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第5章 戦いの後
第3話 主婦の憂鬱⑦
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シズナは、果てしなく憂鬱だった。
この上位世界の創造神になったシズナは、膨大な力がシズナの矮小な心に反して、勝手に動き出している。
力そのものが意思をもったように、空間を光で埋め尽くし、シズナは人の姿から、花の邪神のような姿に変容していた。何色にも幾重にも光り輝く物体から、触手のようなものが世界を覆っていった。
蛸は、別の世界の生き物が漂ってきたという逸話をシズナは人であった時、迷信として笑い話で聞いたことがある。
だが、今は真実味を帯びている。シズナの触手もみようによっては蛸の触手にも見える。海底に棲む生き物の触手だ。生臭くはない。それどころが甘い香しい匂いをしている。
花の邪神は、もしかして敵に敗れた神では?はるか宇宙から落下し、海底へと沈んだ邪神では?
シズナはおぼろげながらに、邪神の記憶を持っていた。それは矮小なシズナの心には発狂しそうな醜悪な世界の一部もあったので、無意識にシズナは人の心を防御して忘却という都合の良い力で、己の人の心をかろうじて守った。
シズナは確かに沈む花だったのだ。遥か高みにあった宇宙から墜ちた海底に沈む邪神と同化した花だった。
シズナは、今や、母親としての愛や、恋人エンデイミオンへの思いを糧に、己の力と戦っていた。
花の邪神はシズナの死骸を媒介に蘇生をし、更に遥か高みへ還ろうとしている。
そんなのは御免だ。まだ、子どもたちの行く末が気になる。
ダリア。ゴルデア。ミモザ。小さくてもシズナたちが必死で生きた場所だ。悍ましい嫌なこともあったけど、今はもういい。彼女らは必死で人として生きた記憶が眩く鮮明に光り輝いている。
それを糧に、シズナは人の心を強固に保っていた。
邪神の理解できぬ精神構造に組み込まれず、邪神の狂気に満ちた精神浸食をかろうじて防御していた。
それも時間の問題かもしれない。
シズナは徐々に防御システムが崩壊しつつあるのを感じていた。嗚呼・・わたしはシズナの心は消滅してしまう。
彼女は、諦観した。その時、シズナにとって奇跡が起きた。
ミモザの悲痛な願いと祈り。娘であるロサ・アルバが惨殺された悲嘆と蘇生への渇望。祈り。願い。痛烈な上位世界へも届くほどの強き願いと祈りが、シズナの消えゆく心を繋ぎとめた。
嗚呼。嗚呼。ミモザ。わたしの力を求めているのね。わたしを探しているのね。わたしを必要としているのね。
ダリアもわたしを求めている。
彼女らの祈りと願いがシズナの心を蘇生させた。
嗚呼。ここにきて頂戴。貴女たちがいればわたしはわたしでいられる。
シズナは本能的に、彼女らを上位空間へと己の世界へと呼び寄せた。
ふっと陽炎のように、ミモザとダリアが現われた。嗚呼。嗚呼。奇跡だわ。
彼女らがそこに居るだけで、シズナの心が安定化した。邪神の精神侵略を跳ね飛ばすことができた。
シズナはシズナで居られた。
嗚呼。奇跡だわ。 わたしの救い。わたしを救った彼女ら。
シズナは直ぐに、ロサ・アルバの欠片の髪を媒体に蘇生させた。みるみるロサ・アルバの身体は蘇生でき、魂を保護する水の風船のようなものができ、彼女はそこでしばらく眠りにつかせた。
水の塊の中にいる彼女は水中花のように美しかった。目を閉じてゆらゆらと眠りについている。
ダリアと、彼女の母親であるミモザも回復させた。
「嗚呼・・二度とは会えぬと思ったわ。ミモザ。ダリア。 わたしを呼んでくれてありがとう。
貴女の娘は深く傷つけられていたから、魂と体はここでしばらく休養させるわ。しばらくしたら目を覚ますはずよ。
安心して。ミモザ。」
シズナは聖母のように、ミモザに微笑んだ。
ミモザは信じられないような顔をして、水のなかにいる娘と、シズナを交互に見て、こどものように泣きじゃくった。ダリアも安堵したように涙を流した。
「シズナ様。祈りと願いを聞き届けて下さってありがとうごさいます。貴女様には永遠の忠誠を誓います。
貴女様のおそばにお仕えすることをお許し下さい。」
ミモザは切実な真摯な思いで忠誠を誓った。ダリアも、膝をついて、同じように「私も貴女を真の女神としてお仕えさせてください」と忠誠の証を誓った。
シズナは微笑んで、嬉しやと頷いた。
貴女たちがわたしを必要としてくれたからわたしの意識は消滅しなかった。
「嗚呼。ダリア。ミモザ。いいのよ。それよりわたしの名前をもっと言って。わたしはシズナよ。
わたしを繋ぎとめて。ダリア。ミモザ。」
「貴方達の祈りと願いがわたしの心と意識を蘇生させるのよ。」
「わたしは邪神の理解できぬ精神浸食を受けそうになっていた。貴方達の祈りと願いがわたしをわたしたらしめたのよ。今なら膨大なこの力を使っても、わたしであり続けることができる。」
シズナはミモザとダリアに彼女らの起こした奇跡を伝えた。
彼女らはかつてなく驚愕した顔をした。
運命は不可思議だ。 嗚呼、セルシーオ・ナミはどうなったのか?ゴルデアは?リコリス部隊は? エンデイミオンは? そしてわたしが名付けた子どもハ、ナナミは?
