水底の恋 天上の花

栗菓子

文字の大きさ
上 下
50 / 66
第6章 デイエル 統治者

第8話 地獄の悪鬼たち

しおりを挟む
デイエルはジルと完全に決別した瞬間、嫉妬と逆恨みに満ちた怨嗟に満ちた悪鬼のような心を持った。

それ以降、デイエルは荒淫を止め、かつての美しさを取り戻すため鍛錬をした。いや、かつて以上に美しさと若さに執着を持つようになった。

統治者として表向き有能な美しい顔を見せたが、裏では弱者や不要な者達を嬲っては残虐に殺していた。

特に、深く愛し合っている恋人が目障りで、恋人たちを捕え、相手の目の前で慕うものを殺したり、犯したり地獄を見せたりした。

八つ当たり。逆恨み。人格破綻者。異常者。なんとよばれようかかまわなかった。

デイエルは血のにじむような思いをしてここまで来たのだ。デイエルは汚い爺の尻さえも舐めて汚辱に塗れながら恋人とも別れた。

その後は全然楽しくなかった。それどころが心が休まる時は無かった。デイエルは代償に統治者として栄華を得たのだ。それが危うい砂上の楼閣であったとしてもだ。醜い敵を排除した血まみれの王への道。


なのに、下賤な者達はいともたやすく心を満たし満たしあう恋人や伴侶を得ている。
そんな幸福をデイエルは疎んだ。忌々しい思いで壊したかった。

そんな幸福な姿を見せられるたびに、デイエルは己が進んだ道を後悔したくなるからだ。
あの時、従者として身分相応に幸福を見つければよかったのだろうか?
だが、あの時はこれが出世のチャンスだと思った。穢い醜い老人の玩具として弄ばれてどこか心が壊れても、それを望んだのは、若く愚かな愚かな自分だ。

今更戻れない。 かつての恋人ジルは昏い血を引きながらも、アイシャという良き妻を得て以前より幸福そうに見えた。

ゆるせない。 傲慢にも身勝手にもデイエルはそう思い続けた。
いつかジルとアイシャの幸福を壊してやる。 そうだ。アイシャの姉。ネリアとかいうハリアン公爵に寵愛されている女も。 シンとかいう弟も。 全て壊してやる。彼の黒い破壊衝動は止まることを知らなかった。

それを諫めていた従者。ジョンとかいう平凡ななんの特徴もない若者は顔面蒼白になりながらも制止しようとしていた。
「おやめ下さい。デイエル様。そんなことをして何になるのですか?デイエル様はこのままでは破滅なされます。
せっかくその栄誉を得たというのに、何故自ら壊すような真似をするのですか?わたしにはわかりません。デイエル様。正気に戻られて下さい。」
必死でデイエルの事を主人としてまだ忠実に愚劣に思っている従者の諫めの言葉だった。

だが狂っているデイエルの耳には届かなかった。
それどころが煩わしいハエの音のようにしか聞こえなかった。
デイエルを唯一 愚直に思っている愚かな従者の言葉は鳥の羽のように軽かった。

デイエルはにこりと笑って、傍らの悪鬼のような処刑人に命じた。
「この不遜な下賤な者の首を刎ねよ。」
その時のジョンという若者の顔は見ものだった。
公開処刑で、ジョンはデイエルを侮辱したという罪で、ギロチン刑にされた。
ジョンの髪はサンバラに斬られ、首筋が見えた。痛々しい白い首筋。震えている姿。
デイエルは、愉悦と共に、ジョンはわりと美しい身体をしていたのだなと他人事のように思った。

何のとりえもない若者と思っていたが、ジョンの白い首筋が印象的であった。
ふと舐めたい気持ちにかられた。彼は震えながらも己の運命を受け入れていた。

その様子は狂ったデイエルにとって煽情的だった。
彼は一度だけデイエルを、かつては主人として仕えた人を見上げた。
そこには諦観の目が合った。なぜかデイエルは苛立ちがあった。

彼は黙って処刑された。

それを面白がって囃す大衆の歓声。 デイエルは笑った。君たちもすぐにこうしてあげる。

ジョンの首は生前より美しく見えた。遺体はデイエルの元へ運ばれた。

愚かにも誠実に間違いは間違いだと言い張ったジョン。哀れな義人。

ここには狂った王と貴族。無知な自分が何をやっているかもわからない民。盲目の民しかいないのに・・。

狂ったデイエルは、苦悶に満ちた死に顔のジョンの生首をみて、白い首を舐めた。血の味がする。
はしたなくも勃起した。
彼は男として蹂躙した従者の遺体をさらに蹂躙するために冷たく硬くなっていく身体を開き犯した。
まだ柔らかく熱い穴はだんだん冷たくなっていく。
それが酷くデイエルは寂しかった。 デイエルは何度も甘えるようにジョンの遺体を犯し続けた。

それを興奮して視姦している貴族たちはうっとりと淫蕩な雰囲気を出した。彼らも地獄の悪鬼なのだ。
死体を見ながら発情した彼らは乱交し始めた。

真っ当な心を持っている者や正気を保っている者は蒼白になりながら逃げ続けた。

この領土は狂った。もう駄目だ。彼らはそう心の中で叫びながら逃げ続けた。

地獄の悪鬼たちに追われる獲物のように彼らは逃げ続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...