水底の恋 天上の花

栗菓子

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第7章 夢の終わり 真実の終わり

第5話 シン・ノーラン視点

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彼女の第一印象は違和感と、美しい瞳だった。太陽の反射で黄色にも緑にも変容する瞳。
黄色の髪も太陽に照らされると、金色にも変容する。

変容する髪と瞳に心を奪われた。美しい。美しい。美しい。 シンは初めて女を家族以外に美しいと思った。

容姿は人形のように整っていた。表情は乏しくまるで死んだ魚の目をしているなと思った。

どこか奴隷のように脅えた感じもあった。何故だ? 仮にも深窓の姫がそのような奴隷の目をするだろうか?

家族とも面会したことがある。普通だった。いや、普通過ぎて違和感はあった。
警戒のしすぎかと思ってもどこかが異様と感じていた。

アレフ。父は年老いて違和感に気づかないようだった。 老いは残酷だ。
彼女は敵だ。だが怯えている子どもでもあった。

彼女をどうしたらいいかわからなかった。恐らく本物の姫は・・

俺はしばらく彼女を婚約者として受け入れた。彼女を道具として利用する主人を、真犯人をあぶりだそうとしていた。

彼女は姫のように見えて、いつも怯えている子どもにしか見えなかった。

俺は彼女が哀れだった。彼女はどこか俺に真実を訴えたいとも思っていたようだった。

そのぐらいの洞察力がなければ、領主はつとまらない。

リリー。黄色い髪をした美しい女。彼女をどうしたらいいのか。俺は子どものように困惑する。

とても美しい怯えた敵は哀れで愛おしかった。彼女は必死で偽りの愛を囁いた。生きるためだろう。

だが、母にも劣らぬ美しい声で愛を囁かれると俺の胸は柄にもなく高鳴った。

一目惚れってあるのか? 父も母にこのように惹かれたのか?

俺は彼女を手元に置きたかった。これが愛なのだろうか? 見も知らぬ姫は薄情にも俺の中にはいない。

今はここにいる黄色の髪をした変容する瞳を持った不思議なおかしな姫だ。

俺はいつ襲い掛かるかわからない獰猛な猫を飼っている。 

とても面白く高揚した感じだ。 俺はしばらく彼女と主人と敵の遊戯に付き合うことにした。

これを乗り越えなければ、ノーラン家の領主にはなれない。俺は彼女を試練と思うことにした。

彼女は俺の愛を得ようとしている。何故だ。それが敵の望みなのか?俺を絶望に突き落とそうとしている?

だとしたら悪趣味だ。とても悪趣味でいかれている貴族の遊びだ。

容疑者はまっさきに、ジル・オーデインの恋人 デイエルが脳裏に浮かんだ。

もし、だとしたらデイエルはそこまでジルを恨んでいることになる。なんとも厄介なことだ。

他者の情事の炎がこちらにも飛び火するとはな。

しかし俺は意外にもこの偽りの姫が気にいっていた。この遊戯に付き合おう。

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