黄金の狼の傭兵団

栗菓子

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第16話 カテイサとグレイの会話

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通訳者のカテイサは、グレイと共通の悩みの種について相談しあった。

斥候として、サイカ国の状況を色々と調べまわっていた4人であったが、最近 セレストとマルーンの様子がおかしい。それにグレイも気づいて、カテイサはこの重大な仕事中に仲間割れや異変があってはいけない。
秘密を問いたださなければいけない。

「何があった?」と彼らはしつこく同じことを仲間に言った。
下手な秘密は、命とりになる。裏切りなら許さない。ゴルデア様のためにも自分の命のためにも殺す覚悟はできている。

 セレストは一度美しい瞳を閉じて、力強く仲間を見た。
「裏切りはない。唯、運命の伴侶に出会ってしまっただけだ。一度だけ逢瀬を交わした。もう会うことはないだろう。唯、伴侶の住むこのサイカが気になったのだ。以前より遥かにサイカについて考えるようになった。特に最下層の下民。俺たちのような獣に近い状況で生まれ、殺されていく子供たちがな・・。
俺は、最下層の救われぬ子どもたちが気になっている。俺たちのようだな。ゴルデア様にあわなかったら、俺たちも無知な獣のまま死んでいたはずだ。
俺は最下層の子どもたちのところへ行きたい。そして、ゴルデア様のようにあらゆる知恵と知識や情報を授けたい。
これは斥候の任務以外の事であるが、ゴルデア様はそれを了承してくださる気がする・・。
俺はゴルデア様に与えられたものを、このサイカの救われない子どもたちに与えたい・・。
そして、このサイカになにか残るか見てみたい。ゴルデア様が俺をここに寄越したのは運命のような気がするのだ。」

セレストは、誰よりも現実主義で占いとか神秘的な事には無関心だ。唯、恩義あるゴルデア様だけは崇拝してゴルデア様の命令だからこの任務に応じたことは長い間、同胞や仲間として付き合っていた彼らには十分わかっていた。
その彼が運命の伴侶だと・・?最下層の子どもたちが気になるだと・・?

彼の心理的な変化が仲間には信じられなかった。いや・・土壌はあった。ゴルデア様は宗教施設でシズナ女神という教祖で育てられた。その中で、シズナ様の力は本物だったとゴルデア様は言っていた。

ゴルデア様にも、なにか予感とかよく異様に勘が当たっていた。まるで超能力だと時々恐ろしくなることもあった。

そのゴルデア様が我ら四人を選択したのも何か予感があったから寄越したのではないか・・とグレイは思慮深く考えた。
「そうか・・お前はここサイカで運命の伴侶に出会ったのか?誑かされてはいまいか?何故わかるのだ。伴侶と?」

グレイは半信半疑で尋ねた。

セレストは、完全に正気の目で言った。
「俺にもわからない。唯、一目会って、嗚呼この女が運命の伴侶なんだと瞬間に全てを理解した。伴侶とまぐわったのは一夜だけだ。子どもが生まれているかもしれない。だとしたらその子供にも何か役目があるのだろう。
もう会うことはない。現世ではな。 そして俺はずっと最下層の子どもたちが気になっていた。俺の過去と同じ境遇に置かれた子どもたちがな・・。」

「この事は全てゴルデア様に伝えてくれ・・。貴方様が指導してくれた獣セレストは今やサイカの最下層の子どもたちが気になっていると・・。」


「子どもが何なんだよ!弱いから運が悪いから死ぬだけだ。あんなところに生まれたからいけないんだ。冗談じゃない。あんな奴らと僕たちが同じであってたまるか!」


栗色の童顔をしたマルーンはセレストの告白を聞きながら、ヒステリックに女のようにセレストに喚き散らした。
「何が運命の伴侶だ!女なんかに誑かされて!どうしたんだよ。昔のあんたはどこにいったの!」
「サイカの子どもたちなんでどうなってもいい。僕はいつもの仲間とずっと一緒に居たいだけだ。ゴルデア様には感謝している。でもあんたとグレイだけは失いたくない。僕はずっとあのままが良かった。」

マルーンは仲間の成長と変化に適応できず、苦しんでいた。
マルーンは仲間の中でも一番精神が幼く変化を好まなかった。

嗚呼とカテイサとグレイは全てを悟った。マルーンはセレストの心の成長と変化を許せなくなっている。
彼は置き去りにされた子どものように喚き散らしていた。

「許さないからな。セレストを変化させた伴侶とやらを探してコロシテヤル。子どもなんで要らない。
あんたが父親になるなんで・・。どうしてずっと僕らの仲間だけじゃダメなの?」
余りにも身勝手で幼稚な拒絶。変化への恐怖。 マルーンにとってセレストの変化は裏切りだったのだ。

