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第3章 運命の輪
第10話 春の祝祭
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厳冬の深い雪が解け、風が光った。
嗚呼。春の到来だわ。春の女神が美しく降臨しているみたいに厚い雲から光が下界に差した。
天使の光の粒が下りているみたい。
アイシャはうつとりと夢見がちに風景に目を奪われた。
母親譲りの陽光に輝く金の柔らかな長い髪、父譲りの淡い茶色の瞳。麗しき母によく似た相貌は非常に美しくアレフ・ノーラン家の有名な美姫と呼ばれた。
ネリアは、海の女神セーレーンのように謎めいた魅力のある姫だった。
姉妹ともに異なる魅力があり、男たちの目は二人に注目した。
ここは春の祭りの貴族の鑑賞席のフロアである。彼女らは巫女の演技をするために来日したのだ。
他にも美しい貴族の令嬢が居た。それぞれに華やかで優秀で魅力的な女達の競演。百花繚乱のようだった。
勿論、凛々しい貴族の息子もおり騎士の衣装をした男性もいた。
まああ・・まるで古代の神話の時代に回帰したようね。
ここにいると自分が本当の踊る女神になったような気がする。憑依されているのかも。アイシャはふと埒もない想像をした。
粛々と儀式が為される。春の女神に捧げる祝祭だ。
アイシャとネリアはこの時のために、二人で一生懸命演技の練習をした。
今では踊りの先生にもお墨付きをもらっている。
他の貴族の娘も神女のように美しく舞っている。さあ、今度はアイシャとネリアの番だ。
アイシャとネリアは春の女神のために祈りを込めて踊った。姉妹が神への踊りを見せる光景は美しく
他者を抜きんでていた。アイシャの美しい金の髪が光り輝き舞う。
ネリアの艶やかな茶色の髪が陽光に眩く見え、ある人にとってはとても神秘的に見えた。
二人の舞は神さえも喜ぶ出来栄えだった。
汗を流しながら、荒い息を整えようとネリアとアイシャは互いの顔を見合わせた。
どうやら成功したらしい。拍手は鳴りやまない。
花びらが舞い散っている。天空の神と春の女神の祝福に見せたパフォーマンスだ。
まるで本当に神様からもらった祝福みたいとネリアは微笑んだ。
両親と弟のシンも満足そうに見ていた。
ネリアは気づかなかった。ネリアだけを執拗に見ている獰猛な獣の目を。今にも獲物を捕りたいと爛々と輝く目を。
獣の下半身ははちきれそうに膨らんでいた。
地味で清楚な印象しかなかったネリアは、この踊りで巫女の衣装をつけているため、華奢な肢体に思ったより豊満な胸をしていることがシルエットで分かった。無心に春の女神への踊りを続けるネリアはどこか妖艶で幼げな不可思議な魅力を放っていた。
彼女は踊りが終わって、妹姫に母親のように慈愛の目で見た。
妖艶で幼げで母親のような表情もする不可思議な女よ・・
獣はネリアの魅力に惹かれた。妹の方がずっと容色は優れているが、獣はネリアのすべてが欲しかった。
頭は奇妙に冷静で、熱情が静かに高まっていた。かつてない情欲を催させた女神ネリア。
あれはオレノモノ。オレノオンナ。誰かが囁いた。
獣の名はハリアン公爵であった。
嗚呼。春の到来だわ。春の女神が美しく降臨しているみたいに厚い雲から光が下界に差した。
天使の光の粒が下りているみたい。
アイシャはうつとりと夢見がちに風景に目を奪われた。
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ネリアは、海の女神セーレーンのように謎めいた魅力のある姫だった。
姉妹ともに異なる魅力があり、男たちの目は二人に注目した。
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勿論、凛々しい貴族の息子もおり騎士の衣装をした男性もいた。
まああ・・まるで古代の神話の時代に回帰したようね。
ここにいると自分が本当の踊る女神になったような気がする。憑依されているのかも。アイシャはふと埒もない想像をした。
粛々と儀式が為される。春の女神に捧げる祝祭だ。
アイシャとネリアはこの時のために、二人で一生懸命演技の練習をした。
今では踊りの先生にもお墨付きをもらっている。
他の貴族の娘も神女のように美しく舞っている。さあ、今度はアイシャとネリアの番だ。
アイシャとネリアは春の女神のために祈りを込めて踊った。姉妹が神への踊りを見せる光景は美しく
他者を抜きんでていた。アイシャの美しい金の髪が光り輝き舞う。
ネリアの艶やかな茶色の髪が陽光に眩く見え、ある人にとってはとても神秘的に見えた。
二人の舞は神さえも喜ぶ出来栄えだった。
汗を流しながら、荒い息を整えようとネリアとアイシャは互いの顔を見合わせた。
どうやら成功したらしい。拍手は鳴りやまない。
花びらが舞い散っている。天空の神と春の女神の祝福に見せたパフォーマンスだ。
まるで本当に神様からもらった祝福みたいとネリアは微笑んだ。
両親と弟のシンも満足そうに見ていた。
ネリアは気づかなかった。ネリアだけを執拗に見ている獰猛な獣の目を。今にも獲物を捕りたいと爛々と輝く目を。
獣の下半身ははちきれそうに膨らんでいた。
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あれはオレノモノ。オレノオンナ。誰かが囁いた。
獣の名はハリアン公爵であった。
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