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第2章 宗教施設
第8話 主婦の憂鬱
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シズナは悩んでいた。はじめは一度死んだ身だから、淡々と主婦と女優の道を歩もうと思った。
だが、ダリアは思っていたより名監督らしい。シズナが演じる教祖は瞬く間に、狂信者や信仰する人が増えた。
シズナはいつまでこの陳腐な舞台で教祖を演じなければならないのかと憂鬱になった。
中には、偶像としてシズナを情欲や、崇拝や、憎悪や何もかも混沌とした感情を向けられた。
これにはシズナにも辟易した。
このままでは、とんでもないところへ行くかもしれない。シズナは唯の下級女神、邪神のはした女である。
邪神の不興をかったらシズナは前の骸に戻るだろう。
それは嫌だ。ダリアにそれを言ったら、ダリアはちょっと不可解な顔をした。
ねえ。シズナ。邪神に人間と同じ精神構造はあるのかしら・・?
人間でも変わった精神構造をしているのがいるから、ましてや邪神はよりかけ離れた精神構造をもっているかもしれないわ。偶々。シズナは気まぐれに蘇生されたけど、それは食糧。贄を求めてのことでしょう。
邪神はもしかしたら幽閉されているかもしれない。だって私なら、直接贄を求めて侵略するわ。人間でもやっていることだもの。邪神なら容易いはずよ。
何故しないのかしら?
あ、とシズナは思わず口を開けた。考えたこともなかった。邪神とはあれ一度限りであったことが無い。
唯、贄を運ぶ役目を果たすだけだ。
シズナは精神構造とか考えたことが無かった。
考えてみればシズナはやはり民なのだ。盲目の目を潰された人だ。
ダリアは貴族の血を引いている。だから色々と難しい事を考えられる。
どうしてダリアが選ばれなかったのだろう。シズナは悲惨な運命の果てに数奇な蘇生をして教祖をやっているだけの女だ。少し、シズナは自分の愚かさに失望した。
シズナはあれこれ考えるのを止めた。なるようにしかならない。
実は、シズナはあれから能力が増している。ダリアやゴルデア以外には隠しているが、時折、過去や現在、未来が見えるようになっている。
シズナは時の環の上に立っているのだ。
シズナは時の流れに弾かれた異端者なのだ。だから時の流れや起きる出来事が見える。
それは大抵確定事項だった。シズナは深い溜息をついた。
見たところで何もならない。嫌な運命もある。シズナと同様に。シズナはあまり使いたくなかった。
だが、ダリアの気まぐれが移ったのだろうか?
時折、シズナは試しに、とても不幸な少女をどうやったら幸福にできるかと『教師』に問いかけた。
『教師』はシズナの考えもつかないような思考と答えを言った。
シズナは『教師』の言う通り試してみた。
シズナが一番気になっていたのは、どうしようもなく悲惨な少女。
頭も能力も徹底的に劣って、唯嬲られ殺されるのを待つだけの少女。両親はそれを楽しがって見ている愚劣な心を持った畜生以下の人。少女の未来はなかった。シズナと同様に無かった。
そんな少女や子供たちはあまたといる。その中で一番気になってのがそれでも愚かにも両親を愛し慕っている子どもだ。シズナはそんな子供たちを見る度に呆れうんざりし、憂鬱になった。
その中でもどうしようもなく親を愛し求めている哀れな子どもをシズナは選んだ。
どうやったら幸福になれるかだ。
シズナは少女に直接関わらなかった。間接的に、良き縁の相手と結べるよう導くだけだ。
その中で試練もあるかも知れないが、最終的に幸福になれるようシズナは願った。
お互いを偽りなく信じ愛し愛される相手と仲良く死ぬまで幸福になれるようシズナは願った。
それはシズナが裏切られた運命だったから。可哀そうな夫。弱くてどうしようもない夫。
これは神の身勝手な欲望だ。
シズナは少女に最大の奇跡を与えた。
少女はシズナを知らない。それでいいのだ。
これは運命に裏切られ、痛めつけられた女のささやかな復讐だ。
運命は残酷だが、一輪の幸福な花があってもいい。 シズナはそう信じて疑わなかった。
だが、ダリアは思っていたより名監督らしい。シズナが演じる教祖は瞬く間に、狂信者や信仰する人が増えた。
シズナはいつまでこの陳腐な舞台で教祖を演じなければならないのかと憂鬱になった。
中には、偶像としてシズナを情欲や、崇拝や、憎悪や何もかも混沌とした感情を向けられた。
これにはシズナにも辟易した。
このままでは、とんでもないところへ行くかもしれない。シズナは唯の下級女神、邪神のはした女である。
邪神の不興をかったらシズナは前の骸に戻るだろう。
それは嫌だ。ダリアにそれを言ったら、ダリアはちょっと不可解な顔をした。
ねえ。シズナ。邪神に人間と同じ精神構造はあるのかしら・・?