カテイサは余りの運命の急変に当惑しながらも、仲間割れを諫めようとしたが、グレイがそれを制止した。

「やめろ。マルーン。俺には何も分からないが・・仲間と言えども、何かに出会ったら運命はそれだけで変わることもあるんだ。俺たちもゴルデア様に会って運命が変わったじゃないか・・あのままでは皆死んでいたぞ。
セレストは俺たちを裏切ってはいない。唯、出会ってしまったのだ。そして自分の過去を振り返ったのだ。
俺たちも最下層の子どもであったことを・・。お前は忘れたのか。同じなんだよ。とても救われない子どもであった事をセレストは忘れていないんだ。」

ぐっとグレイに言われてマルーンは唇をかみしめた。それでもマルーンは悪鬼の形相でセレストを睨みつけて許さないからなと呟いて逃げた。


カテイサは呆然とマルーンの急変を見ていた。
「あんなに苛烈な心を持っていたとはな・・いや子どもだからかもな・・。しかし・・この事は全てゴルデア様に伝えて良いのか・・?」
グレイは大きく溜息をついた。
「いや。俺も馬鹿だった。マルーンがあんなに壊れやすいとは思わなかった。マルーンこそが一番過去を引きずっているのかもしれない。マルーンが恐れるのは俺やセレストが変わることだ。あれほど脆い心もあったとはな・・。」

カテイサとグレイは呆然となりながらも色々話しあって、特殊な伝令の鳥がある場所へ行って、鳥の足にセレストの件、マルーンの件を全て詳細に明らかにした手紙を小さく巻き付けて、無事にゴルデア様のところへいくのだと命じた。

この特殊な伝令の鳥は迂闊には敵には襲われず呪的なもので守られている。そして命令したある場所、ある特定の人に渡す能力がある鳥だった。
一番飛翔能力が高い鳥を選び、1か月ぐらいで特定の人に渡す役目を果たすことができる鳥だと確認し、早くいけと
飛ばした。 見る見る鳥はカテイサとグレイの目から見えなくなっていった。


彼らは安堵の溜息をついて、とにかくカテイサとグレイだけでもサイカの情勢を詳しく調べようと話しあった。

勿論、セレストもそれをやっていたが任務が終わっては彼は、最下層の子どもたちに何かを指導していた。

それをグレイとカテイサは何とも言えない顔で見守っていた。
まるでゴルデア様のように子どもたちに指導していたからだ。
子供たちの瞳は空洞からいきいきした光が戻り、どんどん知識や世界を吸収したがっていた。

それを遠くから睨みつけるように見ているマルーンもいたことをグレイとカテイサは見逃さなかった。

嗚呼・・こんな思わぬ展開になるなんで・・運命って一体・・。

複雑な心境で悩んでいるうちに、瞬く間に時は過ぎ、ゴルデア様からの伝令の鳥が来た。

カテイサは喜んでこれで問題が解決できると手紙を開いた。すると見る見る微妙な顔になった。

『 セレストがそれを望むなら、望むように生きてほしい。最下層の子どものことは俺も気になっていた。

俺もセレストも最下層の出身だ。俺はシズナ様に出会って変わった。そしてセレスト、グレイ、マルーンを助けた。

これも運命の連鎖だろう。セレストがサイカで何かを見出したなら、その道を進んでほしい。

マルーン・・彼の事は気になるが仲間であるグレイに任せるしかない。

俺は誰と誰が出会うかで運命は僅かでも大きくでも何かが変わると思っている。
 
俺がシズナ様に会わなかったら多分、セレスト、マルーン、グレイは救わなかっただろう。
運命とはそういうものだ。

しかし、サイカの情報調査は忘れるなよ。サイカはどうしても気になる国なんだ。』

それがゴルデア様の偽りなき真実の心を述べた手紙であった。


カテイサは疲れたような顔をして呻いた。グレイもゴルデア様の手紙を見て、溜息をついた。

マルーンは遠くから敵意を持ってグレイとカテイサを睨みつけていた。

グレイは俺がマルーンを・・?とうんざりしたように勘弁してくれと頭を掻きむしった。


気の毒そうにカテイサはグレイを哀れみの瞳で見た。

セレストにもゴルデア様の手紙を見せた。するとセレストは嬉しそうに子どものように笑った。

ゴルデア様はセレストの心を生き方をわかって下さったのだ。

マルーンに渡すと錯乱して破られるかもしれないから、グレイは遠巻きに居るマルーンに向けて、手紙の内容を喋った。ゴルデア様はセレストの生き方を認めたと。思うように生きろと。

マルーンはグレイの監視の下で働くようにと言った。


遠くから金切り声が聞こえた。勿論マルーンだ。しかし主人の望みだ。グレイは覚悟を決めて、マルーンを監視して
働くことにした。

カテイサは遠い目をしてその光景を見つめていた。



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