水底の恋 天上の花

栗菓子

文字の大きさ
上 下
53 / 66
第7章 夢の終わり 真実の終わり

第1話 夢の終わり

しおりを挟む
わたしは、過去の悲惨な末路を遂げた私 娼婦の陰惨な記憶を持って、裕福な貴族の娘として転生した。

神様が哀れんで、わたしを幸福にしようとこの夢のような人生を送らせてくれたのだろうか?

しかし今生でもわたしはかつての恋人に出会い、恋に再び落ちた。

魂は繰り返すのだろうか? わたしは殺された記憶ももはや薄れ、あるのは唯慕わしい思いだけが残っている。

わたしは今度こそは裏切らないだろう。彼がどんなに恐ろしい人であっても、裏切らない限り優しくしてくれる。

わたしは一度死んだ人だ。卑しい下賤な女が身の程知らずにも彼を愛してしまった。

彼は高位の魂を持っていた。低位の魂は本来は見抜きもしないはずだった。 私と彼が惹かれあったのは正に奇跡そのものだったのだ。

死んだ記憶があるからわかる。わたしは何か冥府から力をもらってしまったのだろうか?

わたしは彼の忠実な従順な娼婦であり続ける。彼を満たすのはわたしであってほしい。

彼もわたしの奉仕に満足しているようだった。 でもわたしは唯の女。いつかは年老い、彼の寵愛も薄れるだろう。

わたしはその時まで彼を慕い続ける。彼の長い長い生に少しでも美しい記憶が残ってくれたらと思わずにはいられない。

彼の長い退屈を満たすのがわたしなら良かったのに。でもわたしは直ぐに死ぬ。

それは神様の決めたことだ。 死んだらわたしは冥府の底から愛を歌う。天上から恋と幸福と魂の安寧を歌い続ける小鳥や小さな魚になろう。

そしてまだいつか貴方へ巡り会うことを願おう。

復讐も怨嗟も何もかも真珠の涙に封じられていつかは浄化されるだろう。
わたしのこのどうしようもない愛も恋もいつかは葬られ、消えるだろう。

その時までわたしは貴方に仕え続けよう。千の時を超えても貴方に天上の白い花を贈ろう。

「貴方を思い続ける。」

わたしの殺されても尚愛しいと思えるお方。彼だから赦せたのだろう。
愚かな愚かなわたしの恋。

その末路はまもなくやって来る。夢の終わりがやってきた。

どんな現実がわたしに待っているのだろう。前世より醜い現実だろうか? かまわない。わたしは全てを受け入れる。
どれほど醜悪でも世界は美しいのだから。残酷なほどに世界は美しい。

わたしはもうすべてを知っていた。

世界の醜さと美しさを織物のように紡ぐ女神をどこかで眺めながら、己の人生を受け入れた。

わたしはネリア。貴族の娘。ハリアン公爵の娼婦だ。ひと時の慰めの花だ。

誰よりも美しい花とあの方へ思われたい。醜いわたしの愚かな欲望だ。わたしはそっと宝石箱へ思いを封じる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...