15 / 66
第3章 運命の輪
第7話 厳冬の海
しおりを挟む
ネリアは、無事でデピュタントを終え、カイトと婚約者になった。それを感無量の思いで両親は光輝く愛娘と新しい婿候補を頼もしく見ていた。
年齢も相応に相応しく、良くお似合いだった。
唯、カイトには少し困ったような顔をしていたのが、ネリアには気になっていた。
カイトには何かほかに婚約者候補がいたのかしら・・
ふとネリアは思った。もし他に思い人が居るなら困るわ。わたしもお父様もお母様も落胆してしまう。
でも、本当にいるとしたらわたしやお父様に言って、そもそも婚約などしないはず・・大丈夫よね。
ネリアは悪い予想をするのはやめて、明るく考えようと思った。
ネリアはなるべくにこやかに婚約者となった相手を見つめた。カイトも戸惑いがちに微笑んだ。
嗚呼・・不器用だけど、悪くない人だわ。ネリアは分かった。目が怖くない。
過去の愚かな女のお陰でネリアはすっかり、男に対する耐性と、本性を見る術を身に着けた。
これは神様のご褒美だろうか?
二人でなんとか幸福な人生を築けと?
ええ。神様。そのつもりよ。わたしはネリア。お父様とお母様。家族のためにも、自分のためにも幸福になって見せる。
ネリアは嫣然と微笑んだ。
「これからよろしくお願いいたしますわね。カイト様。カイト様のお父様とは、我が家のお父様と大変懇意でなさっているようで嬉しいです。お父様の御勧めで間違いないと思いますが、わたくしでよかったのでしょうか?
わたくしには勿論異存はこざいませんが・・」
淑女たるもの。あまり殿方に発言をしてはいけないとも言われているが、ネリアはあえてこの婚約で良かったのか彼の真意を図りたかった。
カイトは当惑したように、だが嬉し気に言った。
「随分とはっきりと言う女だな。安心したよ。何も言わない女は良く分からないから。勿論、この婚約に不満はない。丁度、結婚相手も必要だったし、アレフ・ノーラン家令嬢なら文句はない。長く付き合えそうだな。」
「これからよろしく婚約者殿。」
カイトはぶっきらぼうにだが実直に言った。嗚呼・・彼は堅実が似合う人だわ。
彼は家族を守る人だ。ネリアは直感した。この人の妻になったら、一生良き妻として良き母として人生を送れそうだ
と思った。
彼の太陽を思わせる笑顔にネリアは安堵した。
彼と別れ、両親とデピュタントに出るために用意した客間がある貴族用のホテルに馬車に乗った。
折しも、雪が降ろうとしていた・・
まあ・・もう雪が降るのね・・ここ王都は雪が降るのが早いのだわ。
馬車を動かす従者が、お父様の命令でどこかへと移動した。あら。ホテルではない?
ネリアは不思議がると、お父様がホテルの近くの名所に連れていくと言った。
しばらくの間、馬車はかれらを移動させた。
ネリアが眠たくなったごろ、ネリアの前には、予想のつかない光景があった。
光と雪と、氷の結晶が降っている冬の荒れた海。とても深い海。 白い鳥と、黒い鳥。
様々な飛び跳ねる魚が銀色に光って綺麗だった。白い波と深いどこまでも広大な海。
始めて見る人には幻想的で美しい光景だった。陽が沈む寸前で海の近くが陽の色に染まってほのかに赤く鮮明だった。
白い獣が凍ったところを歩いていた。
嗚呼・・なんで幻想的で壮大な景色なの。不意に黒い鳥と白い鳥たちの群れが一斉に羽ばたいて広がっていった。
生命の脈動。冬の冷たさ。冷厳でもあり神がいるようなところだった。
ネリアは思わず陶然と見惚れた。「美しいわね。ネリア・・」
お母様もこどものように目を細めてこの絶系に見惚れていた。お父様はそんなお母様を愛おし気に見ていた。
嗚呼・・なんで素敵な光景なの。夢のようだわ。こんなに美しいなんで・・
ネリアは少女のように見惚れたが、かすかに胸に戦慄があった。
海の底が脳裏に浮かんだのだ。女の白骨死体・・深い深い水底の・・
嗚呼・・彼女だ。彼女は海のどこかにいるんだ。この広大な海のどこかに・・
ネリアはポロリと涙を流した。
こんなに綺麗なのに、可哀相な記憶がいくつも眠っている海。
両親は感激のあまり涙を流したと思ってくれたが、真実はネリアだけが知っていた。
これから海を見る度にネリアは思い出すだろう・・かすかな痛みとともに神のおわす海に祈った。
神様。どうか。彼女とわたしが幸福になれますように・・そしていつかはこの痛みも洗い流されますように・・
いつかは天に召される時まで見守ってください。
年齢も相応に相応しく、良くお似合いだった。
唯、カイトには少し困ったような顔をしていたのが、ネリアには気になっていた。
カイトには何かほかに婚約者候補がいたのかしら・・
ふとネリアは思った。もし他に思い人が居るなら困るわ。わたしもお父様もお母様も落胆してしまう。
でも、本当にいるとしたらわたしやお父様に言って、そもそも婚約などしないはず・・大丈夫よね。
ネリアは悪い予想をするのはやめて、明るく考えようと思った。
ネリアはなるべくにこやかに婚約者となった相手を見つめた。カイトも戸惑いがちに微笑んだ。
嗚呼・・不器用だけど、悪くない人だわ。ネリアは分かった。目が怖くない。
過去の愚かな女のお陰でネリアはすっかり、男に対する耐性と、本性を見る術を身に着けた。
これは神様のご褒美だろうか?
