水底の恋 天上の花

栗菓子

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第5章 女神ネリア

第5話 赤と青の耳飾りと首飾り

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ソウタ工房の伝統ある宝飾品は上流貴族に愛されていた。

その名工職人はと或る名品を生み出していた。

海から輸入される天然石(赤珊瑚、赤メノウ)と青玉を掛け合わせた宝飾品は合金で金色に包まれた赤と青の見事な
幾何学的な文様の不思議な神秘的な宝飾品が出来上がった。
目の肥えた貴族さえも感嘆するほどの精緻で高価な宝飾品だった。女神の耳飾りとも言われた耳飾りはそれと対になる首飾りを職人は創り上げ、ハリアン公爵の寵愛されるネリアへと贈られた。
ハリアン公爵の意向であった。

ハリアンの赤い瞳とネリアの蒼い瞳を示した赤と青の耳飾りと首飾りはネリアによく映えた。
ネリアはますます美しくなり、高貴な貴婦人のように見えた。

これは寵愛の証であり、ネリアはハリアン公爵の所有物でもあると示すものだ。
ネリアもよく承知していた。それにしても見事な装飾品よ。わたしがこのような高貴なものをつけるとは・・

かつての娼婦のような下賤な私にとってはありえない話だ。

彼女は皮肉気に笑った。自嘲気味につけた。彼の束縛の証だ。嬉しいが少し悲しくもある。厄介な複雑な感情。
ままならぬ思いは沈殿し、酒のように熟するのだろうか?それともどろどろに腐り落ちて沈みはてるのだろうか?

わたしにはわからない。唯わたしはそっと鏡に装飾品をつけたわたしを見つめる。
まるで生まれながらの高位の貴婦人のようだ。

わたしは唯、彼の愛の証を受け取った。

彼はわたしがこの装飾品をつけるととても喜び、こどものように社交界へわたしの姿を披露した。
わたしは彼の玩具であり、寵愛されている愛人でもあった。
わたしは淡々とそれを受け入れた。


わたしは羨望と軽蔑と嫉妬や悪意の感情を無数に受けた。だがわたしは動じなかった。
もうわたしは一度死んだ記憶があるのだから今更、何を驚くことがあるだろうか?


わたしは超然と彼らを見た。ハリアン公爵の意向のままにわたしは従順と生きた。

わたしは彼を愛している。彼もわたしを手放したくないぐらいには愛着を抱いている。

ならばこのままこの運命を受け入れよう。わたしはずっと彼と居たかった。

なのに運命はまだわたしを翻弄する。


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