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第5章 女神ネリア
第9話 狂信者
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ハリアン公爵が用意した館。小さいけどわたしの海の瞳にあつらえた蒼玉と貝と色硝子をはめ込んだ宮殿。
東洋と西洋を融合したような装飾で、わたしはとてもお気に入りであった。
侍女とお昼に東洋のお茶と西洋の紅茶を試飲しながら、味わいを比べるのはひそかなわたしの趣味であった。侍女はハリアン公爵がわたしにつけた守護もしくは監視だ。
なにか武器をもっているのかもしれない。彼女は隙が無かった。彼女の目は昏い目だった。猟犬のような目だ。
ハリアン公爵は実力主義だ。恐らく非合法な組織でも関わっているのだろう。
彼はどんな能力も強ければ愛したが特に稀な能力を持つ者が好きだった。
未来予知とか、空間を歪める力とか、途方もなく美しいものを生み出す力とか様々な能力者を集めて、ひとつのギルドを作った。
そこでも能力によりヒエラルキーがある。
侍女は無表情で昏い目で私を見つめる。そこには何の感情も見られない。
わたしは淑女としての礼儀をして、彼女を傍に置いた。
わたしは「お茶を一緒にどうぞ。」と柔らかに彼女に言った。
彼女は少しためらいを見せたが、次第にほぐれていってお茶に関する味の傾向について細かく分析して見せた。
わたしは少し驚いた。彼女はお茶の種類だけでも博識だ。
わたしも知らないお茶の効能や成分について彼女は時折こどものように自慢して披露する。
まあ・・ハリアン公爵の登用する人材はどれもこどものようなところがある。才能が有る方たちは皆そうなのだろうか?わたしは不思議でたまらなかった。
彼女はある日、ぼつりとわたしに呟いた。
「貴女が嫌いでした。お姫様。貴女はハリアン様の寵愛を一身に受けて、この世で最も幸福な女性に見えました。
わたしはハリアン様を崇拝しております。彼は実力主義なのに、何故貴女様は美しいがそれだけの貴族の女なのに・・と何の力もない貴女ですが、何故彼の心を射止めたのでしょうね。」
わたしは黙って彼女を見た。嫉妬に歪む女の顔だ。醜いが人間的だ。
わたしは微笑んだ。
「それは彼が決める事。わたしの意思はありません。唯、わたしはハリアン様を慕うだけです。」
彼女のほかにもハリアン様を狂信する使用人達は数多くいる。愚かな事。わたしは溜息をついた。どれだけ狂信しようと神は冷厳と愚劣な姿を見ているだけなのに・・嗚呼ハリアン様は神の現身のようなのだわ。
残酷で無慈悲な人間以上の者。だから彼らは従うのだ。わたしはおまけにすぎない。
「わたしは彼の渇きを一時は満たす者にすぎません。大海の一滴のとるに足らない女です。ハリアン様がきまぐれにわたしを求めただけです。」
わたしは冷徹にわたしの価値、存在理由を知っていた。
いかなる運命のきまぐれか。わたしと彼の運命を引き寄せたのは何者だろうか?
偶然であってもわたしにとっては唯一恋した相手だ。
僅かな共にいる時を少しでも伸ばしたいだけだ。
わたしも彼を愛している。これはわたしにとっても戦なのだ。わたしは彼が飽きるまで去るつもりはなかった。
「わたしは彼が私に飽きるまで共にあります。」
わたしは凛然と昏い昏い目をした侍女を見据えた。
東洋と西洋を融合したような装飾で、わたしはとてもお気に入りであった。
侍女とお昼に東洋のお茶と西洋の紅茶を試飲しながら、味わいを比べるのはひそかなわたしの趣味であった。侍女はハリアン公爵がわたしにつけた守護もしくは監視だ。
なにか武器をもっているのかもしれない。彼女は隙が無かった。彼女の目は昏い目だった。猟犬のような目だ。
ハリアン公爵は実力主義だ。恐らく非合法な組織でも関わっているのだろう。
彼はどんな能力も強ければ愛したが特に稀な能力を持つ者が好きだった。
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そこでも能力によりヒエラルキーがある。
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わたしは「お茶を一緒にどうぞ。」と柔らかに彼女に言った。
彼女は少しためらいを見せたが、次第にほぐれていってお茶に関する味の傾向について細かく分析して見せた。
わたしは少し驚いた。彼女はお茶の種類だけでも博識だ。
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まあ・・ハリアン公爵の登用する人材はどれもこどものようなところがある。才能が有る方たちは皆そうなのだろうか?わたしは不思議でたまらなかった。
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わたしはハリアン様を崇拝しております。彼は実力主義なのに、何故貴女様は美しいがそれだけの貴族の女なのに・・と何の力もない貴女ですが、何故彼の心を射止めたのでしょうね。」
わたしは黙って彼女を見た。嫉妬に歪む女の顔だ。醜いが人間的だ。
わたしは微笑んだ。
「それは彼が決める事。わたしの意思はありません。唯、わたしはハリアン様を慕うだけです。」
彼女のほかにもハリアン様を狂信する使用人達は数多くいる。愚かな事。わたしは溜息をついた。どれだけ狂信しようと神は冷厳と愚劣な姿を見ているだけなのに・・嗚呼ハリアン様は神の現身のようなのだわ。
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わたしは凛然と昏い昏い目をした侍女を見据えた。
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