あまりにもあまりにも偶然に墜落し、とんでもない上位生命体の一部となった彼らです。

栗菓子

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第3話 はじまりのアダムとイブ

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閉鎖的な村、まだ未開の思考を持った原初的な人類は、神を信仰した。

特に海で魚や貝 食料などの恩恵を抱いている村人たちは、海に畏怖と崇拝をもって、奇妙な儀式を創り、村の者は時に夜で踊り狂い、神への祝祭として歌や、美しい原初的な踊りを捧げていた。

厳しい生活ではあったが、逞しく身体能力が優れ、免疫力がある者が生き残り、辛うじて、助け合っていた。

そんな中弱い男の子は、役立たずとして虐めの対象であった。
家族の気まぐれな善意でかろうじて生き延びていたが、それも限界に近い。同じように、生命が尽きかけている女の子もいた。
弱い者は淘汰される。ここはそういう世界であった。

ある時、ある村人は、何を思ったが、息絶える寸前の子どもらを殺し、バラバラにして、その肉片を海の神に捧げた。 
いつも海への恩恵にあずかっているから、海の神に還そうと思ったのだろうか。

村人は、かすかに敬意をこめて、祈り、その肉片を海へばらまいた。

なにか巨大な魚や、小さい魚が美味しそうに群がってきた。その光景に村人は何だか畏敬を抱いた。

儀式・・その原型がなんとなしに他の村人にも伝わって、いつしかそれが風習として伝わった。

ある意味、食料が亡くなった時や、飢饉、疫病として、村が全滅する前に、少しでも足手纏いを間引きする生きるための知恵が宿ったのかもしれない。

いつしか海の神の信仰は深まり、生け贄の儀式も続いた。


だが、それに反発し、恐怖と嫌悪を抱く者も現れた。

それが、一番弱い男の子と女の子だった。


彼らには解っていた。まもなく自分たちは大人たちの悪意によって、殺され、食べられるのだ。


何故、自分たちが死ななければならないのか?
一番弱いから?だからなんだ。望んてこうなったわけじゃない。だからといって死にたくないのだ。

彼らは、じわじわと己の運命を悟り、怒りと嫌悪と絶望に満ちていた。

『逃げよう。殺される。』

子どもたちは逃げようとしたが、駄目だった。大人たちは見透かしていた。

男の子は泣き喚きながら、集落の遠くまで逃げようとした。 女の子は足が動かなくて諦めていた。

両親はいたが、目を背けた。 他に子どもがいるのだ。優秀で役に立つ子供たちだ。そして食料があまりなくなっていた。
彼らは生きるために、子を見殺しにした。

『タスケテタスケテ』
男の子は愚かにも、親に助けを求めたが、母は目をふせ、父は冷淡に無表情に見ていた。

それをみて嗚呼・・身限られたんだなとやっと男の子にも分かった。

大人たちに抑えつけられ、泣き喚く男の子の胸をナイフで刺し、絶叫を上げながら痛い痛いと喚き散らしながら、心臓を取られて、絶望の顔で息絶えた男の子の顔を傍らで見た女の子は、虚ろな目をした。

心が壊れた。死んだ魚の眼をするようになった。濁った眼だ。

呆気なく女の子も、胸を刺され、同じように息絶えた。

こんな世界・・・嫌だ。気持ちが悪い。気持ちが悪い。嫌だ。嫌だ。嫌だ。 死にたくない・・悔しい。

それが、呆気なく殺された生贄の男の子と女の子の最初の死の記憶と意識だった。


ふざけるなふざけるなふざけるなふざるなふざげるな・・何か神だ。体のいい間引きじゃないか!


男の子と女の子はどうしようもない怒りに満ち溢れながら、己の無力を呪い、世界を呪った。


意識が消えた。真っ白な意識と真っ黒な意識。


気づいたら、五体満足で蘇生していた。


なにかが蘇生させた。彼らは自分がなにか上位生命体の一部になったことが分かった。


彼らは、お互いをイチハとタネコと名付けた。

彼らは、もうあの村に帰るつもりはなかった。彼らは恐怖と恥辱と怒りを与えられたのだ。
親でさえも見放した。

何もかも忌々しい記憶だった。あそこにいたこと自体嫌悪と怖気が走った。


イチハとタネコは光の導くままに、遠く遠くへと逃げた。


それが始まりのアダムとイブの伝承であった。


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