水底の恋 天上の花

栗菓子

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第7章 夢の終わり 真実の終わり

第3話 アレフ・ノーラン男爵視点

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アレフ・ノーランは愛する妻シーナを得てから、夢のような幸福を過ごした。

一時は危惧したハリアン公爵へ愛娘ネリアを献上しても、ハリアン公爵の黒い噂で不安でならなかったが、幸いにもネリアはハリアン公爵の元で寵愛を一身に受けているらしい。
勿論、それを邪魔だと敵視している者も居るだろう。だがネリアは凛然とハリアン公爵の愛妾であり続けた。
まるでこうなるのが運命だったともいうように彼らは相応しかった。
寄り添う姿は本当に恋人そのものだった。


アレフはいつまでもそのままであってほしいと願った。
ネリアの熱情を帯びた恋する乙女の瞳、その表情を見る度に親としてはその幸福がずっと続いてほしかった。

そしてアイシャはあまり心配しなかった。アイシャは何故か自分でなんとか運命を切り開くような力をもった娘だった。器量もよく、包容力もある。どこか危ういネリアと違って、アイシャは良き道を選ぶ娘に思えた。
後にアイシャの夫が女嫌いで男色家と知った時は、この結婚は失敗だったかと落胆したが、どうもジルと言う男はアイシャを妻として気に入ったらしい。よくわからないが、男色家は女を愛せないものではないのか?
それが不思議で、アイシャに尋ねたら、「内緒にしてね。お父様・・。」アイシャは頬を染めながら、お姉様に閨の手ほどきを受け、服を着て女に見えないように、子作りの儀式をしたのだと。お姉様に言われて夫の奉仕もしたと娘の性の儀式を細かに教えられて、アレフは複雑な気分になった。

男の恋人もいるらしい。他にも愛人が居る様だ。
それがアレフに気に入らなかったが、今のところ、婚姻は上手くいっている。アイシャの努力の賜物だ。

やはり、アイシャは嘆く女ではない。自分の道を良くする女だ。
器量もあり親ながら溌溂とした清涼な女だと見惚れる時がある。これならジルという男も気に入るはずだ。

ジル・オーデインは魔術師の家系だ。力は十分に利用価値がある。同時にアレフ・ノーランも汚い仕事を請け負う家系だ。お互いに利用価値はあった。


最後の子ども。シンは今のところ上手く精悍に雄々しく成長している。ノーラン家の跡取りに相応しく成長して強い
男になりつつある。そろそろ婚礼を決める時期だ。これが終わったら、親としての役目はほとんど終えたことになる。婚約者選びは難航したが、やっと条件が合った適齢期の娘が見つかった。
シンはどうでもいい。と子どもさえできればどんな女でもいいと言った。シンはまだ恋をしたことがないらしい。

アレフは不思議に思った。 アレフとネリアは恋愛で婚姻したが、アイシャとジルは淡々と政略結婚を受け入れる性質らしい。

それが貴族として当たり前の選択らしいが、アレフはシーナと出会って世界が変わった。美しく生きていることに感謝するようになった。シーナといるだけで歓喜に満ちた人生を送ることができた。それが誰かを愛しく思うことなのだとアレフは解った。
ネリアもハリアン公爵と出会って愛を知ったのだろう。

どちらがいいのかは分らないが、シンも婚約者と良き関係を築く事を願った。


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