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第5章 修羅の時代
第5話 毒花の暗躍
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ミキは、一仕事を終えて、熱いお湯をなみなみと入れた猫足の陶器の風呂にしなやかな肢体を横たえた。
身体を温めるハーブや、薬草を入れている。その匂いはミキの高ぶった神経を穏やかにする効能があり、ミキはひと時の至福を味わった。
母ラキナは今だ健在であり、父であるシーアンとは常に傍らにあった。
だが、年月は確かに過ぎており、ミキが適齢期の花盛りの女になったように、母も年齢不詳の若さに陰りが見えた。
今日の仕事は大仕事だった。 長年かけて追跡していた大陸の闇社会をしばらく支配していた貴族の残党を狩りだしてほしいと、新しく支配者層に立った貴族が大金を出して、ラキナ達暗殺者たちは数年かけて探し当てたのだ。
任務は必ず果たすとラキナの属する暗殺隊は、信念と誇りと歴史があり、他の派閥より優れて実績を示していた。
あれが、カーリン一家の最期だった。どんな栄光も権力も、新たな実力者がその実力を上回っていれば、敗残者として追われるのは歴史の必定。
その過去の遺物を処分するのも、またミキ達暗殺隊の任務だった。
ミキは、ラキナを師匠として育成された。母には生き抜く術を叩きこまれて、その実力が、暗殺隊でも認められている。
今、ミキのいる豪邸は、毒花達の暗躍によるささやかな憩いの家に過ぎなかった。
そういえば、海岸に居た頃・・細く縄のように巻き付けた揚げパンを砂糖でまぶして食べたわね・・。懐かしいわ。
ターニャは、美しく成長して、両親のすすめで異国に渡って留学した。
恐らく、政略結婚の相手探しや、事業の同盟を探すために、異国でも人脈を広げようとしているのだろう。
ターニャの両親は、辣腕の事業家で、失敗もあったが、大きな成功を収めた名士でもあった。
アエナは、両親の願いで、婿をとった。相手は優良な富裕家の子息だった。温厚だが、美しい容姿にアエナは一目で惹かれた。ミキはなんとなく嫌だったが、あえて祝福をした。大切な親友を奪われそうになったから敏感になっているだけだとミキは自分に言い聞かせた。
アエナの結婚式は、華やかで、正に若い二人の門出に相応しい立派なものだった。
アエナは純白の花嫁衣裳と、真珠や、翡翠などで美しく飾り立てていた。どこをみても瑕疵のない非の打ちどころのない貴族令嬢のようだった。
その麗しさに見惚れたミキは、杞憂にすぎなかったと安堵して、素直に美しいわとアエナを褒めた。
もうそのごろには、ターニャもアエナもミキの昏い稼業に気づいていた。しかし彼女らは変わらず親友として過ごした。
何故かと尋ねたら、だってミキはミキだもの。幼い頃から知っているあたしたちの親友よ。
それに、お父様もお母様も決してまっさらに綺麗なものではないわ。ここまで来るのに、とても汚い事もやっていたでしょう。でなければ、ミキの両親とあれほど結びつくはずがないとターニャとアエナは推測を言った。
確かに、両親の結びつきは尋常ではなかった。なにか余程過去に重い歴史があったのだろう・・。
彼らは、いざとなると非情な性格になって生き延びるために何かを斬り捨て、選び、選ばれたのだろう。
そんな雰囲気があった彼らだった。 両親の世代は恐らく酷かったのだろう。今はまだ余裕がある方らしい。
ふうとミキは溜息をついて、これからもなにかありそうね・・と未来に思いをはせて、今は精一杯生きようとミキは目を閉じた。
そうね・・。そろそろ私も伴侶を決めなければ・・とミキは決心した。
母ラキナや父シーアンを安堵させるためにも早く子を産む必要がある。
人生は儚くあっという間なのだ。数十年たてば、強大な両親も亡くなるだろう。ミキは、この家業について生と死の儚さと美しさと醜さ、一瞬の煌めきを何度も経験した。
