糟糠の妻

栗菓子

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第5章 修羅の時代

第3話 アンミラ族

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古来から、戦は続いていた。その度に勝利者と敗北者は決する。 大抵は、禍根を残さないために一族郎党根絶やしにして血を途絶えさせてきたが、極稀に生き延びた子孫や、大虐殺などを起こして異端となった犯罪者など罪人たちが孤島へ島流しの刑になった。


無人島で、食料もない、何もないところで、蟲毒のような戦は行われた。

彼らは生き延びるために、一番強い者を長とし、女は孕み袋と奴隷として扱われた。ほとんどが30年で消耗して亡くなった。或る意味こんな地獄には長く住まない方が良いと天の計らいかもしれなかった。

血を重ねる度に、殺戮と、凌辱に慣れ切った黒い血脈が島で繁栄した。

アンミラ族と言った。アンミラ族は、過酷すぎる環境で生き延びるための執着と意志が強靭で、狂った獣のような民がいた。

アンミラ族に、餌を投げると一瞬で獰猛に喰いちぎられることもあった。

その中で、いやに頭が切れたり、特殊能力をもった者達も生まれた。

アンミラ族は戦闘力が高く、戦に向いていた。

奇跡的に、理性をもったアンミラの一部は、密かに船を建設して、脱走した。

獰猛な追手を返り討ちにしながら、アンミラ族はまだみぬ新天地へと旅立った。

海を越えて、辿りついたのは、ヒヨルの住む領土近くの村だった。

アンミラ族は擬態しながら、村でひっそりと同化して生息した。なかには生きるために、村人を殺し、乗っ取った者もいる。

アンミラ族にとって幸運だったのは、村が見放された過疎の村だった事と、乱世のため村人がすり替わったことにほとんど気づかなかった者がいたことだ。

とはいえ、気づく者はいる。その気づいた者は何を考えたか、無謀にもアンミラ族に尋ねた。

「お前らは・・何者だ。どこから来た。何か変な力を持っているな・・。まあいい。丁度良い。その力を有効に使えるところへいかねえか?」

彼は、傭兵や、兵士などを集めている仕事をしていた。多少の後ろ暗い背景など慣れ切っていた。

アンミラ族は、男の誘いに乗ることにした。

それは、アンミラ族の戦闘能力や特殊能力を活躍できる機会でもあった。

密かに着実にアンミラ族は暗殺や荒事の依頼をこなし、その実力が表社会や裏社会でも知られ始めた。

アンミラ族は、特別な声で、人を自殺へ誘導する能力を持った者や、特殊な毒をもっている者、天候の流れを把握できる者など様々な異能力を持った異端の一族だった。


免疫力や、再生能力が異様に高い不死身に近い者もいた。その者は数百年生きたという逸話もある。

しかし少数民族のため、アンミラ族は、生き延びるため、金銭と住まう土地を求め、裏で、ハリル・ド・エルンという弱小貴族たちと取引を交わして、専属の奴隷になることで領土の片隅に住み家を得た。


そんな中、ヒヨルもまたアンミラ族と交渉を始めたのは自然な流れであった。

醜悪な男ヒヨルの野心と、アンミラ族の黒い血が引き合ったのだろうが・・どす黒い力が生まれようとしていた。


ヒヨルは、運を掴む力に長けていた。 アンミラ族の力は、これからヒヨルにとっても必要となる。

ヒヨルは、子飼いの娼婦や密偵を派遣して、重要な情報を掴む確実な情報屋としての実力と、奴隷使いなど様々な能力に長けていた。

アンミラ族も獣に近かった。ヒヨルはアンミラ族を使役する能力があった。

相互利益を得る関係になったヒヨルとアンミラ族は後に、ハリル領土の根深く濃厚に歴史に影響を齎すことになった。
ハリル・ド・エルン男爵は決して、無能ではなかったが、異端の者、異質な国の交流をあまり好まない性質だったため、ほとんどその外交を側近やヒヨルなど下人に任せた。

それが、ヒヨルの人脈を拡大する流れとなった。

当然、男爵にも敵はいた。 身内に、男爵の位を簒奪しようとする異母兄や、領土を奪おうとする敵対する隣の領土を治める ルキ・ド・シア男爵もいた。


毒殺や、暗殺はよく或ることだった。 その度に警備の者や、毒見の者や奴隷たちが犠牲になった。

いい加減辟易したヒヨルはアンミラ族の力を借りて、一気に敵と戦い殲滅しようと図った。


男爵も、忍耐の限界があり、戦に向けて準備していた。

奇しくも、男爵とヒヨルは同時に、敵への殲滅を企んでいた。

男爵とヒヨルの思考はよく似ていたともいえる。

この事が、ヒヨルの成功に繋がった。ヒヨルは、貴族の思考と、下人の思考など様々な考え方を無意識に学習していた。

ヒヨルは、下人階級とはきさくに親しく、しかし侮られずに一目置かれるように立ち回った。
余り敵は増やしたくなかった。まだヒヨルは仲間が十分ではない。

貴族階級とは、ヒヨルは奇妙な使える道化として振舞った。貴族は自尊心と幼児性が高い苛烈な気質をもった者達が多い。ヒヨルは決して機嫌を損なわないようにお調子者として振舞った。

相手を油断させ、笑わせるのだ。これは無害な使える猿として騙しぬくのだ。

ヒヨルはその采配が巧みであった。


そのヒヨルの綱渡りのような生き方は妻であったネリを観客とさせた・・。

ネリは唯、無言で彼の終着地まで見守ろうと思った。


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