水底の恋 天上の花

栗菓子

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第7章 夢の終わり 真実の終わり

第6話 夢か真実か

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わたしは時々、アレフ・ノーラン家の家族を夢のような奇跡のような家族だと思うことがある。

わたしの母は下賤な歌姫だったのに、父親に見初められてお互いに惹かれあう。そんな奇跡のような出会いはあるのだろうか?

母は年老いても父に愛され続けている。
わたしは知っている。老いた女に男はどれほど残酷か知っている。容赦なく葬られるのだ。醜いといわれて。

かつての愛は薄れ、男は女を捨てる。それは古来からわかり切ったことだ。

でもごくわずかに年老いても共に過ごす男と女が居る。
とても仲が良い老人夫婦をみると、不思議な光景だと思う時がある。


わたしは男と女は性の儀式でしか繋がらない関係だと思っていた。

わたしは何故娼婦の記憶を持って貴族の娘へと転生したのだろう?

死ぬときに、何かの神様とあったのだろうか?思い出せない。無惨な娼婦の記憶を持つと、この世界、この家族があまりにも幸福でまるで夢のような世界だと思ってしまう。


ハリアン公爵と会えたのも夢のようだ。わたしは彼を時々恐る恐ると触れる。
ああ、この体。生きている。ハリアンは笑いながらわたしを猫や愛玩動物のように見る。
面白いのだろうか?私には彼が解らない。

わたしは年老いたら、彼に正直に言おうと思っている。年老いたこの顔を貴方様に見られるのは辛い。
でも貴方様から離れたくない。 わたしを飽きたら醜いと思ったら殺してください。

枯れた花。腐った果実は誰も食わない。見抜きもされない残骸だ。

わたしは束の間彼を悦ばす花だ。だからこそ彼と過ごす一時が愛おしいのだ。まるで奇跡のように私はこの時を花束のように抱きしめる。

儚い人生は、水面のように波紋を残し消え果てる。そしてまた波紋が残る。

虚しい人生も何もかも愛おしく抱擁すれば、全てが光り輝いて見える。

これは夢なのか真実なのか。わたしはハリアン様と寝ながらいつも考えてしまう。

わたしが裏切り裏切られた恋人とまたこうやって甘い抱擁を交わすなんてと思ってしまう。

これはわたしにとって都合の良い夢だろうか? いいえ真実だ。わたしは彼を抱きしめる度に真実だと実感する。

わたしはふわふわと天に浮いているような水底に沈んているような感覚で彼と暮らしている。

幸福とかつてない愛と寂寥と孤独を抱えながら、彼の娼婦として暮らしている。

わたしはいつか過去とおなじように、海底へ水底へしずめられるかもしれない。恐怖はない。

唯、わたしはこの夢が終わるの待っている。彼への愛もこれが恐らく最後だ。

わたしはいつも待ってばかりだ。 
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