水底の恋 天上の花

栗菓子

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第3章 運命の輪

第5話 ハリアン公爵視点

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つまらぬ・・息子や弟は目ぼしい女を漁りに行った。
息子には、幼馴染の娘が居る。幼少の頃から、時折交際している同位の公爵の娘だ。
グレイズ公爵のクレアという娘だ。なるほど確かに相当端麗で教養豊かで才能は有り、魅力的で利用価値はありそうだ。恐らく彼女が第1婚約者候補となるだろう。
弟は放蕩趣味がある。嫁を迎えても、愛人などを作るだろう・・問題を抱える傾向がある。
だからといってハリアンは弟がどうなろうとかまわなかった。ハリアンはあまり人間の言う兄弟愛、家族愛とやらに希薄だった。必要だから一緒にいるという程度の思いだった。
時折、家族や、恋人 愛人を大事に思いあっている人たちを見かけ、彼はいつも不思議だった。
何故赤の他人にそうまで思いをかけるのか?彼には不思議でたまらなかった。
彼には今まで他人に思いをかけることはなかった。敵か味方か必要かそうでないか。この二択だった。
息子や弟は必要だから家族になったのだ。妻は病になって不要になっただから処分した。

人はそれを残酷とか非道とかいうが、妻が弱いから負けたのだ。
価値がなくなったものは処分する。それがハリアン公爵の行動指針だった。

喧噪がある舞踏会に飽きて、彼は外の空気を欲しいと思ってバルコニーまで歩いた。

先客がいた。彼は少し苛立った。 かすかな照明で艶やかな茶色の髪を結い上げた女の後ろ姿が見えた。白いうなじ。ドレスから除く手足の細さ。なかなか美しい後ろ姿だな。
視線を感じ娘は振り向いた。青い瞳が当惑に揺れていた。
美しい女だ。青い瞳と、彼の赤い瞳があった。彼は白に近い灰色の髪と赤い瞳をしている。大柄で、戦いに向いた体格だ。女はまるでこどものように小さく見えた。

その時、女の表情が一変した。 時が止まったように、彼に見惚れたのだ。
青い瞳にほのかに恋情の光、頬を染めた顔が彼に恋をしたと物語っていた。

ハリアンには色事には慣れていた。女の秋波や、惚れた表情などはよく見ている。ハリアンには類まれな感性と能力で嘘と真実の見分けや、観察力で人間の表情である程度感情を読み取れることはできる。

彼は笑った。俺の顔が好みか・・
まだ初心な娘が慣れないデビューをして、見慣れぬ男に惹かれたというようだった。
だが、ほのかに妖艶な雰囲気も纏っていた。
少女と女の狭間にいるような娘だった。

はっと女は、怯えたように速足でバルコニーから離れて男から去っていった。

どこか心そそる女だ。久しぶりにハリアンは興味があるものを見つけて満足した。

あの女は誰だ。 サガソウ。 俺がまだ会いたいと思うとは。

いつもは煩わしい女の香水だが、あの女の香水は涼やかな花の香りであの女には似合っているように思えた。
淡い色のドレスを着ていたから恐らく位は下だな。

馬鹿な奴。俺に惹かれるとは・・

彼は知らず舌なめずりして昏い思いを抱いた。

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