人間でも変わった精神構造をしているのがいるから、ましてや邪神はよりかけ離れた精神構造をもっているかもしれないわ。偶々。シズナは気まぐれに蘇生されたけど、それは食糧。贄を求めてのことでしょう。
邪神はもしかしたら幽閉されているかもしれない。だって私なら、直接贄を求めて侵略するわ。人間でもやっていることだもの。邪神なら容易いはずよ。
何故しないのかしら?
あ、とシズナは思わず口を開けた。考えたこともなかった。邪神とはあれ一度限りであったことが無い。
唯、贄を運ぶ役目を果たすだけだ。
シズナは精神構造とか考えたことが無かった。
考えてみればシズナはやはり民なのだ。盲目の目を潰された人だ。
ダリアは貴族の血を引いている。だから色々と難しい事を考えられる。
どうしてダリアが選ばれなかったのだろう。シズナは悲惨な運命の果てに数奇な蘇生をして教祖をやっているだけの女だ。少し、シズナは自分の愚かさに失望した。
シズナはあれこれ考えるのを止めた。なるようにしかならない。
実は、シズナはあれから能力が増している。ダリアやゴルデア以外には隠しているが、時折、過去や現在、未来が見えるようになっている。
シズナは時の環の上に立っているのだ。
シズナは時の流れに弾かれた異端者なのだ。だから時の流れや起きる出来事が見える。
それは大抵確定事項だった。シズナは深い溜息をついた。
見たところで何もならない。嫌な運命もある。シズナと同様に。シズナはあまり使いたくなかった。
だが、ダリアの気まぐれが移ったのだろうか?
時折、シズナは試しに、とても不幸な少女をどうやったら幸福にできるかと『教師』に問いかけた。
『教師』はシズナの考えもつかないような思考と答えを言った。
シズナは『教師』の言う通り試してみた。
シズナが一番気になっていたのは、どうしようもなく悲惨な少女。
頭も能力も徹底的に劣って、唯嬲られ殺されるのを待つだけの少女。両親はそれを楽しがって見ている愚劣な心を持った畜生以下の人。少女の未来はなかった。シズナと同様に無かった。
そんな少女や子供たちはあまたといる。その中で一番気になってのがそれでも愚かにも両親を愛し慕っている子どもだ。シズナはそんな子供たちを見る度に呆れうんざりし、憂鬱になった。
その中でもどうしようもなく親を愛し求めている哀れな子どもをシズナは選んだ。
どうやったら幸福になれるかだ。
シズナは少女に直接関わらなかった。間接的に、良き縁の相手と結べるよう導くだけだ。
その中で試練もあるかも知れないが、最終的に幸福になれるようシズナは願った。
お互いを偽りなく信じ愛し愛される相手と仲良く死ぬまで幸福になれるようシズナは願った。
それはシズナが裏切られた運命だったから。可哀そうな夫。弱くてどうしようもない夫。
これは神の身勝手な欲望だ。
シズナは少女に最大の奇跡を与えた。
少女はシズナを知らない。それでいいのだ。
これは運命に裏切られ、痛めつけられた女のささやかな復讐だ。
運命は残酷だが、一輪の幸福な花があってもいい。 シズナはそう信じて疑わなかった。
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