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第18話 恋愛より重い感情
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わたくしは、当惑しながらもドールの寵愛人形として、あまねく豪奢な生活を享受しました。
拒否しようものなら、ドールはセルマやわたくしの仲間を容赦なく殺すでしょう。わたくしは彼の性質を共に生きるほど、すっかり理解しました。
中には、得体のしれない寄生虫。淫売。傾国の女とも危険視され、敵視され、冷ややかな目を向ける者は多かったのですが、わたくし一介の女に何かできるでしょうか?
わたくしにできるのは、君主の心を損ねぬよう、慰撫し、崇めるだけです。
ドールはわたくしの奉仕と思いを受け、安堵したように微笑みます。
わたくしは少しときめきました。これが恋なのかもしれませんね。わたくしは或る意味幸福なのかもしれません。
仕える主人に恋をしたのですから・・。
見たところ、ドールは仕事や領主としての器量に満ち溢れ、彼の治める領土は安定しているように見えましたが・・
わたくしに仕える侍女が二人ドールに選別され、御付きとなりました。
わたくしは、不思議に思いながら、侍女二人を見ました。 一人は豪奢な金の髪を丁寧に結い上げて目だたぬようにしています。瞳も淡い菫色をした美しい女です。 もう一人は、ブルネットの髪で男のように短髪です。精悍な男のような美貌をした不可思議な女でした。でもどちらも貴族特有の雰囲気がありました。
彼女らは淑女の微笑をして、わたくしに仕えますと見事なカーテシーをしました。
まあ・・。内心。どこの馬の骨とも知れないわたくしのような奴隷女に仕えるなど大抵の貴族の女は嫉妬や怒りで顔を歪ませますが・・。
わたくしは困ったように微笑むと、金の髪の侍女はルナと言いました。ルナ・・月の女神の名前ですね。
とても美しい響きです。短髪の女はエセルと言いました。エセル・・?その意味の名は解りませんね。
ルナに尋ねると、とても立派な。高貴なと言う意味です。
わたくしは驚きました。そんな大層な名前ばかりついた貴族の方たちが何故、一介の奴隷ごときに仕えるのでしょうか?
わたくしは卒直にその疑問を彼女らに伝えました。
彼女らは複雑な表情をしました。
「ドール様が、新しくこの領地の領主となられたからです。ドール様はご存じのとおりですか、とても潔癖なところがおありになります。ほんの僅かでも些細なミスをしようものならたちまち処刑されました。
それほど苛烈な気性を持っておりました。私どもの親は、ドール様の支援で企業をして多大な利益をあげていたのですが、部下の不始末で顧客の情報が、他の財閥や貴族に流れました。これは大きな損失と損害をドール様に与えました。ドール様はすぐに苛烈な処分をいたしました。
損害賠償を申し立てられ、私共は親のためにドール様に忠誠を誓いました。
そのおかげで、家のとり潰しは辛うじて免れました。
代償に、パスカ様の御身を一生守れとも命じられました。」
「まあ・・そうでしたの。」
わたくしはもう苛烈な事情に何も言えませんでした。
ルナは昏い瞳でわたくしを見ました。
「パスカ様。ドール様を裏切らないでくださいまし。あのお方はこの数年多くの腐敗した貴族を粛正対象として処刑したのです。あの時代のドール様は正に地獄から出てきた鬼のような心で、血に塗れてきました。
そんなドール様がパスカ様を得ただけで、心の均衡を取り戻したのです。あのお方は欠けた月が満ちるようにパスカ様といる間だけ安らぎを戻すのです。」
「まさか。そのような・・。」
わたくしは失笑しました。ドール様のような偉大なお方が、わたくしこどきのとるに足らない奴隷女に影響されるものですか・・。わたくしは否定しましたが、あの悍ましい真実を告げたのはこのわたくしであることに気づき、わたくしは、不意に戦慄しました。
エセルのすがるような鬼気迫った顔がルナの言葉が真実だと告げていました。
わたくしは、どうやらパンドラの箱・・災厄の箱を開けてしまった女だったようですね。
わたくしは自分の犯した罪の重みに気づきました。
わたくしはそ知らぬふうで生きようと思いました。それが一介の奴隷女にできる生きる術ですから。
エセルが無表情で硬い顔で、わたくしに呟きました。
「パスカ様。貴方様とドール様がいかなる縁でどのように結びついたか分かりませんが、我らは、パスカ様がドール様を裏切らない限り貴方をお守りします。そして我らはもう一つ。ドール様から命令を頂いております。
パスカ様の監視です。不意にどこかへ姿を消さぬようにと。」
わたくしは眩暈がしそうでしたが、よくぞ気絶しなかったものです。あれは奇跡と言っていいでしょう。
わたくしはわたくしに架せられたドール様の深い思いに蝶のように囚われました。
わたくしはドール様とドール様に関わる人たちの運命をあの真実を告げることで大きく変わらせてしまったようです。
わたくしはその重みに今更ながらに気づきました。 わたくしは目を閉じました。
わたくしは重い感情に蛇のように巻き付かれました。
でもわたくしはそれを受け入れました。これがわたくしの運命とわかりました。
拒否しようものなら、ドールはセルマやわたくしの仲間を容赦なく殺すでしょう。わたくしは彼の性質を共に生きるほど、すっかり理解しました。
中には、得体のしれない寄生虫。淫売。傾国の女とも危険視され、敵視され、冷ややかな目を向ける者は多かったのですが、わたくし一介の女に何かできるでしょうか?