ミキは、最後まで果てまで生きようと生と死の狭間で覚悟した。
毒花は生き延びるために毒を放つのだ。 咲き誇るのだ。己の生存のために。
それこそが女の人生だ。 ミキは人生を知った。
身体を温めるハーブや、薬草を入れている。その匂いはミキの高ぶった神経を穏やかにする効能があり、ミキはひと時の至福を味わった。
母ラキナは今だ健在であり、父であるシーアンとは常に傍らにあった。
だが、年月は確かに過ぎており、ミキが適齢期の花盛りの女になったように、母も年齢不詳の若さに陰りが見えた。
今日の仕事は大仕事だった。 長年かけて追跡していた大陸の闇社会をしばらく支配していた貴族の残党を狩りだしてほしいと、新しく支配者層に立った貴族が大金を出して、ラキナ達暗殺者たちは数年かけて探し当てたのだ。
任務は必ず果たすとラキナの属する暗殺隊は、信念と誇りと歴史があり、他の派閥より優れて実績を示していた。
あれが、カーリン一家の最期だった。どんな栄光も権力も、新たな実力者がその実力を上回っていれば、敗残者として追われるのは歴史の必定。
その過去の遺物を処分するのも、またミキ達暗殺隊の任務だった。
ミキは、ラキナを師匠として育成された。母には生き抜く術を叩きこまれて、その実力が、暗殺隊でも認められている。
今、ミキのいる豪邸は、毒花達の暗躍によるささやかな憩いの家に過ぎなかった。
そういえば、海岸に居た頃・・細く縄のように巻き付けた揚げパンを砂糖でまぶして食べたわね・・。懐かしいわ。
ターニャは、美しく成長して、両親のすすめで異国に渡って留学した。
恐らく、政略結婚の相手探しや、事業の同盟を探すために、異国でも人脈を広げようとしているのだろう。
ターニャの両親は、辣腕の事業家で、失敗もあったが、大きな成功を収めた名士でもあった。
アエナは、両親の願いで、婿をとった。相手は優良な富裕家の子息だった。温厚だが、美しい容姿にアエナは一目で惹かれた。ミキはなんとなく嫌だったが、あえて祝福をした。大切な親友を奪われそうになったから敏感になっているだけだとミキは自分に言い聞かせた。
アエナの結婚式は、華やかで、正に若い二人の門出に相応しい立派なものだった。
アエナは純白の花嫁衣裳と、真珠や、翡翠などで美しく飾り立てていた。どこをみても瑕疵のない非の打ちどころのない貴族令嬢のようだった。
その麗しさに見惚れたミキは、杞憂にすぎなかったと安堵して、素直に美しいわとアエナを褒めた。
もうそのごろには、ターニャもアエナもミキの昏い稼業に気づいていた。しかし彼女らは変わらず親友として過ごした。
何故かと尋ねたら、だってミキはミキだもの。幼い頃から知っているあたしたちの親友よ。
それに、お父様もお母様も決してまっさらに綺麗なものではないわ。ここまで来るのに、とても汚い事もやっていたでしょう。でなければ、ミキの両親とあれほど結びつくはずがないとターニャとアエナは推測を言った。
確かに、両親の結びつきは尋常ではなかった。なにか余程過去に重い歴史があったのだろう・・。
彼らは、いざとなると非情な性格になって生き延びるために何かを斬り捨て、選び、選ばれたのだろう。
そんな雰囲気があった彼らだった。 両親の世代は恐らく酷かったのだろう。今はまだ余裕がある方らしい。
ふうとミキは溜息をついて、これからもなにかありそうね・・と未来に思いをはせて、今は精一杯生きようとミキは目を閉じた。
そうね・・。そろそろ私も伴侶を決めなければ・・とミキは決心した。
母ラキナや父シーアンを安堵させるためにも早く子を産む必要がある。
人生は儚くあっという間なのだ。数十年たてば、強大な両親も亡くなるだろう。ミキは、この家業について生と死の儚さと美しさと醜さ、一瞬の煌めきを何度も経験した。
ミキは、最後まで果てまで生きようと生と死の狭間で覚悟した。
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