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第39話・徒花の実①
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信じろと彼が言ったとおり、茶屋のみんなは幸いにも怪我ひとつしていなかった。それに安堵したのだから、やはり帰ってよかったのだと、自分自身に言い聞かせていた。
それと同時に、茶屋のみんなを巻き込んで、散々暴れ回って心配かけて、すごすごと帰ってきたのだから、こっ酷く叱られるのだと思い小さく萎んだ。
が、女将さんは呆気にとられて、こう言った。
「そりゃあ、うちはいいけれど……あんたも案外、肝が据わっているんだね」
申し訳なさに、黙って頭を下げるのみ。そんな私に女将さんは、恨み言のようにつらつらと続けた。
「鉄砲隊なんざ下っ端が、陰間を買えるなんて思えないよ。でもさ、あれだけ派手に立ち回りゃあ、お尋ね者になるとは思わないのかい?」
まったく、女将さんの言うとおりだ。私がすべきは謝罪と懇願それだけだと、畳に額を押しつけた。
「ご迷惑になるようでしたら、この身をどこか深くに沈めようとも構いません。ただ、私はこの道しか知らず、年季も明けておりませんので、どうかこのまま居させて頂けませんでしょうか」
そうして私は、陰間に戻った。着飾ったのが功を奏したのだろうか。東征軍の人々は、女に斬られたとあっては名折れだと口を噤んだようで、女将さんの懸念は取り越し苦労に終わっていた。
結局、今までと変わらずに谷中の住職様の寵愛を受け、そこから周辺の僧侶へと私の噂が広がって、年季が明けた牡丹兄さんと入れ替わりに茶屋を牽引するまでになった。
ただ私より下の陰間は生まれることなく、だからといって商売が先細っているから、目まぐるしくはない。陰間茶屋は、明治新政府という鉋に削られていくようだった。
北進した幕臣が、五稜郭で最期を迎えたとの報を聞いた。幕臣が咲かせた最後の徒花だったねぇ、としみじみ語られて、私は違う想いを抱いていた。
彼は生きているのだろうか。
私と約束を交わしたのだから、きっと生きているはずだ。そうと信じて、料理屋に呼ばれるたびに彼ではないかと、胸に小さな炎を灯す、そんな毎日を送り続けて、はや六年。
内に密かに秘めていた彼と鍛えた肉体を、ついに隠しきれなくなっていた。骨はしっかり太くなり、身体つきも角張って、緩めた後ろも固くなり、前も大きくなった……と思う。
老境の僧侶はすっかり枯れて、後家の相手をする日が多くなった。
ぬらぬらと絡みつき、きゅうっと絞まる感触が、先から軸から丹田へ、そこから髄へと抜ける痺れるような悦楽が堪らなかった。が、責めて責めて悶えさせて互いに果てるその瞬間、後ろの切なさに襲われて、溢れる女の蜜を拝借し、密かに指を差し込み自瀆に耽った。
もっと、もっと、と追い縋る後家に、もう一刻は過ぎてしまったと別れの口づけをして、迎えの桔梗兄さんに火照った身体を押しつけた。
「兄さん、ごめん……。欲しくなっちゃった」
「まったく、あやめは。金剛は陰間のはけ口じゃあないんだぞ?」
眉をひそめる桔梗兄さんに構うことなく、私は手を脚の付け根に伸ばしていった。大きくなった私のものより大きなものを、撫で回して更に大きくしていく。触れられて、桔梗兄さんも内から熱くなってきて、堪らず私の腰を抱いて囁いた。
「あやめ、口でしてほしい」
「うん、私もそうしたい」
きつく押さえ込んだ逸る気持ちは、茶屋の二階の襖を煩わしく閉めた途端、破裂した。
桔梗兄さんを押し倒し、掴んだものを口いっぱいに頬張って舌を這わせた。
桔梗兄さんは子犬でもあやすように頭を撫でて、悦に浸って吐息混じりに労った。
「あやめ、とてもいいぞ」
熱くて、大きくて、とっても美味しい。そう桔梗兄さんに伝えたかったが、ひと時も口から離したくなくて、喘いでいるのが精一杯。
苦くて淡白な粘液が口いっぱいに広がって、私の後ろが疼いて堪らなくなってしまった。名残惜しく口から離し、たなびく糸を私の後ろに導くと、桔梗兄さんが嘲笑って秘所に触れてきた。
「あやめ、通和散を忘れているぞ」
「あ、ごめん……。久しぶりだったから」
口に含んだ通和散をふたりで溶かし、互いの舌に絡ませる。と、買い切り客に送られた山吹兄さんが板間に入り、すぐさま嫉妬を露わにした。
