水底の恋 天上の花

栗菓子

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第3章 運命の輪

第7話  厳冬の海

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ネリアは、無事でデピュタントを終え、カイトと婚約者になった。それを感無量の思いで両親は光輝く愛娘と新しい婿候補を頼もしく見ていた。
年齢も相応に相応しく、良くお似合いだった。
唯、カイトには少し困ったような顔をしていたのが、ネリアには気になっていた。
カイトには何かほかに婚約者候補がいたのかしら・・
ふとネリアは思った。もし他に思い人が居るなら困るわ。わたしもお父様もお母様も落胆してしまう。
でも、本当にいるとしたらわたしやお父様に言って、そもそも婚約などしないはず・・大丈夫よね。

ネリアは悪い予想をするのはやめて、明るく考えようと思った。
ネリアはなるべくにこやかに婚約者となった相手を見つめた。カイトも戸惑いがちに微笑んだ。
嗚呼・・不器用だけど、悪くない人だわ。ネリアは分かった。目が怖くない。

過去の愚かな女のお陰でネリアはすっかり、男に対する耐性と、本性を見る術を身に着けた。
これは神様のご褒美だろうか?

二人でなんとか幸福な人生を築けと?
ええ。神様。そのつもりよ。わたしはネリア。お父様とお母様。家族のためにも、自分のためにも幸福になって見せる。
ネリアは嫣然と微笑んだ。
「これからよろしくお願いいたしますわね。カイト様。カイト様のお父様とは、我が家のお父様と大変懇意でなさっているようで嬉しいです。お父様の御勧めで間違いないと思いますが、わたくしでよかったのでしょうか?
わたくしには勿論異存はこざいませんが・・」

淑女たるもの。あまり殿方に発言をしてはいけないとも言われているが、ネリアはあえてこの婚約で良かったのか彼の真意を図りたかった。

カイトは当惑したように、だが嬉し気に言った。
「随分とはっきりと言う女だな。安心したよ。何も言わない女は良く分からないから。勿論、この婚約に不満はない。丁度、結婚相手も必要だったし、アレフ・ノーラン家令嬢なら文句はない。長く付き合えそうだな。」

「これからよろしく婚約者殿。」
カイトはぶっきらぼうにだが実直に言った。嗚呼・・彼は堅実が似合う人だわ。
彼は家族を守る人だ。ネリアは直感した。この人の妻になったら、一生良き妻として良き母として人生を送れそうだ
と思った。
彼の太陽を思わせる笑顔にネリアは安堵した。

彼と別れ、両親とデピュタントに出るために用意した客間がある貴族用のホテルに馬車に乗った。
折しも、雪が降ろうとしていた・・
まあ・・もう雪が降るのね・・ここ王都は雪が降るのが早いのだわ。

馬車を動かす従者が、お父様の命令でどこかへと移動した。あら。ホテルではない?
ネリアは不思議がると、お父様がホテルの近くの名所に連れていくと言った。

しばらくの間、馬車はかれらを移動させた。
ネリアが眠たくなったごろ、ネリアの前には、予想のつかない光景があった。

光と雪と、氷の結晶が降っている冬の荒れた海。とても深い海。 白い鳥と、黒い鳥。
様々な飛び跳ねる魚が銀色に光って綺麗だった。白い波と深いどこまでも広大な海。

始めて見る人には幻想的で美しい光景だった。陽が沈む寸前で海の近くが陽の色に染まってほのかに赤く鮮明だった。
白い獣が凍ったところを歩いていた。

嗚呼・・なんで幻想的で壮大な景色なの。不意に黒い鳥と白い鳥たちの群れが一斉に羽ばたいて広がっていった。
生命の脈動。冬の冷たさ。冷厳でもあり神がいるようなところだった。

ネリアは思わず陶然と見惚れた。「美しいわね。ネリア・・」
お母様もこどものように目を細めてこの絶系に見惚れていた。お父様はそんなお母様を愛おし気に見ていた。
嗚呼・・なんで素敵な光景なの。夢のようだわ。こんなに美しいなんで・・

ネリアは少女のように見惚れたが、かすかに胸に戦慄があった。
海の底が脳裏に浮かんだのだ。女の白骨死体・・深い深い水底の・・

嗚呼・・彼女だ。彼女は海のどこかにいるんだ。この広大な海のどこかに・・

ネリアはポロリと涙を流した。

こんなに綺麗なのに、可哀相な記憶がいくつも眠っている海。

両親は感激のあまり涙を流したと思ってくれたが、真実はネリアだけが知っていた。

これから海を見る度にネリアは思い出すだろう・・かすかな痛みとともに神のおわす海に祈った。

神様。どうか。彼女とわたしが幸福になれますように・・そしていつかはこの痛みも洗い流されますように・・

いつかは天に召される時まで見守ってください。

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