女の不可思議な人生

栗菓子

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第3章 売春宿の友

運命の迎え

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数か月後、据えた暗い売春宿の近くに馬車の音が聞こえた。でも変だ。いつもより力強い。
ギイと売春宿の前に馬車が止まった。
いつものあたらしいやつらか? レイド。細目の男は首をかしげたが、すぐに違うと気づいた。
古びた馬車より、地味だが立派な馬車。黒い馬車。従者らしき男は馬車の扉を開けた。
ゆっくりと降り立ったのは、とても妖艶で美しい長い金の髪と菫色をした儚げな貴族の娘だった。
地味だが淡い高級な衣装をまとった娘。それを守る騎士のように数人の立派な体格をした男たちも降り立った。
天上の者が、腐敗したところに降り立って場違いなとレイドは呆れそうになった。
戦闘奴隷らしきものたちも現れた。とても強い人たちだ。力量が違う。
レイドは戦うことを放棄した。
レイナだけは後ろにして守った。
売春宿の老婆が、珍しく狼狽して「これは貴族の方達が何用でここにいらっしゃったのですか?ここには何もありませんか・・」と媚びるように言った。
レイドは貴族のほうが強いと力関係が分かった。
「夢の宣言を聞いたのです。私たちは私たちが探しているお方がここにおわすと夢で聞きました。」
「荒唐無稽な話ですが、私も含めて味方たちは全員同じ在処を告げられました。」
「とても美しいお方。行方不明となった貴族。エンデイミオン。」
「ここにいる。」
はっと彼らは売春宿の奥を見た。探し求めた主君がそこにいた。虚ろでやつれていたが、目だけはギラギラと憤怒に満ちていた。
「そなたら。夢の世界で女に会ったのだな。女に在処を告げられた。そして我らは再会した。」
「女はこの売春宿で働いていた。だが醜き男に壊され殺された。」
「女は巫女となった。夢の世界なら会える。大事なことを伝えられると。」
「女の名前はマナミだ。彼女は我に元の世界へ戻れと言った。」
「レイナと細目の男。他の売春婦も良き運命を私の分まで与えてくれと」
そして、エンデイミオンは震えながら「貴方を裏切り貶めた者へ復讐をとマナミは囁いた。」
そうその通りだ。わたしには復讐する権利がある。エンデイミオンはギラギラと獣のように唸った。
地獄を味わった男には、かつての婚約者でさえも別の世界に生きている女にしか見えなかった。
だが、迎えに来てくれた。
「そなたら感謝する。我はかつての世界へ帰還する。夢の巫女マナミの言ったように、レイナと細目の男、他の売春婦も連れて行く。もっと良きところへ」
老婆は茫然自失となった。
がくがくと震えながら「そんな旦那困ります。あたしはどうなるんです。商品が居なくなったらあたしは飢え死にです。勘弁してください。」老婆は土下座した。
エンデイミオンは冷たい目で老婆を見た。「お前は醜い男に、殺されると分かっていながらマナミを売った。大金に目が眩んで。」「さぞや嬉しかったろう。お前のために死にゆく女を見たお前の目。ゴミを見たような目。醜悪な心を映した目。」
老婆はなおも抗った。「旦那は惑わされています。あんな女。どうせすぐに死んでしまう女です。
夢の巫女だなんて。旦那はあの女の亡霊に憑かれ惑わされているのです。」
エンデイミオンは冷笑した。
「だがその亡霊が私をあるべき世界へ戻れと言ったのだ。神よりもわかっている。」

レイドは呆然と話を聞いていた。死んだマナミ。彼女が夢の巫女になって、夢の世界で託宣を?
エンデイミオンの話を聞いて、彼らは呆然となった。
レイナとレイド。他の売春婦はもう一つの馬車に乗せられた。前より立派な馬車。
マナミが死んでもっと良い運命を与えたんだ。 彼女は義理堅い女だった。
最後にエンデイミオンが無表情に、老婆を剣で突き刺した。
一太刀であっけなく老婆は死んだ。
マナミを壊した醜い男もいずれは追われて殺されるだろう。
運命は不可思議だと思った。 不条理だが、どこかで納得する面もあった。
レイナとレイド。他の売春婦はあまりいい思い出がない売春宿を後にした。見えなくなるまでずっと老婆の死骸と売春宿を馬車から見続けた。
エンデイミオンは狂ったように笑った。
「何が亡霊だ。生きている人のほうがずっと怖いし、醜悪じゃないか」
「神よりもマナミを信じる」
どこか狂信者めいた光を感じた。
家畜のように少しずつ殺されていく運命より、激動の運命に連れていかれた。
死んだ女の亡霊。マナミによって。レイドはマナミを信じた。レイナをもっと良い運命に連れていってくれるのなら
亡霊でもいい。レイドもまたここよりはマシと思っていた。
彼らの長い旅路が始まった。
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