いかでか

栗菓子

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掃き溜めに鶴

第8話 地獄の宴

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今までが運が良すぎたのだ。カリンは男どもに暴行されて呻きながら倒れていた。
ここは娼館ではない。娼館は主人や女を監視し、守る番人みたいなのもいる。
逃げたりしなければ、娼婦にとっては住みよい娼館だ。ましてカリンは売れっ子である。
待遇もそれなりに良かった。友人もできた。カリンはここで一生を終える覚悟をした。

なのに、あいつらは・・・

最近、娼館街で悪い噂があった。
狼藉を働いているろくでなしや、ならず者、悪党が徒党を組んでちょっとした犯罪組織を作ったという。
暴力を好んで、残虐な行為もするようになった。
女子供も容赦なく殺す組織が生まれたから、貴族もそれを潰そうと衛兵たちが娼館街まで探し回るようになった。
カリンはそれを聞いて嫌な予感がした。背筋がざわざわとした。
カリンの予感は的中した。

ある夜、突然暴動がおきたのだ。 他の高級娼館で、破格の金で貸し切りで一夜を過ごすという宴が開催された。
いったいだれがこんな大きな宴を? 娼館街の主人たちは怪しみながらも、金と引き換えに宴を開いた。
カリンは益々嫌な感じがした。自分の娼館の主人に「嫌な予感がする。止めた方が良い。」と訴えた。
主人は、カリンを見て不安げな顔をした。「お前も怪しいと思うか? だが大丈夫だろう。ここじゃないしもっと高級な娼館で開催されるから、貴族も来るらしいし、衛兵もいるだろう。何事もないといいのだが。
お前はここにいた方が良い。もっと手慣れた高級娼婦が赴くはずだ。」
カリンは頷いた。大丈夫だろう。娼館街にも秩序がある、それを乱した愚か者は厳しい罰刑を受ける。
それをあえて愚行を犯す者はいないだろう。カリンは浅はかにも嫌な予感が止まらぬのを抑えてそう楽観的にとらえた。後にカリンはその浅はかな考えを後悔することになる。
いつもの通り、娼館で客をもてなし、奉仕する。これがカリンの仕事だ。単調な毎日。それが破壊されるとはカリンには思いもよらなかった。

最も高級な娼館。その通り、豪奢な貴族の城を真似たような館だった。
カリンもなかなかの有名な娼婦だが、まだ熟練されていない。カリンは未熟だったので、他の最も魅惑的な娼婦たちが宴で接待をすることになった。
一抹の不安がよぎったが、すぐに気のせいと思い仕事に取り掛かった。

深夜、耳が破裂しそうな大きな音がした。爆破の音だ。何事と主人や娼婦たちは大慌てで大広間に集合した。
「城が燃えた!宴で暴動が起きた!」
「ならず者たちが襲いに来た!」
悲鳴のように衛兵や、就業員たちが叫ぶ声が聞こえた。外を見ると地獄だった。燃え盛る館と飛び火する炎。
それに巻き込まれて炎に包まれる人達。焦げた匂い。煙の匂い。断末魔の悲鳴。多くの人が逃げようと半狂乱になっていた。泣き喚く子どももいた。今夜は不運にも強風だった。炎は瞬く間にあちこちに飛び火した。
炎上を止めようと、必死で水をかけたりする人たちもいたが、何の役にも立たなかった。
宴を開いた娼館の主とわずかな逃れた人たちは、燃え盛る館と、さらに被害が広がっている様を見て頭を抱えて呻いていた。
宴で悪質な客達が、暴力を引き起こし、乱闘が始まったそうだ。その際、炎をともす燭台などが倒れたり、爆弾をもっている犯罪者もいたようだ。宴を開催した当事者は行方をくらました。はじめからこの乱闘を狙っていたのかもしれない。愉快犯?悪質な犯罪者?

それに乗じて、暴動が起き、女や男を容赦なく暴行し、金銭を奪う蛮行が為されていた。奇声をあげながら嬉々として蛮行をする人々は、炎で人間のように見えなかった。本性が現れたのだ。人の皮をかぶった化け物。
カリンは呻いた。娼館の主人もそれを見て蒼白になった。
慌てて、扉を頑丈に閉めろ。絶対に破られるなと男たちに叫んだ。気丈な大柄の女も扉を手伝って抑えたが、暴走する人々の力は強く、抑えきれなかった。窓から、扉からドンドン。パリン。シャリン。恐ろしい音が聞こえた。
悪鬼のような人たちは、扉を壊し、侵入した。抑えていた大柄な女は扉の下敷きになり、暴走した人たちの足で踏まれ潰れた。血がどくどくと流れた。カリンは悲鳴を上げた。はじめて知り合いが死んだのを見た。
血に飢えた獣たちが、カリンたちを見て衝動的に襲い掛かった。もう駄目だ。カリンは死を覚悟した。
何故どうして。カリンは思ったがどうしようもなかった。
カリンは突き飛ばされてしたたかに体をうち、激痛が走って動けなくなった。馴染の娼婦も蒼白になって、カリンと叫びながら近寄ろうととしたが、大柄の男に持ち上げられた。戦利品にすると男は嬉しそうに言った。
それを聞いて馴染の娼婦は更に蒼白になった。抗おうとしたが、ゲラゲラと笑われてさらわれた。絶望。女の顔にはそれしか宿っていなかった。カリンも倒れたまま、他の男がのぞき込んで「これは上玉だ。なかなかいい女だ。」
「この女達もさらおう。」馴染の女を含めカリン達。女たちは蛮行を犯した男たちによってさらわれた。

後には血を流しながら後を追おうとする娼館の主人と男たちがいた。
だが、蛮行を起こした男たちの逃げ足は速く、女たちは荷物のように運ばれさらわれていった。
助けてえと子どものような女が泣き喚いたが、うるせえ!と容赦なく殴られた。女の歯が飛んだ。女は気を失った。
ゲラゲラと笑われながらさらわれる女たちは悪夢を見ているような気分だった。

遠くに、わなわなと怒りに震えている主人と男たちが見えた。

カリンはあまりのことに意識を失った。

気づいたら、更なる地獄が待っていた。娼館より汚いところ。そこで女たちがならず者たちに暴行されていた。
女の呻く声。男の嘲笑う声。厭な音が聞こえた。悲鳴を上げながら抗い続ける女はうるさいと首を刎ねられた。

カリンも気を失っている間に犯されていた。既に穢された痕跡がある。抵抗する女や男は容赦なく殺されていった。
カリンは横たわりながら、その地獄の光景を目撃した。

なぜ、どうしてこんなことに。これは現実であるはずがない。悪夢だ。
カリンは必死で目をつぶり悪夢よ醒めろ!と自分に語り聞かせた。無駄だった。

目を覚ましたカリンを醜悪な男は注目し、「お目覚めかい。さらわれたお姫様。」と娼婦をお姫様と揶揄した。
カリンは、男を睨んだ。動けない。情けない。力があったらこいつをぶん殴ってやるのに。
「生意気だな。」カリンの心を察して、醜悪な男は、カリンの顔をぶん殴った。腫れ上がるぐらい強烈だった。
「自慢の顔が無惨になって可哀相にな」と白々しくも醜悪な男はいった。
 お前のせいだろうか!
カリンは怒りを込めて男を見つめた。男は強い女だなと呟いて、犯して大人しくさせようとした。
カリンは男から顔をそらして、男の暴行に耐えた。永遠にも思える苦行だった。


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