5つの花の物語

栗菓子

文字の大きさ
上 下
7 / 34
馬酔木の章

第2話 酩酊の結婚

しおりを挟む
結婚式は内輪で済ませた。専門馬鹿である貴族夫婦は、友人が少なかった。派閥にも権力闘争にも巻き込まれたくなかった彼らは、ごくわずかな友人と、親しい親戚と使用人だけで結婚したがった。
婚約者もそれに否はなかった。
婚約者も本当に親しい友人と父母、祖父母や親戚、使用人のみだけにした。
しかしそれを面白くない良からぬ奴らもいた。

新しい夫婦となる彼らの姿は光り輝いて見えた。

彼らはチーズや、パン、とっておきのシチュー、 狩ってきた獣の肉を焼いたジビエ料理など、家庭料理が少し贅沢になった料理を堪能した。
途中、葡萄酒が、彼らにふるまわれた。親せきや友人の誰かが結婚祝いにと贈られたのだ。
それをうのみにした彼らは、愉快気に飲んでは、食べたり、踊ったりした。

本当に無防備で一番楽しい結婚だった。

翌朝、起きると奇妙な静寂があった。アセビは体中が痛んだ。中でも一番痛いのは下半身の鈍痛だった。
多量の出血がシーツにあった。どうみても破瓜の血である。それにしては体中打撲の痣だらけだった。
記憶が朧気だったが、かすかに抗った記憶がある。
断片的な記憶を思い出そうと必死になりながら、体の異常と館の奇妙な静寂に胸騒ぎがした。蒼白になりながらもアセビは父母や夫となるはずだった男の名を必死に呼んだ。

必死に結婚式があった大広間へよろよろと壁を支えにして歩いた。嫌な予感がどんどん高まった。
異様なほど静かだった。

震えながら大広間の扉を開くと、無数の結婚式に訪れた客たちの亡骸があった。
青白く血を吐いて彼らは息絶えていた。

毒だ。直感的にアセビは悟った。父は?母は? 夫は?

父母は大広間の片隅で夫婦で抱きしめあって息絶えていた。

夫は。嗚呼・・大広間の結婚式の中央、贅沢な料理が並べている中に、生首があった。
苦悶に満ちた顔は夫であって夫じゃないようだった。


客や死体からは金目のものは無くなっていた。盗賊だ。それも大きな賊だ。でなければ仮にも貴族の館や使用人にこんな非道な事をするはずがない。他の貴族とはなるべく争わず中立派を示していた父だ。あまり恨まれる性質ではなかったのに・・

アセビは泣きながら夫であった生首に触ろうとした瞬間、下半身に疼痛が走った。
アセビは夫は殺された。では、私とまぐわったのは・・下劣にも無防備な皆を殺した賊たちが面白がって犯したのだ。そう思うとアセビは吐きそうになった。記憶がないのがせめてもの救いだった。

アセビは崩れ落ちて気を失った。これが悪夢ならどうか醒めて。現実なら目覚めたくない。
アセビはそう祈りながら目を閉じた。

かすかに、悲鳴と怒号が聞こえた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

#彼女を探して・・・

杉 孝子
ホラー
 佳苗はある日、SNSで不気味なハッシュタグ『#彼女を探して』という投稿を偶然見かける。それは、特定の人物を探していると思われたが、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。日が経つにつれて、そのタグの投稿が急増しSNS上では都市伝説の話も出始めていた。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

(ほぼ)5分で読める怖い話

アタリメ部長
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

ジャングルジム【意味が分かると怖い話】

怖狩村
ホラー
僕がまだ幼稚園の年少だった頃、同級生で仲良しだったOくんとよく遊んでいた。 僕の家は比較的に裕福で、Oくんの家は貧しそうで、 よく僕のおもちゃを欲しがることがあった。 そんなある日Oくんと幼稚園のジャングルジムで遊んでいた。 一番上までいくと結構な高さで、景色を眺めながら話をしていると、 ちょうど天気も良く温かかったせいか 僕は少しうとうとしてしまった。 近くで「オキロ・・」という声がしたような、、 その時「ドスン」という音が下からした。 見るとO君が下に落ちていて、 腕を押さえながら泣いていた。 O君は先生に、「あいつが押したから落ちた」と言ったらしい。 幸い普段から真面目だった僕のいうことを信じてもらえたが、 いまだにO君がなぜ落ちたのか なぜ僕のせいにしたのか、、 まったく分からない。 解説ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 近くで「オキロ」と言われたとあるが、本当は「オチロ」だったのでは? O君は僕を押そうとしてバランスを崩して落ちたのではないか、、、

処理中です...