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第2章 新しい家族
真珠の涙姫
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ある貴族の末端、男爵家に吉報が知らされた。麗しき妻に子ができたという医師の言葉であった。
夫は大喜びででかしたと叫びながら、妻のいる寝室まで駆け寄った。
貴族とは言え、最下位の男爵だ。それなりに汚い仕事も請け負っている。暗殺や、汚職、貴族の後ろ暗い事件を隠滅する工作もやっている。いわば地方の豪族であり、上の汚い仕事を請け負う役目も担っていた。
代償に、男爵にしては不相応なほど大金を持っている。だがたくさん汚濁に満ちた任務を行うたびに、美しさに対する願望が高まった。
そんな折、アレフ男爵は、地方の海沿いの見世物小屋で麗しき歌姫がいると聞いた。気晴らしにアレフは出掛けた。
それがアレフの運命の出会いとも知らずに彼は麗しき歌姫に会った。
粗末な見世物小屋で、彼女だけが発光して見えた。柔らかな金の髪、人形のような顔立ち。少女のような海の蒼い瞳
可憐な唇から紡がれる歌声は、今までに聞いたことがなく旋律が美しく疲れ切ったアレフの魂に染み渡るような癒しの歌が流れていった。
不思議な雰囲気を纏った歌姫。本来は娼婦と同様に下賤なものだが、どこかで気品があった。
海から出てきた人魚姫のようだとアレフは夢を抱いた。
アレフはあれが欲しいと心から思った。
歌姫の仕事が終わると、アレフは歌姫に猛烈にアプローチした。「貴方の歌声は素晴らしい。ずっとずっと貴方の歌声を聞きたい。貴方のその容姿と歌声に惹かれた。私のもの。私と交際してはくれないか・・」
アレフはこう見えても容姿は良く、地方ではモテる方だ。
貴族らしい容姿と豪族らしい大胆さをアレフは兼ね備えていた。
十分に魅力的な男の熱烈な求愛にはじめは歌姫は戸惑いながらも、徐々に受け入れていった。
それから一年、アレフは歌姫を、本物の姫のように寵愛し、美しい光景や、美術館や、芸術的な工芸品が売っているところに同行させて、たくさん世界の美しさと教養、新しい風を見せた。その度に歌姫は無垢な子どものようにはじゃき嬉しがった。
歌姫といるとアレフはだんだん世界の美しさを感じられた。
一年後、アレフは歌姫 シーナを正式に正妻にした。他の貴族に養子縁組をさせて、シーナはアレフと同じ貴族となった。そうまでしてもアレフはシーナをなんとしても正妻にしたがった。
シーナはアレフの熱烈な愛に戸惑った。私の地位では良くて愛人止まりだろうと予測していたからだ。それでもいいとシーナは無垢な子どものようにアレフを慕った。シーナも決して綺麗ではない。ここまで来るのに色々あった。
相当な修羅場もあった。シーナは娼婦まがいの事をやったこともある。生きるために・・
シーナはありのままにアレフに汚い過去も話した。「私は貴方の思っているような綺麗な生き物ではないわ。唯の歌姫よ。歌だけが上手い女よ。それでもいいの?」シーナはアレフに現実を見せようとした。
アレフは、シーナの正直で健気なところが愛おしかった。赤子の様で庇護欲が増した。
アレフは既に汚いところはたくさんたくさん任務で見ている。それに比べたらシーナなど無垢で愛らしかった。
愛らしい。愛らしい。いつまでも守りたい。
初めてだ。こんな感情は。アレフはシーナが運命の女と悟った。
「ますますシーナが愛おしくなったよ。大変だったね。シーナ。俺と一緒に幸福になろう。」
シーナは夢のようだと思った。汚い現実を見せてもアレフは笑いながらシーナを正妻にして幸福にしてくれる。
彼女は真珠のような涙を流してアレフの求愛を受け入れた。
それから年月が増す度にアレフとシーナの愛は深まり、大海のように満ち足りていった。
