或る主婦のおかしなおかしな憂鬱

栗菓子

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第4章 子どもたちの戦記

第7話 ダリアの降下

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シズナはしばらく幸福だった。
無限の力に満ち溢れ、娘ともいえるダリア達を守れたのだから。ここならだれも傷つけられない。
ダリアもはじめは夢のようと喜んだ。
でも、怪我が完治するにすれ、下界のダリア達が住んでいたところ、宗教施設セルシーオ・ナミは今どうなっているのか気になり始めた。
ダリアは始めは、ゆっくりと養生して安堵に満ちた目をしていたが、だんだん眼光が鋭くなり、戦士の眼差しをするようになってきて嗚呼・・ここには繋ぎ止められない。彼女らは戦士だから・・。

シズナはそれを悟って悲しくなった。シズナはもう下界へは降りられない。シズナの力は莫大なものになって迂闊に降りれば、下界が力を支えきれなくなって悲鳴を上げるかもしれない。

「ダリア・・やはり気になるのね。敵の動向とか、かつての住処が・・忘れればいいのに・・。」

ダリアは花のような顔を憂いに帯びた表情に変えた。
「御免なさい・・シズナ。やはりわたしは戦士なのよ。どうしても敵やわたしが守るはずだったところが気になるの・・。それはリコリス部隊も案じていることなの。」

シズナは予想がついた事情に溜息をついた。
彼女らは下界に降りる覚悟を決めたのだ。せめてシズナは、彼女らに強力な加護と祝福を与えた。

「これが今生の別れになるかもしれない。魂はどこにいくかわたしにも分からない。二度と出会えないかも。
会えたとしても、まるでお互いに別人、別の種族のようになっているかもしれない。未来は解らないわ。
今まで言わなかったけど、ダリア。貴女の事は美しく誇らしい娘だと思っていたわ。
愚かな愚かな女の戯言だと思って頂戴。リコリス部隊も同じ。素晴らしい子たちと思っていたわ。
彼女らは虐待されながらも這い上がってきたもの。わたしはそれをいつも誇りに思っていた。」

貴女たちの雄姿に見惚れていたわ。わたしはずっと見守っていたかった。

「シ、シズナ様。お許しください。あ、あたしはずっとあなたに感謝していました。貴方様のお陰であたしのろくでもない人生は少しは喜びに満ちた人生になりました。シズナ様は貴方様はあたしにとって本物の女神です。
ダリア様とミモザとも一緒に居られてあたしは幸福を取り戻しました。」

嗚呼。『地獄の道化師』と呼ばれる女ね。馬鹿ね。化粧を落とすとこんなに美しいのに。
リコリス部隊でも一際輝いているわ。貴方は復讐の輝きを纏って、許せない罪人を殺してきた。

それは正当な報復だわ。 あたしはなぜか彼女に名前を与えたかった。
「まあ・・わたしはほんの少し力を分けただけよ。でもそうね。貴方の名づけ親になっていいかしら。
貴女は本当に美しい女だわ。 ナナミ。 七つの美しさを持った女よ。
正当な報復。誇り。美しい心。戦う意思。悲しみ。不屈。最後は・・そうねいつかわかるようになるわ。
最後は秘密よ。 ナナミ。美しき戦士よ。ダリアとミモザと仲良くね。」


「シズナ様・・あたしは・・」 彼女は美しい瞳からぼろぼろと子どものように涙を流した。とても美しかった。

嗚呼。行かせたくない。でも行かせなければ、彼女らは戦士で己の人生を決着をつけようとしているのだ。
それを止めることはできない。

「行きなさい。我が娘らよ。そなたらに祝福と加護が有らんことを願います。」

ダリアは少し悲し気な顔でシズナを見た。
ダリア達は光に包まれて、ゆっくりと消えていった。下界に戻るのだ。
最後にダリアは、口でア リ ガ ト ウ オ カ ア サ ン サ ヨ ナ ラ とゆっくりとシズナに伝えた。
とても美しく儚い微笑みだった。

娘たちが消えて、シズナは一人になった。

ずっと涙が止まらなかった。 シズナは喚き散らしたかった。こんな運命は望んでいなかった。下賤な女がダリアのために、ずっと高貴な女神を演じていただけだ。
行かないでとずっと言いたかった。でも親としての心がそれを許さなかった。娘の誇りを踏み躙りたくなかった。

彼女は世界で唯一孤独な女神になった。
彼女は子どものように倒れて泣き続けた。 


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