ。売春婦のように恋人のように受け入れる。
俺だけに見せる女の顔。それが男の独占欲と情欲を掻き立てる。

なかなかいかれているが、彼らは男と女の関係であった。
情欲と快楽に彩られた関係。危うい関係。彼らはそのスリルを楽しんだ。


そういえば、男も若いころ、同じ村で育った清純な村娘と初恋同士になったことがある。
あの時も似たような白い花を贈った記憶がある。今はもう遠い話だ。
あの頃の俺は純朴な農民だったな。親父が死んじまって、俺は兵士や傭兵に借金代わりに売られてしまった。
あの頃は、初恋の女に会いたかったが、生まれて初めて人を戦で殺して嗚呼やっちまった。淡々と思った。
後悔はなかった。俺って冷たかったんだ。世の中を恨んだ時もあったが、楽しむことにした。
精々こんな世の中だ。昔は忘れようとけりをつけた。
それから兵士として戦へ数えきれないぐらい赴いた。いつかは死ぬだろうと思ったが、なかなかどうして男は悪運が強かった。すっかり、まともな頭もなくなり、人殺しにも慣れたし、善悪なんか知ったことかとも思うが、男は自分が弱い立場であることを知っている。

結婚式があると聞いて、男は面白くなかった。ぶち壊してやろうかと思って行ったが、真っ白な花のように見えた男がいた。貴族だ。気品があるし、優雅だ。男は幼い時の白い花を思い出した。どうしてあんな幼い時を思い出したんだろう。男は思わず、ふらふらとかつての記憶を蘇らせる貴族の男を追いかけた。
貴族の男は具合が悪くなったらしく、結婚式の訪問を中断し、自分の屋敷に戻った。
白い花を連想させる貴族の男を追いかけて男も馬車に乗った。魔に憑かれたように男は、貴族の館にこっそりと侵入した。誰にも見つかれなかったのはまさに神の計らいであったに違いない。
ただし、本当に良い神であるかはわからない。
男は、するすると二階まで届く木に登った。兵士の時奇襲もした。この位の侵入はお手の物だ。
二階で、貴族の男が何かをしている様子を見守った。俺は何をしているんだろうとも思わなかった。熱に浮かれたように、白い花の男を追いかけた。

すると、男は何を思ったのが、服を脱いで、女の衣装を着た。女のような化粧をした。
大鏡を見てゆっくりと自分が男から女へ化けていくのを見ながら男は興奮して自慰をし始めた。
変態。それを視姦した男は呆然と見入ったが、だんだん男がイキそうに頬を赤らめ、涙を浮かべ始めているのを見て
嫌悪と共に欲情も感じた。俺が慰めてやるのに。そんなに欲求不満なら。
嗚呼。あいつは男だったな。あいつ本当は女になりたいんじゃないか。

思わず、視姦していた男は、見るだけでは我慢できずに、白い花のところへ行きたかった。
男は、素早く、木を伝って、バルコニーへ軽やかに跳んだ。足音はしない。これも戦の時培った修行だ。
男は無防備に開いているバルコニーから侵入して、自慰に没入している貴族の男を背後から襲った。
アアと子どものように貴族の男は火照る顔を下劣な男に見せた。情欲の顔だ。

この野郎。そんなにやりたいのか。良いぜ。男は初めてだが、女の恰好をして女の顔を見せたな。
淫売と罵って下劣な男はにやにやと貴族の男を白い花を蹂躙した。
貴族の男は始めは少し抗ったが、男が頬を舐め、無い胸を撫でまわしたりしている卑猥な様子を見せる度にだんだんと大人しくなった。どうしようと侵入者を見た。女の顔だ。雌の顔だ。
ゆっくりと貴族の男は黙ってニヤニヤしている男を受け入れ始めた。
情欲が止まらないのだ。男は丁度良い相手だったのかもしれない。
いい匂いだ。初恋の花の匂いより濃厚で、官能的な匂い。今の俺に相応しい。

男にいうのは奇妙だが、一つになった時、男から破瓜の血が出た。嗚呼こいつ初めての情交だな。
こんな年まで誰ともやっていなかったか。まあ、女になりたがる変態だから仕方がねえな。
俺が優しく犯してやるよ。性交に衝撃を与えないようにな。男は何回もこの白い花と情交したかった。
ずっとずっとこうしていたい。懐かしい記憶も蘇るし、濃厚な良い匂いと快楽もますます増していく。

男は真白き花に溺れた。嗚呼そういえば結婚式で見かけたな。何だがこいつのほうが花嫁みたいだ。
俺はさしずめ、花嫁を襲うならず者かね。いいじゃねえか。
本物の女じゃないし、こいつも情欲に憑かれていた。

こんな関係も悪くない。白い花も、見かけによらず強かで欲情と快楽に溺れていた。
男を受け入れていた。あの時の初夜は忘れられない。

貴族の男もそうだったのだろう。でなければ何回もこうやって女の姿をして男を受け入れるものか。

今夜もだ。男は肉食獣のように舌なめずりしながら、白い花の男。女にした自分の男を犯しにかかった。

白い花は僅かに頬を染め、黙って濃厚な接吻と、舐め回す舌と滾る男根を受け入れた。
白い花も確かに欲情の男根が立っていた。

男は情欲がすぐわかるから面白い。これは男だが雌だ。俺だけの雌だ。

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