深淵の村

栗菓子

文字の大きさ
上 下
10 / 10

第8話 無痛の世界

しおりを挟む
痛みは何のためにあるのか?

それは生存本能のためにある意味歯止めともなる感覚だと医者は言ったが、我儘な子どもは我慢ならなかった。


ある時、ふと無痛の人がいると解った。 その人は、事故で片腕や、眼を失っていても笑ってやってしまったよと

駆けつけた警備隊に照れ笑いをしていた。それが酷くシュールな光景だった。


それを見て、大富豪の我儘な子どもは思いついた。

完全に安全な世界をつくって、無痛の身体を得たらどうなるのか?

幸運にも、子どもには莫大な財産と、空気のような親が居た。 


執事に頼んで、最先端の研究者と医者に無痛の人を実験体にして、その細胞などを移植したり、改造を行った。


数年後、完全に保護された世界で、子どもは無痛の身体をもって生きていた。


はじめは酷く快適だった。しかし、困ったことがあった。 生きている実感が無いのだ。


どこか乖離症状にも似た症候を覚えた身体に子どもは酷く当惑した。


これは死んだと同じではないのか?


痛いからこそ、なにかを行動を起こそうとするのだ。 刺激が全く無いのがこれほど恐ろしいとは・・。


なんとかして感覚を取り戻そうと、子どもは必死になった。

「 ぼっちゃま・・諦めたらどうですか。変化できても戻すことは難しいですよ・・あたしもごらんなせえ。

機械で半身を覆っていますよ。 若い頃ヤンチャをして、肩も目も半身不随になりました・・。


旦那様に、慈悲で機械の身体を頂きましたが・・やはり違和感はあるものです。」


ふうと執事は溜息をついた。 こまったものだというように首を振った。


子どもは激昂した。 ふざけるな。いまさら。お前だって同意したくせに・・。

我儘な子どもは感情の赴くままに、執事をぶん殴った。


執事はよろけて、人工高級石の机に額をぶつけてくたりと横たわった。

しまったと子どもは舌打ちして、おそるおそる近寄った。

「おい・・執事よ・・。」


その時、こどもははっと息を呑んだ。

血は赤くなかった。 変な色のオイルをしていた。 まさか頭も改造されていたのか?


まあいい。頭も取り換えられるのなら、医者や研究者に連絡しなければ‥危うく内密の業者に連絡するところだった
・・命拾いしたな。執事よ・・・。

こどもは手を振って、青白く画面が浮かんだ。

医者の顔が写った。何事かというような顔をしていた。なんだか滑稽だと子どもは思った。

「もしもし、執事が倒れて・・すぐに来てください・・。ええ・・そうです。今先ほどです・・。」

子どもはふと思った。執事はこれからまた改造されるのだろうか?


俺はどうなるのだろう。 このまま感覚が無い世界は生き地獄だ。いっそ毒を煽って安楽死するべきだろうか


こどもは浅はかにもそう思いつめて、楽にしねる薬を探し始めた。


ろくでもない子どもが、ろくでもないことを思いついた結果だ。


未来は危うい・・。軽く生きて軽く死ぬ子どもだった。彼の人生はあまりにも薄っぺらかった。


数分後・・執事がロボット看護兵によって運ばれた。


その後、子どもは寝室で毒を煽った。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...