水底の恋 天上の花

栗菓子

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第7章 夢の終わり 真実の終わり

第11話 真実の終わりⅡ

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わたしは良く夢をみるようになった。
わたしの身体は狂信者によって長い間毒を盛らされて弱っていく。構わない。彼らは彼らなりにハリアン様を愛している。例えそれがハリアン様にとって歯牙にかけないことであっても、わたしという存在がハリアン様の傍らにあること自体が許せないのだろう。
なんという愚かな狂った蛮行か。わたしは呆れてものもいえない。でもわたしは彼らを責めることはできない。
わたしはとうにあの美しい悪魔の贄となったのだから、わたしは過去の恋を引きずり、亡霊が気まぐれに蘇った女にすぎない。

わたしはあの哀れな娼婦の名前を思い出した。花の名前をしたリナリア。幻という意味だ。
嗚呼。ハリアン様のかつての名前はスレイだった。 殺す者。正に彼に相応しい名前だった。

幻って何だろう。それは大勢の人が真実、実在するものと認めない現象だ。ではリナリアは幻の女と言うことになる。だが、わたしはリナリアの記憶を持った女 ネリア姫として転生した。

恐らく、それは少数の者が幻を真実として認めたからわたしはここに存在する。
夢と幻と現実の境目って何だろう。
本当は無いのかもしれない。でもそれは多くの弱き者。自分しか信じない者。まだ何も分からない者。彼らの集団意識が否定したのだ。怖いからだ。自我が弱いものは何もないことに耐えられない。

わたしは或る意味彼らの脅威となっていたのかもしれない。

だから彼はわたしを殺したのだろうか?幻の女を殺した男。

わたしはハリアン公爵に縋り付く。彼は猫のようにわたしを撫でる。わたしの顔や体を宥めるように撫でる。
ハリアン様はわたしを愛おし気に執拗に撫でる。
わたしはハリアン様なら何をされてもかまわなかった。過去と今。
二人の私の意識はよりハリアン様の魂を愛おしく思っていた。

わたしの意識は広大になっていた。より鮮明にハリアン様の意識、魂が見え、彼の輝きに魅せられた。
わたしは彼の恋人であることが奇跡そのものだった。

わたしの両親、アレフとシーナの魂は既に別の世界へ飛び去った。

わたしはもう悲しまない。彼らは彼らの人生を全うしたのだ。

アイシャ。わたしの可愛い妹。この試練に耐えたら、貴女は誰よりも良き人生を歩む女となれる。

シンの嘆き、ジルの憤怒と復讐の声が聞こえてくる。 カイトの復讐の刃がハリアン様に近づいてくる。

ハリアン様を狂信する悪鬼たちがわたしを八つ裂きにしようと虎視眈々と狙っている。

哀れな偽りのリリー姫は、幼いながらも、シンに縋り付いている。嗚呼。リリー。シンと幸福になって頂戴。
殺された姫は可哀相だけど、だれも知らないなら幻になるのよ。
貴女が真のリリー姫となるのよ。シンの妻として穏やかに過ごしてほしい。

わたしは彼がわたしを求める限り全てを与えた。
欲情と嗜虐と僅かな思慕と愛情、侮蔑哀れみ。彼の思いが全て伝わってくる。

わたしは彼の醜い心も美しい心も愛した。全てを抱擁した。

愛している。愛している。この思いさえも幻なら、現実など何の意味があるのだろうか?


わたしは信じている。幻が現実になる時を待っている。真実の終わりに何があるかを待っている。

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