地獄？いいえ極楽鳥花の人生です。

第16話 輝かしい奴隷

貴族社会では、ドールの放蕩が有名になっていた。勿論、仕事の辣腕ぶりは見事で、以前よりドールの家は繁栄した。
しかし良くない噂もあった。血縁者が唐突にごっそり『事故』で消えたなど、なぜか白痴のよく似た男が居るなど不穏な噂もあった。勿論、ドールの絶対な権力が、捜査の介入を許さなかった。


やがてドールの寵愛を一身に受けている『豪奢な奴隷』『輝かしい奴隷』とも異名を持つ女が噂になった。

パスカと言う女である。　愛人と言われるが、それ以上にドールは至上の宝石のように扱った。


ドールはパスカの宝石のような瞳を何より愛した。

その美しさを最大限に活かすため、ドールは宝飾の名工と呼ばれるモードリン・ゲレルの宝飾品をドールのための宝飾品を創れと注文した。
かなりの大金であった。

モードリン・グレルはパスカの容姿を見て、何故か鳥や、花、極楽をイメージした。
そのイメージのままに、モードリンは宝飾の女神が宿ったように、一心不乱に作り始めた。

イエローゴールドの宝石やオレンジ色の宝石や藍色の宝石，青空のような色をした宝石、光り輝く硬質な白く透明な宝石、赤い宝石など、希少な宝石を探し回り、一個だけでも素晴らしいと解る宝石を無数に彫金加工して、東洋の孔雀のようなプローチを創った。
目には赤い宝石。鳥の頭には藍色や青色、オレンジの宝石を彫金加工して鳥の身体や羽は羽ばたくように、あらゆる宝石を繋ぎ合わせ、夢のような豪奢な芸術作品を創り上げた。

モードリン・グレルの最高傑作であった。

「おお・・。」ドールはこの傑出した芸術的な宝飾品を目を輝かせて、良くやったと言うようにモードリンをねぎらった。　モードリンはドールの寵愛する職人となった。

それから、モードリン・グレルの才能は鳥が羽ばたくようにイメージが奔流して、何冊もデッサンを書き留めては破ったり、創っては、失敗と分かると壊したり、彼の才能は止まるのを知らなかった。

ドールはモードリン・グレルの才能を愛した。　彼が生み出す芸術作品は最高だ。

他にも、才能あるお針子、シーラ・プリエールは、繊細な絹糸から編み出す絹の宝石と言われるオートクチュール
何か月もかかる一点もののドレスを創り出す名人と言われていた。

ドールはシーラに命じて1年のうちにパスカのための服を創れと要求した。

シーラはパスカの美しい瞳、容姿を一目見て、この人に一番ふさわしい衣装を創ろうと決心した。
これはシーラのお針子としての高みに昇りつめる機会かもしれない。
彼女は繊細に慎重に花柄とかすかに鳥の紋様が見えるように細工して、絹から長い衣装を編み上げた。

少女のようでもあり女のようでもある妖艶なパスカ。
彼女のためのドレスは妖精のようなふわりとしたドレスにした。

裾は花が咲くように見せた。
完璧にシーラは設計してドール様に、出来上がったドレスを見せた。
ドールは満悦の笑みを浮かべた。

破格の報酬と、貴族社会で一目置かれるお針子の勲章を頂いた。

パスカという女のお陰で才能が発揮された職人は少なくとも二人以上いた。


貴族社会の舞踏会で、ドールは、パスカを連れてお披露目をした。

輝かしい女が居た。

繊細な絹の花のような鳥のような文様をした白いドレスの胸のあたりにモードリン・グレルの最高傑作の孔雀のブローチをつけた宝石のような瞳を持った女。
髪も艶やかに光を帯びて美しかった。

彼女がいるだけで一段と光り輝くようであった。


貴族の女たちは、羨望のまなざしを向け、あのブローチのような宝飾品が欲しいと垂涎した。
嫉妬の目もあったが、パスカは唯にこやかに微笑んていた。

彼女は慣れていた。伯爵やリーナ夫人のお気に入りの人形から、ドール公爵のお気に入りの人形に変わっただけだ。
大して変わらない。

中にはドールの目が届かないところで聞くに堪えない侮辱も受けたが、彼女は耐えた。
寛容に彼女は許した。　パスカにとって、彼らは無知な傲慢な子どもにすぎなかった。


彼女から、輝かしい未来、寛容、　気障な恋などイメージを浮かべる感受性の高い人々も居た。
彼女はいつの間にか、極楽鳥や花のような象徴となった。


パスカの事を話して、恋をするようになった若き貴族たちもいた。
彼らはパスカの鳥に影響されて、求愛の行動や、気になる娘や息子に秋波を送るようになった。

自然に結ばれて、子を授かった者たちもいた。

彼らはパスカは、愛や恋の女神の化身かもしれないと噂をした。