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第2章 妻の運命 夫の運命
第2話 運命の女
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夫に運命の女がやってきた。容姿端麗な夫に相応しいはっとするほど艶やかで美しい方。
高貴さと妖艶さを秘めたお方。とても古い貴族の末裔らしい。
世が世なら、一国の頂点に立つ姫だったらしい。権力闘争で敗れた王は滅んだが、その係累の貴族は生き延びた。
クレア・ド・ジーニアス。 この国のジーニアス侯爵の長女。 花の女王とも謳われる絶世の美姫。
彼女の微笑で魅了される殿方や女性も数知れなかった。
夫も思わず陶然と見惚れていた。あの方なら夫さえも制御するだろう。完全に虜になっている殿方は、女性の思うままになる。
夫は商人として成功できるだろうか?わたしは思わず不安になった。
絶世の美姫は、急成長している商人の夫に黒い商談を持ちかけた。通常の正規のルートでは流通できない危険な品物を買い取り、必要な相手に渡すという危険な商売だった。
一度は闘争で勝った国の貴族たちが今衰退しているという。ヘスデという麻薬が流行っているようだ。
そのヘスデは特殊な薬草でできており、中毒性が激しい。どんな人間も廃人同様にしてしまう。
わたしは怖くなった。そんな危険な品物は他の国でも禁忌としている。人間そのものが壊れたらどうしようもないではないか。
わたしは土下座して必死で夫を黒い商談をさせまいとした。だが、夫は既に世界の頂点に立つものは清濁併せのむ人だと知っていた。今までも汚い商売もやってきた。貴族の情事の不要な子を流すため、産婆や闇の医者を運ばせたり
危険な武器をまだ子どもの少年に渡したりしていた。そうしないと大人の盗賊団に殺される村や町が多いからだ。
だがこれは違う。一歩間違えれば多くの人々が犠牲になってしまう商売だ。
そんなことしなくても夫は十分に成功している。もういいのではないのかとわたしは心配して忠言した。
夫はいつの間にか、残忍な気性はそのままにより冷徹に狡猾になっていた。
今までの商人という低い地位にあったがゆえに、侮蔑をされたこともよくある。わたしは慣れていたが、夫は屈辱に塗れていたらしい。殿方はそういうところがある。
「臆病者。お前はそれでも俺の妻か。裏切る気ならここで斬り捨てるぞ。」
これは夫にとって最大の賭けだったのだ。今までになく怖い目でわたしを見据えて言った。
爛々と輝く目はもはや人ではなかった。
嗚呼。わたしはいつの間にかとんでもない運命の岐路に立っていたようだ。
裏切ったらわたしは夫に殺される。わたしのような足りない女が生き延びられたのは夫の両親のお陰だ。
わたしは覚悟は決めていた。
わたしは最後まで夫の最大の賭けを見届けることにした。微力ながらも夫の商会の成功に加担した一員として覚悟を決めた。わたしは地獄に落ちるかもしれない。多くの無辜の人々を不幸にするかもしれない。
あの世でわたしは生涯詫びよう。わたしが傷つけた人々を。
「わたしは裏切りません。貴方様がそう望むなら従います。」
わたしは諦めて淡々と誓いを立てた。
運命の女。クレア姫は、夫とわたしを途方もない運命へと運んだ。
夫と姫や貴族たちは、商談の基盤となる基地や、流通経路をその明晰な頭脳で瞬く間に決め、わたしたちはいつのまにか真っ赤な血に汚れた手をしていた。
真っ当な商売をしていたころは洗い物や、料理で荒れ果てたわたしの手が、綺麗に艶やかな手をするようになった。
まるで貴族の貴婦人のようだ。
夫が、俺が貧しい頃から一緒にいた妻をないがしろにしたと言われては世間体が悪いと仏頂面で、着物も、美しく着替え、貴婦人の教養を学べと言われた。
わたしはてっきり邪魔な女と捨てられたり、殺されるのかと思った。
でも、夫は情はあったらしい。わたしは当惑して夫をまじまじと見た。わたしたちの関係は主人と奴隷の関係だ。
わたしは不思議に思いながらも夫の言うままに、身だしなみを整え、教養も厳しい先生から学んだ。
この年で辛いと思ったが、必死で夫の恥にならぬよう教養と礼儀を学んだ。
夫は二度と苦労はさせないようわたしを監視して、手を美しく整えた。