彼女らは今はどうなっているのかとシズナは思った。
すると、下界の彼女らの現状が映像のように シズナやミモザ、ダリア達の目の前で浮かんでは消えていった。
嗚呼・・辛うじて勝ったのね。今彼女らは、戦の後の混乱の真っ最中だ。
「シズナ様。わたしたちはもう下界へ降りることはできないのでしょうか?」
ダリアが尋ねた。ミモザもダリアを不安げに見た。
シズナは首を振った。
「わからない。わたしもこの世界に求められて連れてきた。でもどうやって下界に降りるかはまだわからない・・
彼女らなら大丈夫でしょう。信じましょう。今は、ロサ・アルバ。 華の女王の目覚めを待つしかないわ。」
ミモザは深く頷いた。ダリアもただ黙ってロサ・アルバとミモザ、シズナやこの世界を見渡して深く頷いた。
「彼女らを信じましょう。」
ダリアは唯、呟いた。 とても孤独そうだった。 思わずシズナはダリアを抱きしめた。
わたしたちがいるから安心して。ダリア。今は休むのよ。
ダリアは目を深く閉じて頷いた。
この上位世界の創造神になったシズナは、膨大な力がシズナの矮小な心に反して、勝手に動き出している。
力そのものが意思をもったように、空間を光で埋め尽くし、シズナは人の姿から、花の邪神のような姿に変容していた。何色にも幾重にも光り輝く物体から、触手のようなものが世界を覆っていった。
蛸は、別の世界の生き物が漂ってきたという逸話をシズナは人であった時、迷信として笑い話で聞いたことがある。
だが、今は真実味を帯びている。シズナの触手もみようによっては蛸の触手にも見える。海底に棲む生き物の触手だ。生臭くはない。それどころが甘い香しい匂いをしている。
花の邪神は、もしかして敵に敗れた神では?はるか宇宙から落下し、海底へと沈んだ邪神では?
シズナはおぼろげながらに、邪神の記憶を持っていた。それは矮小なシズナの心には発狂しそうな醜悪な世界の一部もあったので、無意識にシズナは人の心を防御して忘却という都合の良い力で、己の人の心をかろうじて守った。
シズナは確かに沈む花だったのだ。遥か高みにあった宇宙から墜ちた海底に沈む邪神と同化した花だった。
シズナは、今や、母親としての愛や、恋人エンデイミオンへの思いを糧に、己の力と戦っていた。
花の邪神はシズナの死骸を媒介に蘇生をし、更に遥か高みへ還ろうとしている。
そんなのは御免だ。まだ、子どもたちの行く末が気になる。
ダリア。ゴルデア。ミモザ。小さくてもシズナたちが必死で生きた場所だ。悍ましい嫌なこともあったけど、今はもういい。彼女らは必死で人として生きた記憶が眩く鮮明に光り輝いている。
それを糧に、シズナは人の心を強固に保っていた。
邪神の理解できぬ精神構造に組み込まれず、邪神の狂気に満ちた精神浸食をかろうじて防御していた。
それも時間の問題かもしれない。
シズナは徐々に防御システムが崩壊しつつあるのを感じていた。嗚呼・・わたしはシズナの心は消滅してしまう。
彼女は、諦観した。その時、シズナにとって奇跡が起きた。
ミモザの悲痛な願いと祈り。娘であるロサ・アルバが惨殺された悲嘆と蘇生への渇望。祈り。願い。痛烈な上位世界へも届くほどの強き願いと祈りが、シズナの消えゆく心を繋ぎとめた。
嗚呼。嗚呼。ミモザ。わたしの力を求めているのね。わたしを探しているのね。わたしを必要としているのね。
ダリアもわたしを求めている。
彼女らの祈りと願いがシズナの心を蘇生させた。
嗚呼。ここにきて頂戴。貴女たちがいればわたしはわたしでいられる。
