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第6章 デイエル 統治者
第7話 醜い争いⅡ
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ジルはこれでデイエルとの決着がついたと思い込んで、その場を立ち去った。
デイエルの醜い心が更に偏執的になっていることも気が付かなかった。
去っていく背中を、底知れない暗い目でデイエルはいつまでも見つめていた。
毒に犯されたような嫌な感じを持って、ジルはオーデイン家に帰宅した。
そこには清涼な花の匂いがしたアイシャが心配げに待っていた。
その瞳は純粋で、ジルの異変に気づいていたのかとアイシャは困惑に揺れていた。
ああ。ここにいるとほっとする。ジルはいつのまにかアイシャを最愛の妻として心の内に入れていた。
「俺を待っていたのか。アイシャ。何故だ。」
「貴方がなんだか変で、胸騒ぎがしたのです。差し出がましい様ですか、なんだか貴方の顔を見るまでは安心できなくて申し訳ありません。」
「お前はいつも俺の事を知っているな。いつの間にか。そうなってしまった。」
嗚呼。そうだ。父は正しかった。俺はアイシャを今この世で一番愛しく思っている。
アイシャは美しく心の芯が強くいつもひたむきに生きようとする女だった。
アイシャは正妻と言う重圧にも負けずに責任を果たそうとする義理固い女でもあった。アイシャは本当に良い女だ。
俺もアイシャといるともっと良く幸福になれそうな気がする。
アイシャはそういう力があった。
オーデイン家は古くからの魔術師の血も引いている。そこには昏い歴史もある。血なまぐさい権力闘争もあった。
古来から神は何かを代償に力を得るという。
父もその運命を辿った。オーデイン家に欠損がある人が多いのは、代償に神に贄として捧げる風習があるからだ。
獰猛な獣の血が俺にも流れているが、アイシャといると和らぐ。
春の楽園にいるような気分にしてくれる。 オーデイン家の血は昏い昏い血を持っている。
デイエルもはじめはほがらかな気性も持ち狡猾な面はあったが、だんだん野望を抑えきれずに昏い道へ行ってしまった。
同類嫌悪だろうが、そうなったデイエルにジルは興味がなくなった。
アイシャの清々しい生と、花のような甘い匂いにジルは癒された。
昏い血の一族はどうも同族喰らいが多い。獣がより高みを目指すように喰らいつづけるのだ。
それに嫌気がさす一族もいるが、ジルはそれを受け入れた。 オーデイン家の運命だ。
正妻も同類かと思ったが、父も父なりにこの閉塞した澱んた血族に新しい血を入れたかったのだろう。
清涼で良き女の血を入れたかったのだ。
アイシャはそれに相応しい条件を持っていたのだ。オーデイン家の昏い血に負けぬ健やかな果敢な魂を持った女。
この女との子どもなら、新しい力を持った子が生まれるだろう。
ジルはアイシャと共に生きたかった。 アイシャもジルを既に夫として受け入れていた。
デイエルの醜い心が更に偏執的になっていることも気が付かなかった。
去っていく背中を、底知れない暗い目でデイエルはいつまでも見つめていた。
毒に犯されたような嫌な感じを持って、ジルはオーデイン家に帰宅した。
そこには清涼な花の匂いがしたアイシャが心配げに待っていた。
その瞳は純粋で、ジルの異変に気づいていたのかとアイシャは困惑に揺れていた。
ああ。ここにいるとほっとする。ジルはいつのまにかアイシャを最愛の妻として心の内に入れていた。
「俺を待っていたのか。アイシャ。何故だ。」
「貴方がなんだか変で、胸騒ぎがしたのです。差し出がましい様ですか、なんだか貴方の顔を見るまでは安心できなくて申し訳ありません。」
「お前はいつも俺の事を知っているな。いつの間にか。そうなってしまった。」
嗚呼。そうだ。父は正しかった。俺はアイシャを今この世で一番愛しく思っている。
アイシャは美しく心の芯が強くいつもひたむきに生きようとする女だった。
アイシャは正妻と言う重圧にも負けずに責任を果たそうとする義理固い女でもあった。アイシャは本当に良い女だ。
俺もアイシャといるともっと良く幸福になれそうな気がする。
アイシャはそういう力があった。
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父もその運命を辿った。オーデイン家に欠損がある人が多いのは、代償に神に贄として捧げる風習があるからだ。
獰猛な獣の血が俺にも流れているが、アイシャといると和らぐ。
春の楽園にいるような気分にしてくれる。 オーデイン家の血は昏い昏い血を持っている。
デイエルもはじめはほがらかな気性も持ち狡猾な面はあったが、だんだん野望を抑えきれずに昏い道へ行ってしまった。
同類嫌悪だろうが、そうなったデイエルにジルは興味がなくなった。
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清涼で良き女の血を入れたかったのだ。
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ジルはアイシャと共に生きたかった。 アイシャもジルを既に夫として受け入れていた。
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