美しい侍女たちがわたしのみすぼらしい身体を洗い流し、丹念にクリームや香料などで肌を若返らせるようにした。
わたしの皺だらけの顔も医者が整形をしてわたしは前より美しく若返った。
わたしの服はわたしによく似あった繊細な花の紋様をした貴婦人の衣装になった。
侍女たちが己の作品を見るように自慢げにわたしに鏡を見せた。
わたしは見知らぬ女が映っていることに驚愕した。
高級な髪飾りがわたしの長い髪を結い上げていた。
表面上はどこに出ても恥じぬ貴族の貴婦人のようだった。
人間はここまで変わるのか?わたしは唯、呆然と運命を見るしかなかった。
わたしが貴婦人になったごろ、夫は黒い商談を大成功させた。クレア姫や国の中央にいる権力者と手を結び、正規のルートと黒いルートを両方手に入れるようになった。
夫は大成功者となったのだ。彼は莫大な富と権力を持つようになった。
わたしは安堵した。これでわたしは解放されるのだ。夫は成功した。夫の両親も大喜びであろう。
わたしは長年の苦労がたたって、表面上は若返ったように見えてもボロボロの身体だった。
わたしの寿命は長くない。 お役目は終わったのだ。
「ご成功おめでとうごさいます。わたしも嬉しいです。貴方の成功や夢がかなって嬉しいです。」
わたしはそう心から夫の成功を祝った。
そしてわたしは夫にお暇を頂きたく懇願した。
わたしは夫に寿命が長くないと告げた。体がおかしいと。わたしは故郷の両親に会いたいと願いたてた。
わたしは必死で懇願した。
「両親に会いたいか・・。」
夫は少し残念な顔をした。何故だろう?わたしには夫が解らなかった。
わたしは無事に糟糠の妻らしく夫に捨てられた。わたしは安堵した。やっと解放されるのだ。
夫の運命の女はクレア姫だけではなくもう一人いた。
マリーと言う舞姫だった。彼女も貴族の落とし子らしい。容姿が整いすぎて人形の様だった。
彼女はクレア姫のような魅力はないが、どこか男を惹きつける仕草があった。
童女のようでもあり老齢している姫だった。
夫は男としては、マリーと言う舞姫に惹かれた様だった。
彼らは男女関係になったというように接していた。
わたしは唯、ぼんやりと傍観していた。嗚呼終わったのだ。少し寂しいとわたしは思った。
高貴さと妖艶さを秘めたお方。とても古い貴族の末裔らしい。
世が世なら、一国の頂点に立つ姫だったらしい。権力闘争で敗れた王は滅んだが、その係累の貴族は生き延びた。
クレア・ド・ジーニアス。 この国のジーニアス侯爵の長女。 花の女王とも謳われる絶世の美姫。
彼女の微笑で魅了される殿方や女性も数知れなかった。
夫も思わず陶然と見惚れていた。あの方なら夫さえも制御するだろう。完全に虜になっている殿方は、女性の思うままになる。
夫は商人として成功できるだろうか?わたしは思わず不安になった。
絶世の美姫は、急成長している商人の夫に黒い商談を持ちかけた。通常の正規のルートでは流通できない危険な品物を買い取り、必要な相手に渡すという危険な商売だった。
一度は闘争で勝った国の貴族たちが今衰退しているという。ヘスデという麻薬が流行っているようだ。
そのヘスデは特殊な薬草でできており、中毒性が激しい。どんな人間も廃人同様にしてしまう。
わたしは怖くなった。そんな危険な品物は他の国でも禁忌としている。人間そのものが壊れたらどうしようもないではないか。
わたしは土下座して必死で夫を黒い商談をさせまいとした。だが、夫は既に世界の頂点に立つものは清濁併せのむ人だと知っていた。今までも汚い商売もやってきた。貴族の情事の不要な子を流すため、産婆や闇の医者を運ばせたり
危険な武器をまだ子どもの少年に渡したりしていた。そうしないと大人の盗賊団に殺される村や町が多いからだ。
だがこれは違う。一歩間違えれば多くの人々が犠牲になってしまう商売だ。
そんなことしなくても夫は十分に成功している。もういいのではないのかとわたしは心配して忠言した。
夫はいつの間にか、残忍な気性はそのままにより冷徹に狡猾になっていた。
今までの商人という低い地位にあったがゆえに、侮蔑をされたこともよくある。わたしは慣れていたが、夫は屈辱に塗れていたらしい。殿方はそういうところがある。