彼らはお互いがいなくては生きてはいけなくなった。運命の伴侶だった。
時折、アレフはシーナを「私の真珠姫。真珠のような涙を流す姫。」と呟いた。
シーナは赤面しながらも、アレフを「私の王子様、私を姫にしてくれる人。私の愛する貴方。」と応えた。
彼らはお互いだけで完結していた。夢のような幸福な恋と楽園にいた。
しかし、愛の結晶である子どもができたときは、始めは夫婦も戸惑ったが、すぐに新しい家族ができるのだと
受け入れた。
彼らはお互いに似た子どもが欲しいと言いあった。
かくして歌姫は真珠の涙姫として夫に寵愛され続ける毎日を送っていた。
夫は大喜びででかしたと叫びながら、妻のいる寝室まで駆け寄った。
貴族とは言え、最下位の男爵だ。それなりに汚い仕事も請け負っている。暗殺や、汚職、貴族の後ろ暗い事件を隠滅する工作もやっている。いわば地方の豪族であり、上の汚い仕事を請け負う役目も担っていた。
代償に、男爵にしては不相応なほど大金を持っている。だがたくさん汚濁に満ちた任務を行うたびに、美しさに対する願望が高まった。
そんな折、アレフ男爵は、地方の海沿いの見世物小屋で麗しき歌姫がいると聞いた。気晴らしにアレフは出掛けた。
それがアレフの運命の出会いとも知らずに彼は麗しき歌姫に会った。
粗末な見世物小屋で、彼女だけが発光して見えた。柔らかな金の髪、人形のような顔立ち。少女のような海の蒼い瞳
可憐な唇から紡がれる歌声は、今までに聞いたことがなく旋律が美しく疲れ切ったアレフの魂に染み渡るような癒しの歌が流れていった。
不思議な雰囲気を纏った歌姫。本来は娼婦と同様に下賤なものだが、どこかで気品があった。
海から出てきた人魚姫のようだとアレフは夢を抱いた。
アレフはあれが欲しいと心から思った。
歌姫の仕事が終わると、アレフは歌姫に猛烈にアプローチした。「貴方の歌声は素晴らしい。ずっとずっと貴方の歌声を聞きたい。貴方のその容姿と歌声に惹かれた。私のもの。私と交際してはくれないか・・」
アレフはこう見えても容姿は良く、地方ではモテる方だ。
貴族らしい容姿と豪族らしい大胆さをアレフは兼ね備えていた。
十分に魅力的な男の熱烈な求愛にはじめは歌姫は戸惑いながらも、徐々に受け入れていった。
それから一年、アレフは歌姫を、本物の姫のように寵愛し、美しい光景や、美術館や、芸術的な工芸品が売っているところに同行させて、たくさん世界の美しさと教養、新しい風を見せた。その度に歌姫は無垢な子どものようにはじゃき嬉しがった。
歌姫といるとアレフはだんだん世界の美しさを感じられた。
一年後、アレフは歌姫 シーナを正式に正妻にした。他の貴族に養子縁組をさせて、シーナはアレフと同じ貴族となった。そうまでしてもアレフはシーナをなんとしても正妻にしたがった。
シーナはアレフの熱烈な愛に戸惑った。私の地位では良くて愛人止まりだろうと予測していたからだ。それでもいいとシーナは無垢な子どものようにアレフを慕った。シーナも決して綺麗ではない。ここまで来るのに色々あった。
相当な修羅場もあった。シーナは娼婦まがいの事をやったこともある。生きるために・・
シーナはありのままにアレフに汚い過去も話した。「私は貴方の思っているような綺麗な生き物ではないわ。唯の歌姫よ。歌だけが上手い女よ。それでもいいの?」シーナはアレフに現実を見せようとした。
アレフは、シーナの正直で健気なところが愛おしかった。赤子の様で庇護欲が増した。
アレフは既に汚いところはたくさんたくさん任務で見ている。それに比べたらシーナなど無垢で愛らしかった。
愛らしい。愛らしい。いつまでも守りたい。
初めてだ。こんな感情は。アレフはシーナが運命の女と悟った。
「ますますシーナが愛おしくなったよ。大変だったね。シーナ。俺と一緒に幸福になろう。」
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