水底の恋 天上の花

栗菓子

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第3章 運命の輪

第1話 デビュタント

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ゆっくりと時は流れ、いつしか子どもは成長し、年ごろの息子や娘となる。
貴族の結婚は早い。特に娘は初潮がきて14才になったらいつでもお嫁に行けると言われている。
しかし精神はどうなのかしら。すんなり受け入れる人も居れば、泣きながら嫌がる人も居るわ。
個人差と言えばそれまでかもしれないけど・・
ネリアは香油で丁寧に梳き、艶のある髪を丁寧に結い上げ、淡い色のチュニックドレスを着た。
身だしなみは大事だ。前世の影響もあって、ネリアは爪も綺麗に磨き上げている。
爪は人に見せる先端のものだ。体調がわかる。
ネリアの爪は桃色で健康だ。

既にネリアの元には求婚の手紙が多く来ている。
若くそれなりに美しく、階級は低い男爵家だが、大金持ちだ。
アレフ・ノーラン家は貴族の影を背負う一家でもある。

ネリアの元に来るのは、大商人の正妻や、同じ階級の男爵家の長男との婚姻などだ。
アレフの愛娘であるネリアに懸想する人は決して少なくない。
柔らかな茶色の髪、青い瞳、地味だがどこか妖艶な顔 愛らしいが謎めいた貴族の娘。

お父様は、溜息をついて「厄介だな。娘の結婚相手を選ぶのがこんなに難しいとは・・」
求婚の手紙の束を見て、悩んでいた。

くすりとネリアは笑った。お父様の愛が嬉しかった。

「お父様。お茶にいたしましょう。お母様も待っているわ。」

アレフ・ノーラン家は小さな温室がある。そこには異国の花や植物を咲かしていて一種の楽園みたいな状態になっている。 鳥や蝶も放し飼いにしている。

その中に白い奇妙な文様をしたテープルと椅子が置かれている。
お母様はそこでお茶とお菓子を召し上がるのがお好きだ。勿論、ネリアもなかなか気に入っている。
「おお。そうだな・・」

お母様はお父様に寵愛されて益々美しくなっていた。
アレフの歌姫。真珠の涙姫とお母様は言われている。

お父様は決してお母様を傷つけるような奴らを許さなかった。ここはお父様が作ったお母様だけの楽園だわ。


小麦粉と砂糖と卵を混ぜて作ったお菓子。甘い蜂蜜。 体に良い薬草のハーブティー。幸福の食卓。

ネリアとお母様とお父様は団欒をした。

「このお菓子。美味しいわね。これは新しく雇った料理人が作ったのかしら。」
「ええ・・お母様。この地方では有名な料理人みたい。お父様が雇ったのよ。」
「まあ、どんな方かしら。貴方・・一度会ってみたいわ。」
「そうだな・・冴えない奴だが、腕は一流だ。でなければ雇わんよ。」
お父様は料理人を呼び寄せた。
確かに冴えない人だが、清潔で目が綺麗だった。
「アルと申します。如何でしたか。お気に召しましたか?」
「ええ・・とても美味しかったわ。有難う。これからもよろしくお願いしますね。」

お母様は満面の笑顔で言った。
「かしこまりました。」
アルは礼儀正しくお辞儀した。マナーも礼儀も行き届いているらしい。
「お父様。良い料理人を見つけたわね。」
「ああ・・良いだろう。」

お父様は嬉しそうに笑った。
「それはそうと、お前 王宮の舞踏会にデビュタントしてみないか?
一度は、王都を見るのもいいだろう・・お前も適齢期だから、交際する相手に会えるかも知れない。」

「ええ、そうかもしれないけど私のような田舎者が出ても大丈夫かしら。だって王都は最先端の流行や
洗練した人達が多いのでしょう・・。」

「大丈夫だ・・お前は淑女教育も受けている。」
「ほんのひと時だ。不愉快な目にはあうまい。」

ネリアはお父様をエスコートとして、王宮の舞踏会へデビュタントすることになった。
顧問の衣装仕立て屋に頼んでデビュタント用の衣装を注文した。
髪飾りや、他の飾りも宝石屋に見繕ってもらうことにした。

これからわたしの新たな運命がはじまるらしい。わたしはどんな人と出会うのだろう。
不安だが未知の旅に出る高揚感もまたある。
ネリアは微笑んだ。

数か月後、ネリアは王宮の舞踏会の日時に合わせて、馬車に乗ってお父様とお母様と一緒に同行することになる。
弟や妹は、まだ幼いからと家に留守ということになった。
妹は頬を膨らませたが、妹もあと数年で適齢期だ。貴女もあと少しでデビュタントだから・・と宥めながら
弟シンに妹をお願いねと頼んだ。
シンは嫌そうな顔をしたが、しぶしぶと頷いた。
兄弟仲はそんなに悪くないから大丈夫だろうとネリアは思った。


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