二人でなんとか幸福な人生を築けと?
ええ。神様。そのつもりよ。わたしはネリア。お父様とお母様。家族のためにも、自分のためにも幸福になって見せる。
ネリアは嫣然と微笑んだ。
「これからよろしくお願いいたしますわね。カイト様。カイト様のお父様とは、我が家のお父様と大変懇意でなさっているようで嬉しいです。お父様の御勧めで間違いないと思いますが、わたくしでよかったのでしょうか?
わたくしには勿論異存はこざいませんが・・」
淑女たるもの。あまり殿方に発言をしてはいけないとも言われているが、ネリアはあえてこの婚約で良かったのか彼の真意を図りたかった。
カイトは当惑したように、だが嬉し気に言った。
「随分とはっきりと言う女だな。安心したよ。何も言わない女は良く分からないから。勿論、この婚約に不満はない。丁度、結婚相手も必要だったし、アレフ・ノーラン家令嬢なら文句はない。長く付き合えそうだな。」
「これからよろしく婚約者殿。」
カイトはぶっきらぼうにだが実直に言った。嗚呼・・彼は堅実が似合う人だわ。
彼は家族を守る人だ。ネリアは直感した。この人の妻になったら、一生良き妻として良き母として人生を送れそうだ
と思った。
彼の太陽を思わせる笑顔にネリアは安堵した。
彼と別れ、両親とデピュタントに出るために用意した客間がある貴族用のホテルに馬車に乗った。
折しも、雪が降ろうとしていた・・
まあ・・もう雪が降るのね・・ここ王都は雪が降るのが早いのだわ。
馬車を動かす従者が、お父様の命令でどこかへと移動した。あら。ホテルではない?
ネリアは不思議がると、お父様がホテルの近くの名所に連れていくと言った。
しばらくの間、馬車はかれらを移動させた。
ネリアが眠たくなったごろ、ネリアの前には、予想のつかない光景があった。
光と雪と、氷の結晶が降っている冬の荒れた海。とても深い海。 白い鳥と、黒い鳥。
様々な飛び跳ねる魚が銀色に光って綺麗だった。白い波と深いどこまでも広大な海。
始めて見る人には幻想的で美しい光景だった。陽が沈む寸前で海の近くが陽の色に染まってほのかに赤く鮮明だった。
白い獣が凍ったところを歩いていた。
嗚呼・・なんで幻想的で壮大な景色なの。不意に黒い鳥と白い鳥たちの群れが一斉に羽ばたいて広がっていった。
生命の脈動。冬の冷たさ。冷厳でもあり神がいるようなところだった。
ネリアは思わず陶然と見惚れた。「美しいわね。ネリア・・」
お母様もこどものように目を細めてこの絶系に見惚れていた。お父様はそんなお母様を愛おし気に見ていた。
嗚呼・・なんで素敵な光景なの。夢のようだわ。こんなに美しいなんで・・
ネリアは少女のように見惚れたが、かすかに胸に戦慄があった。
海の底が脳裏に浮かんだのだ。女の白骨死体・・深い深い水底の・・
嗚呼・・彼女だ。彼女は海のどこかにいるんだ。この広大な海のどこかに・・
ネリアはポロリと涙を流した。
こんなに綺麗なのに、可哀相な記憶がいくつも眠っている海。
両親は感激のあまり涙を流したと思ってくれたが、真実はネリアだけが知っていた。
これから海を見る度にネリアは思い出すだろう・・かすかな痛みとともに神のおわす海に祈った。
神様。どうか。彼女とわたしが幸福になれますように・・そしていつかはこの痛みも洗い流されますように・・
いつかは天に召される時まで見守ってください。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる