水底の恋 天上の花

栗菓子

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第2章 新しい家族

弟 シンの視点

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嗚呼・・ここは眩しいな。光溢れるのどかな世界で、一番愛に溢れた家族の末子として生まれた弟。
それが俺 シンだ。
シンで奇妙な名だろう。異国ではシンは真とか、罪とか色々な意味が含まれた名前だそうだ。
どうして親父はこんな名を付けたんだろう。
親父は言った。俺はたくさん汚い仕事をやっている。正義感が強いやつなら目を背けるような仕事もやってきた。
例えば、貴族の醜聞。悪い薬をやりすぎて廃人になった愚かな奴らを内密に処分する役目も担った事がある。
そいつらは可哀相に、家族からも見放されて娼館や、教会など身寄りのない人たちの最期の収容所などに送ったこともある。あいつらは薬くすりといいながら連れていかれた。骨と皮だけの奴もいた。
弱いから負けた。それだけの奴を処分しただけだけどな、哀れと言えば哀れよな。

なあ、人間の本質を見たければ最底辺の下層街にいくこった。
あそこでは人間の本性と僅かな情と思わぬ思いがあるぜ。
穢いけど時々ものすごく綺麗だと思う光景があるんだ。

なあ、シン。俺は貴族のはしくれとして生まれたけどな。汚い仕事も任務として担っていた。
それは下層街の住人と大して変わらないんだよ。偶々俺は運が良かっただけだ。
穢い面を見続けると、人は狂うのさ。
俺は綺麗なものが時々無性に欲しくなるんだ。きっと精神の均衡を取り戻そうと本能が言っているんだよ。
お前の御母さんは俺が見つけた綺麗なものだ。
俺にとっては宝物だ。 人を愛すれば、汚いものも洗い流したくなる。綺麗にしたくなる。
お母さんも汚いものを見てきた弱者だ。それでもお母さんは自分の汚さから目をそらさずに、生きるためにやった
とありのままを正直にお父さんに言ったんだ。可愛いよな。

本当に汚いものは絶対にそれを言わないし、自分が汚いことに気づかないんだよ。
お母さんは可愛かった。愛しかった。懸命に生きようとするのか何がいけないのかな。
お母さんにも弱いところや醜いところは或る。でも必死で生きようとするのが人間なんだ。
お父さんにとって誰よりも綺麗に見えたのはお母さんだけだよ。

お父さんは照れたように鼻をかいた。
はいはい父親と母親ののろけかよ。 息子としては複雑な心境だ。

シンは溜息をついて、親父の期待が分かった。 シンは親父の汚い仕事も受けづくらしい。
それはシンに耐えられるだろうか?
親父もやったし、俺にもできるとは思うが・・綺麗ってなんだ。汚いってなんだ。

シンは利発だがまだ子どもだった。なかなか親父のいう本質とやらがわからなかった。

シンは男として、親父の協力者にならなければならない。
どうせ姉さんや妹はいつかはお嫁に行くのだ。

アイシャは可愛い。年も近いだけあっていつまでも遊んでいたかった。
姉さん・・はよくわからない。凡庸な貴族の娘として幸福を一心に受けているような境遇なのに、時折、とても深い闇を感じる。異様に年老いた面もあった。
アイシャも気づいているだろうが、姉さんは時折妖艶な顔を見せる。
誰よりも魅惑的な娼婦のような顔を見せる。 妖婦だ。

シンは親父の手習いで闇の仕事や、娼館など汚い仕事につく下層街に同行したことがある。
その時、高級娼婦が真っ赤な唇で客を誘うのが印象的だった。

姉さんと高級娼婦が重なって見えた。

女はどこかで通じるものがあるのだろうか?

母さんも歌姫だった。やはり闇に近かったのだろう。父さんに見初められて母さんは幸運だったのだ。
でも一歩間違えたら母さんも娼婦になっていたかもしれない。
そんな境遇にあったのだ。母さんは・・

姉さんは母さんの闇を濃厚に引いているのかもしれない。





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