水底の恋 天上の花

栗菓子

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第5章 女神ネリア

第8話 ハリアン公爵視点

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俺の寵愛する女は、美しい蝶や花も引き寄せるが、蠢く穢ない醜悪な者も引き寄せ魅了する不可思議な女だった。

彼女は決して望んで魅了しているわけではない。花に罪はない。唯そこに在るだけなのだ。
だが、その美しさ、不可解な魅力に惹かれる者達は多かった。

掃除屋や弟のシリンも花を無惨に踏み躙ろうとしたが、なぜか彼女はまだ生きている。

彼女自身は気づいていないだろう。彼女は唯、ありのままを受け入れているだけだ。

彼女は普通の貴族の娘だが、誰よりも闇を知っているような影もあった。彼女と言う存在は、魅力的だが愚かな女だ。俺を慕っている愚かな恋人。

俺は嗜虐的な気性で彼女の愛を蹂躙したかったが、何かが邪魔をする。
そっと大事にしたい気持ちもあるからだ。

俺は不愉快だが、ネリアの愛する家族だけは介入しなかった。

それ以外の愛は俺に向けられているから、俺はその心地いい愛に溺れていた。

ネリアは海だ。海の中に包まれる感覚。心地いい。気持ちが良い。

カイト如きにくれてやらなくて良かった。カイトはネリアを愛していない。政略結婚のために必要としたつまらぬ男だ。ネリアの魅力が最大限に引き出されたのは俺の元でだけだ。その自負が俺にはある。


ネリアは俺のもの。 ネリアもそれを受け入れている。
ネリアを生かすも殺すも俺の勝手。俺にはその力がある。俺はきまぐれにネリアを寵愛し、いつかはさめるかもしれない思いを持てあましている。この熱情。煩わしいが、俺が求めていたのかもしれないもの。
ネリアによって与えられたもの。

だが俺は奪う者だ。いつかネリアの命そのものを奪うものになるかもしれない。
不可解なことにその日がいつまでも来ないように俺は願った。

矛盾したこの思い。俺はネリアによっていつも心を揺さぶられる。


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