深淵の村

栗菓子

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第8話 無痛の世界

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痛みは何のためにあるのか?

それは生存本能のためにある意味歯止めともなる感覚だと医者は言ったが、我儘な子どもは我慢ならなかった。


ある時、ふと無痛の人がいると解った。 その人は、事故で片腕や、眼を失っていても笑ってやってしまったよと

駆けつけた警備隊に照れ笑いをしていた。それが酷くシュールな光景だった。


それを見て、大富豪の我儘な子どもは思いついた。

完全に安全な世界をつくって、無痛の身体を得たらどうなるのか?

幸運にも、子どもには莫大な財産と、空気のような親が居た。 


執事に頼んで、最先端の研究者と医者に無痛の人を実験体にして、その細胞などを移植したり、改造を行った。


数年後、完全に保護された世界で、子どもは無痛の身体をもって生きていた。


はじめは酷く快適だった。しかし、困ったことがあった。 生きている実感が無いのだ。


どこか乖離症状にも似た症候を覚えた身体に子どもは酷く当惑した。


これは死んだと同じではないのか?


痛いからこそ、なにかを行動を起こそうとするのだ。 刺激が全く無いのがこれほど恐ろしいとは・・。


なんとかして感覚を取り戻そうと、子どもは必死になった。

「 ぼっちゃま・・諦めたらどうですか。変化できても戻すことは難しいですよ・・あたしもごらんなせえ。

機械で半身を覆っていますよ。 若い頃ヤンチャをして、肩も目も半身不随になりました・・。


旦那様に、慈悲で機械の身体を頂きましたが・・やはり違和感はあるものです。」


ふうと執事は溜息をついた。 こまったものだというように首を振った。


子どもは激昂した。 ふざけるな。いまさら。お前だって同意したくせに・・。

我儘な子どもは感情の赴くままに、執事をぶん殴った。


執事はよろけて、人工高級石の机に額をぶつけてくたりと横たわった。

しまったと子どもは舌打ちして、おそるおそる近寄った。

「おい・・執事よ・・。」


その時、こどもははっと息を呑んだ。

血は赤くなかった。 変な色のオイルをしていた。 まさか頭も改造されていたのか?


まあいい。頭も取り換えられるのなら、医者や研究者に連絡しなければ‥危うく内密の業者に連絡するところだった
・・命拾いしたな。執事よ・・・。

こどもは手を振って、青白く画面が浮かんだ。

医者の顔が写った。何事かというような顔をしていた。なんだか滑稽だと子どもは思った。

「もしもし、執事が倒れて・・すぐに来てください・・。ええ・・そうです。今先ほどです・・。」

子どもはふと思った。執事はこれからまた改造されるのだろうか?


俺はどうなるのだろう。 このまま感覚が無い世界は生き地獄だ。いっそ毒を煽って安楽死するべきだろうか


こどもは浅はかにもそう思いつめて、楽にしねる薬を探し始めた。


ろくでもない子どもが、ろくでもないことを思いついた結果だ。


未来は危うい・・。軽く生きて軽く死ぬ子どもだった。彼の人生はあまりにも薄っぺらかった。


数分後・・執事がロボット看護兵によって運ばれた。


その後、子どもは寝室で毒を煽った。



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