「臆病者。お前はそれでも俺の妻か。裏切る気ならここで斬り捨てるぞ。」
これは夫にとって最大の賭けだったのだ。今までになく怖い目でわたしを見据えて言った。
爛々と輝く目はもはや人ではなかった。
嗚呼。わたしはいつの間にかとんでもない運命の岐路に立っていたようだ。
裏切ったらわたしは夫に殺される。わたしのような足りない女が生き延びられたのは夫の両親のお陰だ。
わたしは覚悟は決めていた。
わたしは最後まで夫の最大の賭けを見届けることにした。微力ながらも夫の商会の成功に加担した一員として覚悟を決めた。わたしは地獄に落ちるかもしれない。多くの無辜の人々を不幸にするかもしれない。
あの世でわたしは生涯詫びよう。わたしが傷つけた人々を。
「わたしは裏切りません。貴方様がそう望むなら従います。」
わたしは諦めて淡々と誓いを立てた。
運命の女。クレア姫は、夫とわたしを途方もない運命へと運んだ。
夫と姫や貴族たちは、商談の基盤となる基地や、流通経路をその明晰な頭脳で瞬く間に決め、わたしたちはいつのまにか真っ赤な血に汚れた手をしていた。
真っ当な商売をしていたころは洗い物や、料理で荒れ果てたわたしの手が、綺麗に艶やかな手をするようになった。
まるで貴族の貴婦人のようだ。
夫が、俺が貧しい頃から一緒にいた妻をないがしろにしたと言われては世間体が悪いと仏頂面で、着物も、美しく着替え、貴婦人の教養を学べと言われた。
わたしはてっきり邪魔な女と捨てられたり、殺されるのかと思った。
でも、夫は情はあったらしい。わたしは当惑して夫をまじまじと見た。わたしたちの関係は主人と奴隷の関係だ。
わたしは不思議に思いながらも夫の言うままに、身だしなみを整え、教養も厳しい先生から学んだ。
この年で辛いと思ったが、必死で夫の恥にならぬよう教養と礼儀を学んだ。
夫は二度と苦労はさせないようわたしを監視して、手を美しく整えた。
美しい侍女たちがわたしのみすぼらしい身体を洗い流し、丹念にクリームや香料などで肌を若返らせるようにした。
わたしの皺だらけの顔も医者が整形をしてわたしは前より美しく若返った。
わたしの服はわたしによく似あった繊細な花の紋様をした貴婦人の衣装になった。
侍女たちが己の作品を見るように自慢げにわたしに鏡を見せた。
わたしは見知らぬ女が映っていることに驚愕した。
高級な髪飾りがわたしの長い髪を結い上げていた。
表面上はどこに出ても恥じぬ貴族の貴婦人のようだった。
人間はここまで変わるのか?わたしは唯、呆然と運命を見るしかなかった。
わたしが貴婦人になったごろ、夫は黒い商談を大成功させた。クレア姫や国の中央にいる権力者と手を結び、正規のルートと黒いルートを両方手に入れるようになった。
夫は大成功者となったのだ。彼は莫大な富と権力を持つようになった。
わたしは安堵した。これでわたしは解放されるのだ。夫は成功した。夫の両親も大喜びであろう。
わたしは長年の苦労がたたって、表面上は若返ったように見えてもボロボロの身体だった。
わたしの寿命は長くない。 お役目は終わったのだ。
「ご成功おめでとうごさいます。わたしも嬉しいです。貴方の成功や夢がかなって嬉しいです。」
わたしはそう心から夫の成功を祝った。
そしてわたしは夫にお暇を頂きたく懇願した。
わたしは夫に寿命が長くないと告げた。体がおかしいと。わたしは故郷の両親に会いたいと願いたてた。
わたしは必死で懇願した。
「両親に会いたいか・・。」
夫は少し残念な顔をした。何故だろう?わたしには夫が解らなかった。
わたしは無事に糟糠の妻らしく夫に捨てられた。わたしは安堵した。やっと解放されるのだ。
夫の運命の女はクレア姫だけではなくもう一人いた。
マリーと言う舞姫だった。彼女も貴族の落とし子らしい。容姿が整いすぎて人形の様だった。
彼女はクレア姫のような魅力はないが、どこか男を惹きつける仕草があった。
童女のようでもあり老齢している姫だった。
夫は男としては、マリーと言う舞姫に惹かれた様だった。
彼らは男女関係になったというように接していた。
わたしは唯、ぼんやりと傍観していた。嗚呼終わったのだ。少し寂しいとわたしは思った。
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