17 / 66
第3章 運命の輪
第9話 春の寵姫
しおりを挟む
わたしたちは、夢のようなデピュタントと旅を終え、懐かしい弟シンと妹アイシャが待っている我が家へと戻った。
嬉しそうに王都のお土産を期待するアイシャ。少し疲れた感じのシンは大人びて見えた。
「ねえねえ。王都はどうだった。教えて。教えて。」
子どものように私にせがむアイシャは愛おしい。わたしは微笑んで、アイシャに優しく注意した。「後で話すわ。今は服を着替えて休んでからね。お父様もお母様も長旅で疲れているから。」
「大丈夫よ。お土産はたくさんあるから。アイシャとシンの分。使用人の分もあるわ。お父様が大振舞をしたのよ。」
ネリアは、穏やかな顔で微笑んでいった。
それは聖母のように、慈愛に満ちた様子で、アイシャは本当に姉様のほうが母様みたい。と思いながらも、現金なことにお土産の言葉に心弾んだ。
お土産はなんだろう。お父様の事だ。きっと王都の珍しいものや注目するものを選んだに違いない。
お父様はそういうところに目がないんだもの。
何か、商業や、利益になりそうな商品に目がないもの。
先見の目を持っているお父様はこれから拡大していく商業や伸びていく会社に目を付け、権利証や株主などになって莫大な利益を上げている。
悔しいけどアイシャは凡庸だ。お父様のように才能もない。ありふれた貴族の娘だ。幸いにも麗しきお母様によく似て容姿だけは良い。お父様の事。決して私の婚姻は悪いようにはしないだろう。
それだけの家族の愛情をアイシャは感じていた。ネリアもシンも確かに両親の愛情を受けていた。
お父様のためにも、良い家に嫁いで役に立ちたい。アイシャはお父様が大好きだった。お父様とお母様の馴れ初めは
まるでどこの御伽話だろうと思うほど、浪漫に満ちて美しい恋話だった。
まるで奇跡だわ。
私も、同じ男爵家令嬢のパーテイがあって、時折雑談などするけど、やはりそんなに仲は良い夫婦は居ないみたいだった。少し寂し気に微笑む友人が可哀相だった。元々、貴族の結婚は家同士の結束を高める政略結婚のようなもの。
それでも情を求めるのは、女の性 いや人の性というものなのだろう。
不幸な結婚もある。それに苦しむ子供もいることはアイシャにも分かった。
アイシャはできれば将来の夫と愛を育てたかった。
お父様とお母様のように素敵な夫婦になりたかった。
ネリア姉様も、来年頃は婚約者と結婚式を挙げるだろう。
きっと堅実な素晴らしい夫婦になるに違いない。アイシャはそう信じて疑わなかった。
アイシャは正に貴族の娘だった。
柔らかな砂糖菓子を食べて、柔らかな両親の愛、姉と弟の愛に包まれて、アイシャは無邪気な永遠の娘だった。
惨たらしい現実などアイシャは前世があるネリアと違って知らなかった。
そこにアイシャのかすかな悲劇の予兆があった。
今は、まだみんな家族も気づいていなかった。
シンは、家族が全員そろって安堵した。これで留守の家を守る役目から解放されたのだ。
シンは、すでに親父の仕事を手伝っている。親父は仕事に関しては厳しい人だった。
シンが何があっても生きていけるよう、経営や領土に関する情報、問題。領民など様々な勉強をシンは学んでいった。表も裏もシンは親父の仕事を知りつつあった。
親父に従う使用人と密偵。裏の業者など多岐に渡る人脈をシンは既に網羅していた。
そうでなければ親父の後は継ぐことはできない。
シンは深く溜息をついて、来年の春の祭りについて考えた。
領地では毎年、春の祭りが或る。そこには厳しい仕事に耐えている領民のねぎらいと他の領主との交渉の話し合いでもあった。
その時、貴族の娘は女神に装い、白いチュニックドレスと、冠を付ける。
春の神様に祈りを捧げる巫女の衣装だ。
来年は、アイシャもネリアも巫女として、神殿に祈りを捧げる儀式を行う予定となっている。
その後、ネリアは婚約者と結婚するのだ。
アイシャは春の女神のように愛らしかった。花の冠がアイシャには相応しかった。
ネリアは何だろう。ネリアは何か特別な冠が相応しい気がシンはしていた。
とても特別な冠だ。
ああそうだ。ネリアは純白の花の冠が似合うんだ。天上の花だ。
海の女神ネリアに天上の花だなんて素敵じゃないか? シンは思いつくイメージに高揚した。
彼はアイシャとネリアの巫女の衣装と花の冠について親父と相談しようと思った。