わたくしにできるのは、君主の心を損ねぬよう、慰撫し、崇めるだけです。
ドールはわたくしの奉仕と思いを受け、安堵したように微笑みます。
わたくしは少しときめきました。これが恋なのかもしれませんね。わたくしは或る意味幸福なのかもしれません。
仕える主人に恋をしたのですから・・。
見たところ、ドールは仕事や領主としての器量に満ち溢れ、彼の治める領土は安定しているように見えましたが・・
わたくしに仕える侍女が二人ドールに選別され、御付きとなりました。
わたくしは、不思議に思いながら、侍女二人を見ました。 一人は豪奢な金の髪を丁寧に結い上げて目だたぬようにしています。瞳も淡い菫色をした美しい女です。 もう一人は、ブルネットの髪で男のように短髪です。精悍な男のような美貌をした不可思議な女でした。でもどちらも貴族特有の雰囲気がありました。
彼女らは淑女の微笑をして、わたくしに仕えますと見事なカーテシーをしました。
まあ・・。内心。どこの馬の骨とも知れないわたくしのような奴隷女に仕えるなど大抵の貴族の女は嫉妬や怒りで顔を歪ませますが・・。
わたくしは困ったように微笑むと、金の髪の侍女はルナと言いました。ルナ・・月の女神の名前ですね。
とても美しい響きです。短髪の女はエセルと言いました。エセル・・?その意味の名は解りませんね。
ルナに尋ねると、とても立派な。高貴なと言う意味です。
わたくしは驚きました。そんな大層な名前ばかりついた貴族の方たちが何故、一介の奴隷ごときに仕えるのでしょうか?
わたくしは卒直にその疑問を彼女らに伝えました。
彼女らは複雑な表情をしました。
「ドール様が、新しくこの領地の領主となられたからです。ドール様はご存じのとおりですか、とても潔癖なところがおありになります。ほんの僅かでも些細なミスをしようものならたちまち処刑されました。
それほど苛烈な気性を持っておりました。私どもの親は、ドール様の支援で企業をして多大な利益をあげていたのですが、部下の不始末で顧客の情報が、他の財閥や貴族に流れました。これは大きな損失と損害をドール様に与えました。ドール様はすぐに苛烈な処分をいたしました。
損害賠償を申し立てられ、私共は親のためにドール様に忠誠を誓いました。
そのおかげで、家のとり潰しは辛うじて免れました。
代償に、パスカ様の御身を一生守れとも命じられました。」
「まあ・・そうでしたの。」
わたくしはもう苛烈な事情に何も言えませんでした。
ルナは昏い瞳でわたくしを見ました。
「パスカ様。ドール様を裏切らないでくださいまし。あのお方はこの数年多くの腐敗した貴族を粛正対象として処刑したのです。あの時代のドール様は正に地獄から出てきた鬼のような心で、血に塗れてきました。
そんなドール様がパスカ様を得ただけで、心の均衡を取り戻したのです。あのお方は欠けた月が満ちるようにパスカ様といる間だけ安らぎを戻すのです。」
「まさか。そのような・・。」
わたくしは失笑しました。ドール様のような偉大なお方が、わたくしこどきのとるに足らない奴隷女に影響されるものですか・・。わたくしは否定しましたが、あの悍ましい真実を告げたのはこのわたくしであることに気づき、わたくしは、不意に戦慄しました。
エセルのすがるような鬼気迫った顔がルナの言葉が真実だと告げていました。
わたくしは、どうやらパンドラの箱・・災厄の箱を開けてしまった女だったようですね。
わたくしは自分の犯した罪の重みに気づきました。
わたくしはそ知らぬふうで生きようと思いました。それが一介の奴隷女にできる生きる術ですから。
エセルが無表情で硬い顔で、わたくしに呟きました。
「パスカ様。貴方様とドール様がいかなる縁でどのように結びついたか分かりませんが、我らは、パスカ様がドール様を裏切らない限り貴方をお守りします。そして我らはもう一つ。ドール様から命令を頂いております。
パスカ様の監視です。不意にどこかへ姿を消さぬようにと。」
わたくしは眩暈がしそうでしたが、よくぞ気絶しなかったものです。あれは奇跡と言っていいでしょう。
わたくしはわたくしに架せられたドール様の深い思いに蝶のように囚われました。
わたくしはドール様とドール様に関わる人たちの運命をあの真実を告げることで大きく変わらせてしまったようです。
わたくしはその重みに今更ながらに気づきました。 わたくしは目を閉じました。
わたくしは重い感情に蛇のように巻き付かれました。
でもわたくしはそれを受け入れました。これがわたくしの運命とわかりました。
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