糟糠の妻

栗菓子

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第2章 妻の運命 夫の運命

第1話 妻の親友

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商人として歩む道のりで、或る貴族と懇意になり、何故かその令嬢は妻を気に入っていた。

令嬢は男より聡明で美しく凛然としていた。父親に従い、寵愛厚き姫君だった。

令嬢は妻を友人として借りたいと言った。夫は商会の利益にもなるので喜んで貸した。

妻は物であった。妻もそれに異存はなかった。

彼女は道具に過ぎない。それに令嬢の遊び人形のような友人の役割が増えただけである。

妻はあまり自我がなく親に従い、夫に従うのみである。


そんな妻でも美しい令嬢を見ると別世界の姫君を見るように見惚れていた。
令嬢の玲瓏たる声を聴くたびに妻は頬を赤らめた。令嬢は妻を可愛がっていた。まるで令嬢より年下のような幼げな様子が愛らしかったのだろう。

令嬢の気に入っている紅茶。異国の茶葉を混ぜて独特の味を引き出した香味溢れる茶。
これには妻も痛く気にいった。この茶は体も心も落ち着くようであった。

薄い生地にチョコを塗ったクッキーは甘く上品で、妻はこどものように目を輝かせた。

茶道具の陶器も、名工が作り出したもので精密な花や鳥の柄が精緻に華やかに鮮やかに印象的だった。

妻はその他にも令嬢が気に入っている織物とか装身具を見せた。どれも見たことがない異国の鮮やかな高級なものばかりだった。
妻はほおっと溜息をついて夢を見るように眺めた。
それをくすくすとみている令嬢が、懇意にしている商会を紹介する。その商会で様々なことを学んだらどうかと提案した。夫も妻もそれに同意した。

まだ若輩の身だ。なるべく名工や有名な商会の品物を知りたい。知識を吸収しなければと彼らは喜んだ。

令嬢のお陰で、夫婦は様々な知識を得た。この知識を糧に商会はどんどん成長することになった。

妻と令嬢の友人関係はしばらく続いた。 令嬢がより高い地位の家に嫁すまでその友誼は続いた。


妻は令嬢が美しい花嫁姿になる時、かすかに涙ぐんていた。

妻は美しい令嬢に惹かれていた。落胆しながらも彼女は淡々と仕事をした。

夫とは無機質に関係を保つだけだった。それに夫も不満もなかった。

妻とは仕事の仲間に過ぎなかった。性処理の相手でもあった。

商会はどんどん成功した。妻はほっと安堵した。

これで役目はもうすぐ終わると思ったのだろう。彼女は心労で痩せていたが、まだまだ若々しかった。

妻は夫を嫌悪しながらも力を貸していた。それが彼女の役目だからだ。

夫の本性を露わに見る度に妻はかすかに顔を歪めた。妻はどんどん夫から距離を置こうとした。

夫には絶対気を許さなかった。 子どもができないのは神の計らいだと妻は思っていた。

この夫婦関係は仮初にすぎない。


本来の相手がいつか夫に現れるだろう。 妻はそう信じていた。

夫の不満はどんどん高まっていた。いつもどこかくすぶっていた感情が妻に向けて爆発しそうだった。
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