嬉しそうに王都のお土産を期待するアイシャ。少し疲れた感じのシンは大人びて見えた。
「ねえねえ。王都はどうだった。教えて。教えて。」
子どものように私にせがむアイシャは愛おしい。わたしは微笑んで、アイシャに優しく注意した。「後で話すわ。今は服を着替えて休んでからね。お父様もお母様も長旅で疲れているから。」
「大丈夫よ。お土産はたくさんあるから。アイシャとシンの分。使用人の分もあるわ。お父様が大振舞をしたのよ。」
ネリアは、穏やかな顔で微笑んでいった。
それは聖母のように、慈愛に満ちた様子で、アイシャは本当に姉様のほうが母様みたい。と思いながらも、現金なことにお土産の言葉に心弾んだ。
お土産はなんだろう。お父様の事だ。きっと王都の珍しいものや注目するものを選んだに違いない。
お父様はそういうところに目がないんだもの。
何か、商業や、利益になりそうな商品に目がないもの。
先見の目を持っているお父様はこれから拡大していく商業や伸びていく会社に目を付け、権利証や株主などになって莫大な利益を上げている。
悔しいけどアイシャは凡庸だ。お父様のように才能もない。ありふれた貴族の娘だ。幸いにも麗しきお母様によく似て容姿だけは良い。お父様の事。決して私の婚姻は悪いようにはしないだろう。
それだけの家族の愛情をアイシャは感じていた。ネリアもシンも確かに両親の愛情を受けていた。
お父様のためにも、良い家に嫁いで役に立ちたい。アイシャはお父様が大好きだった。お父様とお母様の馴れ初めは
まるでどこの御伽話だろうと思うほど、浪漫に満ちて美しい恋話だった。
まるで奇跡だわ。
私も、同じ男爵家令嬢のパーテイがあって、時折雑談などするけど、やはりそんなに仲は良い夫婦は居ないみたいだった。少し寂し気に微笑む友人が可哀相だった。元々、貴族の結婚は家同士の結束を高める政略結婚のようなもの。
それでも情を求めるのは、女の性 いや人の性というものなのだろう。
不幸な結婚もある。それに苦しむ子供もいることはアイシャにも分かった。
アイシャはできれば将来の夫と愛を育てたかった。
お父様とお母様のように素敵な夫婦になりたかった。
ネリア姉様も、来年頃は婚約者と結婚式を挙げるだろう。
きっと堅実な素晴らしい夫婦になるに違いない。アイシャはそう信じて疑わなかった。
アイシャは正に貴族の娘だった。
柔らかな砂糖菓子を食べて、柔らかな両親の愛、姉と弟の愛に包まれて、アイシャは無邪気な永遠の娘だった。
惨たらしい現実などアイシャは前世があるネリアと違って知らなかった。
そこにアイシャのかすかな悲劇の予兆があった。
今は、まだみんな家族も気づいていなかった。
シンは、家族が全員そろって安堵した。これで留守の家を守る役目から解放されたのだ。
シンは、すでに親父の仕事を手伝っている。親父は仕事に関しては厳しい人だった。
シンが何があっても生きていけるよう、経営や領土に関する情報、問題。領民など様々な勉強をシンは学んでいった。表も裏もシンは親父の仕事を知りつつあった。
親父に従う使用人と密偵。裏の業者など多岐に渡る人脈をシンは既に網羅していた。
そうでなければ親父の後は継ぐことはできない。
シンは深く溜息をついて、来年の春の祭りについて考えた。
領地では毎年、春の祭りが或る。そこには厳しい仕事に耐えている領民のねぎらいと他の領主との交渉の話し合いでもあった。
その時、貴族の娘は女神に装い、白いチュニックドレスと、冠を付ける。
春の神様に祈りを捧げる巫女の衣装だ。
来年は、アイシャもネリアも巫女として、神殿に祈りを捧げる儀式を行う予定となっている。
その後、ネリアは婚約者と結婚するのだ。
アイシャは春の女神のように愛らしかった。花の冠がアイシャには相応しかった。
ネリアは何だろう。ネリアは何か特別な冠が相応しい気がシンはしていた。
とても特別な冠だ。
ああそうだ。ネリアは純白の花の冠が似合うんだ。天上の花だ。
海の女神ネリアに天上の花だなんて素敵じゃないか? シンは思いつくイメージに高揚した。
彼はアイシャとネリアの巫女の衣装と花の冠について親父と相談しようと思った。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる