6 / 66
第2章 新しい家族
糸をつむぐ女と環
しおりを挟む
アイシャはお姉様と絵本を見るのが好きだった。
特にお姫様が時には酷い目に合いながらも、最後には王子様と幸福になった結末の童話を見たり聞くとうっとりと夢見がちになった。
アイシャは自分がお姫様だったらと夢想しているのだ。
ネリアはそれを察して苦笑した。ねえ。アイシャ。現実はそんなに甘くないんだよ。本当の現実はこんなに甘くない。お父様とお母様は奇跡の出会いをして幸福になったけど、大抵の王子様とお姫様にはまだまだ試練が訪れる。
老いや病気。飽きや怠惰。人生は何か起きるか分からない。
そう言いたかったけど、ネリアは黙った。お姉様だってお姫様じゃない!と言われるに決まっているからだ。
そう予想できた。ネリアも現実をしらないお姫様のように見えるだろう。
過去の私の記憶を見なければね・・
一生無知な幸福なお姫様のまま夢を見ていられただろう。
しかし、世の中にはどうしようもなく残酷な運命と、とても恐ろしい人たちがいる事も魂のどこかで知っている。
かつての愚かな私。私は恋した人に嬲られ殺された。
「お姉様。もう一度今度はこっちの絵本を読んで。」
「ええ いいわよアイシャ。この絵本は?」
それは表紙に糸を巻く女とお姫様の絵が乗っていた。
「眠り姫よ。糸を巻く魔女の針に刺されてお姫様は長い眠りにつくの。王子様が来るまで。」
「なぜ糸を巻く魔女なの?」
「さあ?考えれば不思議ね・・」
ネリアはどきりと胸を抑えた。なんだろう。この絵本は何かわたしと私の状況と境遇を連想させる。
ネリアはアイシャに眠り姫の話をお母様譲りの美しい声で語り掛けた。
最後まで読み終えるとアイシャは満足そうな猫みたいに微笑んで眠っていた。
「まあアイシャが眠り姫になったのね。」
ネリアはくすりと笑って愛らしい妹の寝顔を堪能した。
ネリアはアイシャのために毛布を掛けてあげた。
それにしても・・糸を巻く魔女が気になる。
調べると、糸は運命の意図を紡ぐメッセージだと解釈する話もあった。
なるほど確かに糸は、運命の意図。糸そのものを紡ぐことによって人生が運命が歴史が出来上がるのだ。
そしてお姫様が持つ環も気になった。
この環は何だろう。
環を連想させる書物を読むと、環は繰り返しという意味もあると。
彼女はそれを知って書物を落とした。
繰り返し?それって人生は繰り返すってこと?運命は繰り返すの?
嗚呼、嫌だわ。怖い。怖い。わたしはどうなるの。過去の前世の私のように恋人を裏切り裏切られて死ぬの?
ネリアはもうそこまで過去の映像を夢で見ていた。
過去の愚かな私。恋に溺れた愚かな娼婦。彼は私に夢を見させてくれた。光を与えてくれた。なのに最後にはあんな末路だったなんで・・
それ以上に理解できないのは、過去の愚かな女があんな末路を遂げても、いまだに恋人への愛と恋慕を残していることだ。何故あんな目に合っても愛せたのか?
海底に沈む愛と恋。それを抱いて彼女は白骨死体となった。
何で滑稽なの。何で愚かなの。 何で哀れなの。
嫌よ。怖い。恋は人を狂わせる。愛も怖い・・彼女は恐怖に打ち震えた。
まるで海底へ水底へ沈むような感覚だった。
貴方にはわからない。 彼女がわたしに囁いた。
ええ、分からないわ。貴女が・・私は何故そこまでして愛せたのか・・
わたしには何もなかったからよ。彼だけだったの。わたしに束の間でも夢を見せてくれたのは・・
わたしが愚かだったのよ。彼を裏切ったから・・裏切らなければ彼は一生わたしに優しい恋人の仮面をかぶってくれたでしょう。
女将にも言われたわ。愚かな女だって。彼のような男は、飽きられるまで待つほうが一番良かったって・・
私は自分の虚栄で、彼に一番良いところだけを見せたくて彼の父を口実に別れを申し出たの。
まさか彼がそこまでわたしに執着するなんて思わなかったの。
彼を裏切ったから私は罰を受けたのよ。知ってる?神は本当はとても残酷なのよ。裏切りだけは許せなかったの。
彼が私をどう思っているかはもはやいい。私が彼をどうしたいかよ。
彼に会いたいの。もう一度。
それは執着なの・恨みなの?貴女は?
ねえ貴女の名前は・・?
過去の亡霊は黙った。いずれわかるわと彼女は語りかけた。
同じ過ちは繰り返しはしないわ。
ねえ。そうでしょう。来世の私。 すべてを得た恵まれたお姫様・・
皮肉気に彼女はくすりと笑った。
紅い唇だけが印象的だった。
嗚呼、笑い方は私と同じだわ・・
貴女はわたしをどうしたいの。わたしを乗っ取りたいの?
いいえ。私は過去の残滓に過ぎない。
唯、貴女の魂の隅にいるだけなの。
いつかは貴女の魂と完全に吸収されるかもしれない。
貴女は貴女。私のような愚かな女にならない・・
彼女は微笑んで眠りについた。
嗚呼、彼女も眠り姫だわ・・いつ目覚めるか分からない姫だわ。
ネリアはそっと自分の心臓に手を触れた。
嗚呼・・鼓動を感じる。わたしは生きているわ。わたしはネリア。男爵家の令嬢として生きる長女だ。
彼女はそう思って何か起きようとも必ず勝とう。勝利への決意にネリアは震えた。
特にお姫様が時には酷い目に合いながらも、最後には王子様と幸福になった結末の童話を見たり聞くとうっとりと夢見がちになった。
アイシャは自分がお姫様だったらと夢想しているのだ。
ネリアはそれを察して苦笑した。ねえ。アイシャ。現実はそんなに甘くないんだよ。本当の現実はこんなに甘くない。お父様とお母様は奇跡の出会いをして幸福になったけど、大抵の王子様とお姫様にはまだまだ試練が訪れる。
老いや病気。飽きや怠惰。人生は何か起きるか分からない。
そう言いたかったけど、ネリアは黙った。お姉様だってお姫様じゃない!と言われるに決まっているからだ。
そう予想できた。ネリアも現実をしらないお姫様のように見えるだろう。
過去の私の記憶を見なければね・・
一生無知な幸福なお姫様のまま夢を見ていられただろう。
しかし、世の中にはどうしようもなく残酷な運命と、とても恐ろしい人たちがいる事も魂のどこかで知っている。
かつての愚かな私。私は恋した人に嬲られ殺された。
「お姉様。もう一度今度はこっちの絵本を読んで。」
「ええ いいわよアイシャ。この絵本は?」
それは表紙に糸を巻く女とお姫様の絵が乗っていた。
「眠り姫よ。糸を巻く魔女の針に刺されてお姫様は長い眠りにつくの。王子様が来るまで。」
「なぜ糸を巻く魔女なの?」
「さあ?考えれば不思議ね・・」
ネリアはどきりと胸を抑えた。なんだろう。この絵本は何かわたしと私の状況と境遇を連想させる。
ネリアはアイシャに眠り姫の話をお母様譲りの美しい声で語り掛けた。
最後まで読み終えるとアイシャは満足そうな猫みたいに微笑んで眠っていた。
「まあアイシャが眠り姫になったのね。」
ネリアはくすりと笑って愛らしい妹の寝顔を堪能した。
ネリアはアイシャのために毛布を掛けてあげた。
それにしても・・糸を巻く魔女が気になる。
調べると、糸は運命の意図を紡ぐメッセージだと解釈する話もあった。
なるほど確かに糸は、運命の意図。糸そのものを紡ぐことによって人生が運命が歴史が出来上がるのだ。
そしてお姫様が持つ環も気になった。
この環は何だろう。
環を連想させる書物を読むと、環は繰り返しという意味もあると。
彼女はそれを知って書物を落とした。
繰り返し?それって人生は繰り返すってこと?運命は繰り返すの?
嗚呼、嫌だわ。怖い。怖い。わたしはどうなるの。過去の前世の私のように恋人を裏切り裏切られて死ぬの?
ネリアはもうそこまで過去の映像を夢で見ていた。
過去の愚かな私。恋に溺れた愚かな娼婦。彼は私に夢を見させてくれた。光を与えてくれた。なのに最後にはあんな末路だったなんで・・
それ以上に理解できないのは、過去の愚かな女があんな末路を遂げても、いまだに恋人への愛と恋慕を残していることだ。何故あんな目に合っても愛せたのか?
海底に沈む愛と恋。それを抱いて彼女は白骨死体となった。
何で滑稽なの。何で愚かなの。 何で哀れなの。
嫌よ。怖い。恋は人を狂わせる。愛も怖い・・彼女は恐怖に打ち震えた。
まるで海底へ水底へ沈むような感覚だった。
貴方にはわからない。 彼女がわたしに囁いた。
ええ、分からないわ。貴女が・・私は何故そこまでして愛せたのか・・
わたしには何もなかったからよ。彼だけだったの。わたしに束の間でも夢を見せてくれたのは・・
わたしが愚かだったのよ。彼を裏切ったから・・裏切らなければ彼は一生わたしに優しい恋人の仮面をかぶってくれたでしょう。
女将にも言われたわ。愚かな女だって。彼のような男は、飽きられるまで待つほうが一番良かったって・・
私は自分の虚栄で、彼に一番良いところだけを見せたくて彼の父を口実に別れを申し出たの。
まさか彼がそこまでわたしに執着するなんて思わなかったの。
彼を裏切ったから私は罰を受けたのよ。知ってる?神は本当はとても残酷なのよ。裏切りだけは許せなかったの。
彼が私をどう思っているかはもはやいい。私が彼をどうしたいかよ。
彼に会いたいの。もう一度。
それは執着なの・恨みなの?貴女は?
ねえ貴女の名前は・・?
過去の亡霊は黙った。いずれわかるわと彼女は語りかけた。
同じ過ちは繰り返しはしないわ。
ねえ。そうでしょう。来世の私。 すべてを得た恵まれたお姫様・・
皮肉気に彼女はくすりと笑った。
紅い唇だけが印象的だった。
嗚呼、笑い方は私と同じだわ・・
貴女はわたしをどうしたいの。わたしを乗っ取りたいの?
いいえ。私は過去の残滓に過ぎない。
唯、貴女の魂の隅にいるだけなの。
いつかは貴女の魂と完全に吸収されるかもしれない。
貴女は貴女。私のような愚かな女にならない・・
彼女は微笑んで眠りについた。
嗚呼、彼女も眠り姫だわ・・いつ目覚めるか分からない姫だわ。
ネリアはそっと自分の心臓に手を触れた。
嗚呼・・鼓動を感じる。わたしは生きているわ。わたしはネリア。男爵家の令嬢として生きる長女だ。
彼女はそう思って何か起きようとも必ず勝とう。勝利への決意にネリアは震えた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる