糟糠の妻

栗菓子

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第4章 戦乱の民

第7話 名もなき花嫁たち

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内乱や、戦禍が広がっていく渦中、本来なら交わるはずのない遠い異国へ花嫁として、都合の良い奴隷としてあてがわれた名もなき花嫁たちがいた。

半ば強制であったが、口減らしや、自国では生きられない余計な子として生きていた女達も多かったため、あまり反乱は起きずに、流されるようにアーマン国や、多くの島々から成り立つゼーニア連合諸島、各国に散り散りに男たちの所有物となった。

多くの自殺者も出たが、強靭で、運の強い女達が生き残った。

その中でも、夫と呼べる主人と良好な関係を結べたのは極僅かであった。

言葉も風習も何もかも違う男と女が心惹かれあったりするのは奇跡に近かった。

ほとんどが必要だから一緒にいるだけであった。中には軋轢や衝突もあり、殺害に至る事件は後を絶たなかった。

そんな波乱に満ちた激動の婚姻の後、混血児が生まれた。

アエナや、ターニャ、ミキは、混血児であり、異国との交流が盛んな海岸近くで育ったため、数か国語を生きるために幼少の頃から学んだ。

アエナやターニャ、ミキたちは奇跡的に、運命的に惹かれあった夫婦の中で生まれ、お互いに貴族の血を引いているのではないかと思う位容姿や、能力が優れて高かった。

彼女らの両親は、慣れない異国や船旅、流浪の旅で、精神を崩したり、体調が悪化したり脱落していく者が続く中、いち早く、教養や、情報が必要だと悟り、腕の良い情報屋を調べたり、かなり治安の悪いところの実力者と懇意になるほど強運だった。

その中で仲間や、友人もできたが、ほとんどが戦乱で亡くなったり、麻薬や酒で堕落したり、カルトな新しい宗教に入れこんで消えた人も居た。

様々な悲劇を見て、人生を波乱万丈に生きた両親は、何があろうと生き延びるとお互いに誓った。

両親たちは、生き延びた仲間たちであった。最後に、海岸の近くで商業や、工業など様々な仕事をした。

彼らの絆は固く、決して堕落しないで、子どもにはより良く生き延びる道を切り開かなければいけないと親の自覚を早めた。子孫を残すことは彼らの悲願だった。

或る意味、世界に対する意地と復讐だったのかもしれない。

こんな試練に負けてたまるかと畜生とアエナの父親は苛烈なまでに気性が激しく時折罵っては、天に唾を吐いた。

そうしなければやっていけない波乱に満ちた人生だったのかもしれない。 アエナの母親は美しく寡黙で従順だったが、時折、唇を血が出るまで噛みしめたり、手を掻きむしったりしていた。


アエナは精神的にも追い詰められていた母親を痛ましく見ていたが、まだ幼い妹が、母親の様子を見て、布をひょいととってきて、母親に、「だーめよ。血が出てる。おかあーちゃん。」と舌足らずに言って、手を拭いたことを覚えている。
その時だけ、気丈な母親が、妹を抱きしめて泣いていた事を覚えている。

母親は、それ以来、ほんの少し柔らかな雰囲気になった。
アエナは妹は偉大だと思った。


「しかし凄いよね。よくここまで生き延びられたね。あたしらの両親は・・。」

まだあどけないがそばかすがあっても十分に愛らしい容姿をした赤褐色の髪をしたターニャは猫の様な黄色の瞳を丸く輝かせて、海岸の屋台で買った蒸したパンを食べていた。
厳しい勉強の合間に、アエナやターニャ、ミキはよく海岸の屋台で昼食をとっている。

様々な屋台があって、それぞれの国の味がする食べ物が多いのだ。
お茶も飲める椅子と円卓風の机が無数に揃えてあって、様々な人たちが、ひと時の昼食をとっていた。

晴天で、風も気持ちが良く、平和なひと時だった。
アエナは東洋のクルクルしたかんじの巻き毛の黒髪の少女だった。肌はほんの少し黒かった。目に力があって澄み切った翡翠の瞳で神秘的な容姿に見せていた。
アエナは十分に美少女だった。

「ええ・・本当に偉大ですね。私たちの両親は・・。
ここまでたどり着くのに相当な苦労をしたでしょうに、尚且つこの界隈で事業して成功までするとは・・凄いですわね。親に恥じぬよう、頑張っているけど・大丈夫かしら・。」


アエナは言葉まで丁寧に使えと親に厳しく行儀指導されていた。

「うん・・あたしらが堕落したら、迷わずあたしらを殺すね。それほどの人生を送ってきたし、執念もあるよ。親を裏切るのはまずいよね・・。」

ターニャは苦い表情をしていた。ターニャはあまり勉強は好きではないが、生きるために頑張っている。
ターニャの夢はそれなりの裕福な男と結婚してあまり苦労しない事だ・・。
だが、このご時世だ。夢は夢だ。 頑張って生きるしかないのだ。

「あーあ。これからも苦労しそうだなあ。あたしら。少ししんどいわねえ。」

溜息をつきながらも、ターニャはなんだかんだ言って親を尊敬しているし、大好きなのだ。
ターニャは立派に勉強して家のために働くだろう。そういう真面目な少女だった。

ミキは今、風邪で少し休んでいる。ミキも西の国と東の国が混じりあったエキゾチックな少女だ。
茶金色と、薄い青の瞳をした少女は、3人の中で一番美しく華やかな容姿をしている。

彼女の運命はこれからどうなるのか? まだ若いアエナには分からなかった。
唯、この平和は束の間かもしれない・・とふと思った。

親の時代は戦禍だった。今は休戦の時代らしい。 いつまた始まるか予想がつかない・・。
アエナは今を精一杯愉しむことにした。

人生は長いようであっという間なのだ。

なるようにしかならない。唯、歩き続けるのみだ。

アエナはころころと笑いながらターニャと会話を楽しんだ。

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