シズナは本能的に、彼女らを上位空間へと己の世界へと呼び寄せた。
ふっと陽炎のように、ミモザとダリアが現われた。嗚呼。嗚呼。奇跡だわ。
彼女らがそこに居るだけで、シズナの心が安定化した。邪神の精神侵略を跳ね飛ばすことができた。
シズナはシズナで居られた。
嗚呼。奇跡だわ。 わたしの救い。わたしを救った彼女ら。
シズナは直ぐに、ロサ・アルバの欠片の髪を媒体に蘇生させた。みるみるロサ・アルバの身体は蘇生でき、魂を保護する水の風船のようなものができ、彼女はそこでしばらく眠りにつかせた。
水の塊の中にいる彼女は水中花のように美しかった。目を閉じてゆらゆらと眠りについている。
ダリアと、彼女の母親であるミモザも回復させた。
「嗚呼・・二度とは会えぬと思ったわ。ミモザ。ダリア。 わたしを呼んでくれてありがとう。
貴女の娘は深く傷つけられていたから、魂と体はここでしばらく休養させるわ。しばらくしたら目を覚ますはずよ。
安心して。ミモザ。」
シズナは聖母のように、ミモザに微笑んだ。
ミモザは信じられないような顔をして、水のなかにいる娘と、シズナを交互に見て、こどものように泣きじゃくった。ダリアも安堵したように涙を流した。
「シズナ様。祈りと願いを聞き届けて下さってありがとうごさいます。貴女様には永遠の忠誠を誓います。
貴女様のおそばにお仕えすることをお許し下さい。」
ミモザは切実な真摯な思いで忠誠を誓った。ダリアも、膝をついて、同じように「私も貴女を真の女神としてお仕えさせてください」と忠誠の証を誓った。
シズナは微笑んで、嬉しやと頷いた。
貴女たちがわたしを必要としてくれたからわたしの意識は消滅しなかった。
「嗚呼。ダリア。ミモザ。いいのよ。それよりわたしの名前をもっと言って。わたしはシズナよ。
わたしを繋ぎとめて。ダリア。ミモザ。」
「貴方達の祈りと願いがわたしの心と意識を蘇生させるのよ。」
「わたしは邪神の理解できぬ精神浸食を受けそうになっていた。貴方達の祈りと願いがわたしをわたしたらしめたのよ。今なら膨大なこの力を使っても、わたしであり続けることができる。」
シズナはミモザとダリアに彼女らの起こした奇跡を伝えた。
彼女らはかつてなく驚愕した顔をした。
運命は不可思議だ。 嗚呼、セルシーオ・ナミはどうなったのか?ゴルデアは?リコリス部隊は? エンデイミオンは? そしてわたしが名付けた子どもハ、ナナミは?
彼女らは今はどうなっているのかとシズナは思った。
すると、下界の彼女らの現状が映像のように シズナやミモザ、ダリア達の目の前で浮かんでは消えていった。
嗚呼・・辛うじて勝ったのね。今彼女らは、戦の後の混乱の真っ最中だ。
「シズナ様。わたしたちはもう下界へ降りることはできないのでしょうか?」
ダリアが尋ねた。ミモザもダリアを不安げに見た。
シズナは首を振った。
「わからない。わたしもこの世界に求められて連れてきた。でもどうやって下界に降りるかはまだわからない・・
彼女らなら大丈夫でしょう。信じましょう。今は、ロサ・アルバ。 華の女王の目覚めを待つしかないわ。」
ミモザは深く頷いた。ダリアもただ黙ってロサ・アルバとミモザ、シズナやこの世界を見渡して深く頷いた。
「彼女らを信じましょう。」
ダリアは唯、呟いた。 とても孤独そうだった。 思わずシズナはダリアを抱きしめた。
わたしたちがいるから安心して。ダリア。今は休むのよ。
ダリアは目を深く閉じて頷いた。
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