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第23話 アンジェル令嬢視点

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アンジェルは虚ろに死んだ目で、輝かしい女パスカとかつては信頼し愛した兄ドールを貴族の華やかな社交界でいつまでも眺めていた。
ドールはかつての悪夢のような惨劇はすっかり忘れたように、より美しく生気を取り戻したように、若々しく幸福に見えた。
どうして?お兄様。貴方はあれほどの罪を犯しながら何の罪悪感もないのですか?

お父様とお母様やお祖父さまやおばあ様は何だったのですか? あれほど醜悪な関係を隠しながら美しい欺瞞の家族関係を続けていたからですか? その陰に人知れず、犠牲になった実の兄妹や子供たちが居たことが分かったからですか?
貴方はそれがどうしても許せなかったのですか?
私にはお兄様の苛烈な気性が解らなかった。
私も悍ましいと思ったけど、お兄様のように全てを抹殺したいという激情のままに親族を殺したりはしなかった。
お兄様は誰よりも苛烈で純粋な魂を持っていたのですね。

お兄様が家族を惨殺したきっかけをしっている。あの浅はかなお母様が禁忌の言葉を吐いたから。
私アンジェルと交わえば新しい家族ができるし、仲良くなれると・・。嗚呼。お母様。貴女はとうに狂っていらっしゃった。その快楽のために犠牲にした胎児たちがいる事を。お兄様は聡明ゆえにお母様の狂った家族遊戯に付き合えなかった。

あの時のお兄様の顔が忘れられない。鬼のような顔をして罪人を裁くような凍り付いた目をしていた。

嗚呼お母様。これはお母様は呼び寄せた運命ですよ。お兄様は誰よりも聡明で潔癖だったから・・悍ましい血を引いた一族など受け入れられなかったのでしょう。


だから、私アンジェルは見初めたレイルに降嫁した。それに異存はなかった。私も悪夢を忘れたかったから。
レイルはお兄様ほどではないけど、十分に魅力的で私は彼に惹かれた。

不思議ね。お母様は血を分けた者しか愛せない一族と言ったけど、お兄様と私は他人を愛せたわ。
きっと何かの神様が、終わった一族に唯一の希望を与えたのかもしれないわね。

お兄様が惹かれた女パスカ令嬢。彼女は娼婦のようでもあり貴族のように誇り高き面もあった不可思議な魅力があった。彼女は誰よりも光り輝いて見えた。

お兄様が惹かれるのも分かる。そして、私の夫レイルもまだパスカに執着している。
かつてのレイルの情人であったパスカ。何故お兄様はパスカと出会ったのか?もうわかっている。私だ。私がレイルを見初めて、欲しいとお兄様にせがんたからだ。
お兄様は可愛い妹のために情人であるパスカにレイルと手を切れと会いにいったのだ。
そこで何かあったのかは知らない。
多分、彼女は報復として、醜悪な真実をお兄様に知らせたのだ。
その結果があのような無惨な結末になった。
嗚呼・・発端は私だ。そしてパスカが真実を伝える使者となって、死神を呼び寄せたのだ。

全てはまるで神の筋書きのように運命が動いた。変わった。

嗚呼。お兄様。今貴方は幸福ですか?初めて惹かれた女を傍らに置いて貴方は幸福そうに見える。でもお兄様。
私には薄氷の水面を歩いているようにしか見えないのですよ。
いつ壊れて沈むか分からない人生。

お兄様は益々苛烈に容赦なく敵と戦い続けた。
パスカだけが唯一の女なのですね。お兄様の凍り付いた目がパスカを見る時だけ柔らかくなります。そしてドロリとした執着した真っ黒な面もかすかに見えました。

パスカは無意識にお兄様の荒ぶる魂を宥めています。嗚呼まるで一対のようにしっくりくる二人です。
危ういけど魅力的な二人です。

レイルは悔しそうにドールとパスカを睨んでいます。哀れで愚かな男。彼女に惹かれていながら己の利益のために
ドールに愛する女を渡した男。今更未練を残して何になるのでしょう。

そして私の腹にはレイルの種が芽生えて胎児の形をとろうとしています。レイルには内緒です。

私は密かに修道院や、ひっそりとした隠家に住みたくなりました。

子どもと幸福になるためにはレイルは邪魔です。
彼は私の容姿と肉体を愛しているにすぎません。心が通ったことはありません。
そんな不毛な関係など御免です。

私は幸福になることを諦めてはおりません。

お兄様。さよなら。かつて愛した人。唯一の家族。 そして狂った瓜二つの男。彼の幸福も祈ります。
それしか私にはできません。



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