深淵の村

栗菓子

文字の大きさ
上 下
2 / 10

第2話 目覚め

しおりを挟む
パンが焼けた匂い いつもの木の実の白い汁 かすかに甘味があるものをここではサシと呼ぶ。
栄養を補うため、昆虫をむいた身を塩で煮込むのは村人にとって貴重なものだ。

穀物や野菜は極僅かな畑で実っている。しかし強風や台風が多いためなかなか大量は取れない。

ここはなにもない。しかしとても時間がゆっくりしている。

外界では、戦乱など様々な歴史とやらは瞬間瞬間刻々と変容しているようだ。

性については、とてもおおらかだ。 嫉妬はなく淡々とした日常がある。

そんな中、無関心に彼女はこの閉鎖的な村で生きていた。

なんとなしに女は、家事や、料理をしたり、服をつくったりしている。 姉は木でできた織機でいつも布を織っている。そんな中、彼女はふとこの模様は姉が考えてつくったのかと思い、姉に尋ねた。
姉は違うと首を振って、いいからと手を振って仕事の邪魔をするなというように妹を追い払った。

よくよく見れば、奇妙な文字が書かれていた。 かすかに読めそうだったが読めない。

古代文字だ。これはここの文字だろうか?

そういえば物心ついたころから文字はあまりみない。 長老や大人たちはなんか長い長い紙を巻き付けたものを持っていた。あれになにか文字でも書いているのだろうか?


大人はずるい。 いつも子どもに大事なものは隠す。

妹は、月のものがでたら、通過儀礼で或ることをするらしい。 姉は?と聞いたら、わたしは機織機のものだから

大人にはなれないのよ・・と寂しげに俯いた。


大人になれない?なんだ。それは? 月のものがくると、股から赤い血が出ると、どうなるのだろうか?


こどもをつくって男と夫婦になるのだといわれたが大丈夫だろうか?


だれがわたしの夫となるのか? 妹は疑問が尽きることがなかった。

イドルだろうか。彼はわたしより年は重ねている。 イドルは確かに穏やかで村に貢献しているいい男だ。

しかしイドルは、村の一番美しい花のようなアドレアを溺愛していた。


わたしなどは歯牙に欠けなかった。いや、村が集まって祭りをしたとき、わたしは姉の織った見事な衣装で神様への舞をした。

あの時は、奇妙にも誰かに突き動かされるようにわたしは踊っていた。

たぶん精霊だ。先祖が乗り移ったのだ。

姉が言うには、いつもより美しく超然として見えたと神様があんたの身体を借りたのだとはじめてあんな踊りをみたのはおどろいたと興奮して喋った珍しく紅潮した姉の顔が忘れられなかった。


その時、イドルもアドレアを視ずに、私をずっと見ていたらしい。


かすかにわたしは嬉しくなった。女の芽生えであった。わたしは少しずつ、石からバナナへ、柔らかい女へと成長していった。
わたしは目覚めつつあった。

姉は石のように固くなであった。姉を柔らかくするのは誰だろうか?


わたしは時折水浴びをする。その時、だれかが覗きみするようになった。男だ。わたしの身体が気になるらしい。

そんなに珍しいだろうか? わたしは少し膨らんだ胸をさわる。

あそこはまだ毛ははえていない。 布で拭いていると、どのぐらい膨らんだと私の胸を指さした男が居た。

わたしは溜息をついて堂々と見せた。

性器もみせた。 わたしに恥は無かった。 彼が女のホトを見せろと言ったので、わたしは頷いて股を拡げた。


ほおと男は感嘆したように見た。これは綺麗なもんだな。生娘だ。

男は残酷な遊びを見つけたように、わたしのあそこをまさぐった。痛みはあったがわたしはこらえた。

わたしは無言で男の手を触った。それ以上は止めろと意志を示した。

男は渋々と手をひらひらとして遠さがった。もしかしたらあの男がわたしの夫になるのだろうか。かすかな不安がよぎった。

わたしの身体は、長ずるにつれて、良く触られるようになった。それも男どもばかりだ。 わたしだけじゃない。他の娘も、胸をまさぐられたり、執拗にあそこをいじくられるようになった。尻も食べ物のように舐められたり齧られる。


女の身体は男の嗜好物らしい。 果実のように喰らうのだ。


それを喜んでいる女もいれば、微妙な顔をしている女も居る。 適応するかしないかだ。


拒否はできない。したらなにか魔物がとりついたと言われる。そんな女は追放や、虐待される。

わたしはその道は歩みたくなかった。わたしは従順に男のままとなった。

わたしにはあまり感情はなかったし、わたしはこの世界の平凡な娘だった。

あえて過酷な道を選んだ女はいないだろう。ここでは男が主体的だった。

わたしは先祖がこれがいいとしたのだから今更 異論を唱える気はなかった。幸いにもわたしは男にあまりひどい目にはあわなかった。

わたしは恋をしたことはない。

親に言われて生きている愚かな女だ。

激しい気性をもった男と女はここにはあわない。ここは茶色の土と、緑の森、清浄な池に囲まれた単調な村だからだ。


わたしはここに不満はなかった。唯生きるのだ。

しかし時々疑問は浮かぶ。 文字や姉のこと。親はどうなったのか。わたしは何も知らない。知らされない。

わたしは無知な子どもとして生かされたのだ。

時折、ここが檻のようにもみえた。


あと数年わたしは通過儀礼を経て、夫を得る。 そして子供を産むのだ。

それがわたしの道だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます 女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。 小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

貼りだされた文章

ゆうり
ミステリー
"安田栄一"が取引先へ向かう途中に、庭先に筆で書かれた文字を貼りだす不気味な家があった。 その文字は難解な四字熟語など一応意味のある言葉だったが、 ある日今までとは全く違う謎の文章を貼りだす。 意味不明な行動を繰り返すこの家を訪ねることになった栄一。 少しずつ家の主をことを知っていき、なぜこんな行動をするのかを推理していく。 その理由とは? そして庭先に貼りだされた文章には一体どういう意味があるのか?

どぶさらいのロジック

ちみあくた
ミステリー
13年前の大地震で放射能に汚染されてしまった或る原子力発電所の第三建屋。 生物には致命的なその場所へ、犬型の多機能ロボットが迫っていく。 公的な大規模調査が行われる数日前、何故か、若きロボット工学の天才・三矢公平が招かれ、深夜の先行調査が行われたのだ。 現場に不慣れな三矢の為、原発古参の従業員・常田充が付き添う事となる。 世代も性格も大きく異なり、いがみ合いながら続く作業の果て、常田は公平が胸に秘める闇とロボットに託された計画を垣間見るのだが…… エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+、にも投稿しております。

✖✖✖Sケープゴート

itti(イッチ)
ミステリー
病気を患っていた母が亡くなり、初めて出会った母の弟から手紙を見せられた祐二。 亡くなる前に弟に向けて書かれた手紙には、意味不明な言葉が。祐二の知らない母の秘密とは。 過去の出来事がひとつづつ解き明かされ、祐二は母の生まれた場所に引き寄せられる。 母の過去と、お地蔵さまにまつわる謎を祐二は解き明かせるのでしょうか。

処理中です...