あまりにもあまりにも偶然に墜落し、とんでもない上位生命体の一部となった彼らです。

栗菓子

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第32話 踊る愚者たち

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世界は、大きな戦によって、無辜の民も、貴族も、多くの国も巻き込まれ、生死を掛けた地獄の釜に入れられた罪人たちは、踊り狂い、狂気の元に殺しあった。

なかには、本当に狂って唯殺すだけしか考えない獣も多くなった。

その中で、非常に冷静で、未来を可能な限り予測し、防衛を強化した貴族や、王族や、力や能力の或る者がほとんど生き延びた。

まるで、狂気の神が、一気に人間を皆滅ぼしにしようとする途方もない激動の運命のよって当時の人たちに苛烈な道を選ばせた。
殺さなければ殺される。コロセ、イキルタメニ。


数十年後、或る女の子が、うわああと獣のように歓声を上げながら、ある荒野を走っていた。そこには多くの敗北者の首が、黒い鳥や、蟲に喰われて、半ば白骨化したものが大量に、木の杭によってオブジェのように刺さっていた。

「すごいよ。こんなに大量の骨や頭蓋骨ははじめてみたよ。お兄ちゃん! アア、鳥がおめめを啄んているよ。美味しいのかな。お兄ちゃん。食べたことがある?」

「お前は、食べ物の事しかかんがえないんだな・・。色気もへったくれもありゃしねえ。」

うんざりと男はぼさぼさの長髪をかきむしった。

どこか艶がある猫のような眼をした女の子は長い髪を高く結い上げて、ポニーテール風にしていた。その衣装は、踊り子のようでもあり、どこかの異国の姫の装束のようでもある。金と銀の細い腕輪をいくつも身に付けて、足にも歩くたびにシャランと音が立つような輪を付けていた。

幼女のようであったが、妖艶なアンバランスな魅力を持っていた。

好色な男たちが見たら、良い獲物だと涎を垂らしそうな女だった。

お兄ちゃんと呼ばれた男も、なかなかの美貌を持っていた。 
でも目をあまり見せないように、黒い日光を遮る遮光眼鏡を付けていた。

妹は、それを勿体ないと思った。だってとても綺麗な目をしているのにな。

「ここは、十年前セーテ大戦と言って、多くの戦士たちが戦った場所だ。英雄たちの墓標だな。」

「うん・・ねえ。ここでお父さんも戦ったのかな?良く生き延びたよね。
あたしたちのところへ帰って来た時は血塗れだったよね。お母さんが懸命に介抱してくれなきゃあの時死んでたよ。お父さん。」

「あいつは狂人だからな。戦を見ると高揚する根っからの戦士なんだよ。わかってるだろう。親父が大人しいのはお袋の前だけだって。親父はお袋の前だけは、犬のように懐くからな。まあ冥府の魔獣みたいな野郎だが・・。」

「お兄ちゃん・・それお父さんの前で言わない方が良いよ。何をするが、わからないよ。あたしたちより大人げないもん。」


お兄ちゃんは、眉をひそめてそれもそうだな。と頷いた。

お兄ちゃんも、実の親の事は良く把握していた。 母は、とある地下室に隠れていた。
地下室と言っても、色々な迷路が合って、一つの街のように広大なところだった。
空気も不思議と澄み切って、カビも変な異臭もしない不可思議なところだった。
父が、ここは、母親が祈って、聖域のように浄化したところだと言った。
お前の母親はそういう能力を持っているとそして結界や加護を与える力も持っていると兄妹にこともなげに真実を告げた途端、唖然とまだ幼い彼らは口をはあ?と上げた。
だってそれじゃあまるで女神や、古い聖典に見た聖女みたいじゃないか?と半信半疑でいうと。更にとんでもないことを言いのけた。

「神様じゃないけどそれに近い上位生命体と接触する力を持っているんだよ。巫女みたいなものだな。お前の母ちゃんは俺でさえも手懐ける力を持っていたぞ。お前らは、俺と特殊な力と血をもつ子供たちなんだよ。」

「ついでにいうと俺も悪名高きガリア王家のラテル王子の庶子だ。俺はまあガリア王家に属しているな。お前の母ちゃんとは一応敵同士だが、惚れちまって、母ちゃんだけは匿っている。そしてお前らを密かにつくった。
まあ。あれだな。ばれちまったら一家皆殺しだなあ・・。」


兄妹の両親の名はゼーンとナラと言った。 彼らは惹かれあい、この地下室で夫婦生活をしていた。
そして、子どもたちが成長するまで、この地下で生き延びる術を教えていたというのだ。道理で子どものころから厳しく鍛えるなと思っていた・・。まさかそこまで厳しい環境におかれていたとは・・。


ナラは、隠れる術を編み出し、敵には空気のように見えないようにしていた。

そして、子どもたちにも、見えないように術をかけていた。実力がつくまで見えない子にしていたのだ。


そしてやっと、術を解いて、強力な加護を授けて、彼らは地下から地上へと旅へ行くことにした。
ほんの一週間だか、両親はあえて自立させようと厳しい道を選ばせた。
ここで死ぬ様ならそれまでの運命だと覚悟を決めて、バイクみたいな動く機械に乗せて、なるべく遠くまで冒険や観察をしておいでと食料や水、薬など必要なものを与えて、旅に行かせた。


そうして、兄と妹は、このセーテ大戦があったところにいる。誰もいない。死者のみだ。


「お兄ちゃん・・地上はこんなに荒れ果てていたんだね。あたしたちは地下に居て良かったんだ。だってお母さんもお父さんもいたし・・。」

「そうだな。しかし。俺たちは自立の時期を迎えたんだ。少しでも地上で生き延びられるようにしなければ・・。」

兄の名はルオーと言った。
やはり眼鏡の奥には、邪眼と呼ばれる王家の眼があった。その容姿は祖父ラテルによく似ていた。

しかしナラの血もひいているせいか、思慮深く温厚であった。

妹の名はサラであった。
サラは、ナラの血を強く引いているため、予知や、勘が鋭かった。時々、見たことのない場面や光景も見ることがある。幻視だ。

サラの眼は琥珀色だった。王族の色ではない。巫女の血を引いているのだ。


これから兄と妹は少しずつ、地上の事を把握しなければならない。どこへいっても生きられるようになるためだ。

兄と妹の過酷な冒険が始まる。

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