「ああっ! あやめ、ずるい! 私も欲しい!」
「山吹、あやめが先客だ。後でしてやるから」
山吹兄さんは不服そうにむくれて、待ち切れないと私の上に跨った。
「山吹兄さん、通和散──」
「いっぱい注いでもらったから、平気だよ」
そう、山吹兄さんは間もなく年季が明けるというのに、僧侶の寵愛を受けている。男の相手は山吹で女の相手は私でと、そうして茶屋を回している。
「待て、山吹。入れると後ろが締まるから、まずはあやめからだ」
通和散を口から指で取り出して、後ろに塗り込み桔梗兄さんを受け入れる。入口がめりめり広がって中のひだが踊らされ、膨れた先が身体をめくる。
「桔梗兄さん……心地いいよ……」
「あやめ、私にも頂戴」
山吹兄さんに弄ばれて、前が膨れて後ろがきゅうと締まっていった。食らいついた桔梗兄さんが更に怒張し、圧迫されて裏返ってしまいそう。
「あやめ、入れるね」
吐息混じりに告げられて、山吹兄さんがおねだりしているところから、誰かの白濁液がいきり立った私を汚す。そのぬめりが私を飲み込み、絡みついて締め上げる。
「あやめ、大きくて、凄くいいよ」
「あやめ、締まって……いい心地だ」
山吹兄さんが腰を下ろして上げて、桔梗兄さんが名残惜しく引き抜いてから突き上げてくる。前から後ろから弄ばれる木偶の悦びを享受するうち、ついに丹田が破裂して山吹兄さんの中で脈打って、桔梗兄さんに身体の芯から焦がされた。
ねっとりとした愉楽の海に溺れたまま、私たちは眠りについた。いつまで続いてくれるのかと願った日々が、突然終わりを迎えるのを知らないままに。
それと同時に、茶屋のみんなを巻き込んで、散々暴れ回って心配かけて、すごすごと帰ってきたのだから、こっ酷く叱られるのだと思い小さく萎んだ。
が、女将さんは呆気にとられて、こう言った。
「そりゃあ、うちはいいけれど……あんたも案外、肝が据わっているんだね」
申し訳なさに、黙って頭を下げるのみ。そんな私に女将さんは、恨み言のようにつらつらと続けた。
「鉄砲隊なんざ下っ端が、陰間を買えるなんて思えないよ。でもさ、あれだけ派手に立ち回りゃあ、お尋ね者になるとは思わないのかい?」
まったく、女将さんの言うとおりだ。私がすべきは謝罪と懇願それだけだと、畳に額を押しつけた。
「ご迷惑になるようでしたら、この身をどこか深くに沈めようとも構いません。ただ、私はこの道しか知らず、年季も明けておりませんので、どうかこのまま居させて頂けませんでしょうか」
そうして私は、陰間に戻った。着飾ったのが功を奏したのだろうか。東征軍の人々は、女に斬られたとあっては名折れだと口を噤んだようで、女将さんの懸念は取り越し苦労に終わっていた。
結局、今までと変わらずに谷中の住職様の寵愛を受け、そこから周辺の僧侶へと私の噂が広がって、年季が明けた牡丹兄さんと入れ替わりに茶屋を牽引するまでになった。
ただ私より下の陰間は生まれることなく、だからといって商売が先細っているから、目まぐるしくはない。陰間茶屋は、明治新政府という鉋に削られていくようだった。
北進した幕臣が、五稜郭で最期を迎えたとの報を聞いた。幕臣が咲かせた最後の徒花だったねぇ、としみじみ語られて、私は違う想いを抱いていた。
彼は生きているのだろうか。
私と約束を交わしたのだから、きっと生きているはずだ。そうと信じて、料理屋に呼ばれるたびに彼ではないかと、胸に小さな炎を灯す、そんな毎日を送り続けて、はや六年。
内に密かに秘めていた彼と鍛えた肉体を、ついに隠しきれなくなっていた。骨はしっかり太くなり、身体つきも角張って、緩めた後ろも固くなり、前も大きくなった……と思う。
老境の僧侶はすっかり枯れて、後家の相手をする日が多くなった。
ぬらぬらと絡みつき、きゅうっと絞まる感触が、先から軸から丹田へ、そこから髄へと抜ける痺れるような悦楽が堪らなかった。が、責めて責めて悶えさせて互いに果てるその瞬間、後ろの切なさに襲われて、溢れる女の蜜を拝借し、密かに指を差し込み自瀆に耽った。
もっと、もっと、と追い縋る後家に、もう一刻は過ぎてしまったと別れの口づけをして、迎えの桔梗兄さんに火照った身体を押しつけた。
「兄さん、ごめん……。欲しくなっちゃった」
「まったく、あやめは。金剛は陰間のはけ口じゃあないんだぞ?」
眉をひそめる桔梗兄さんに構うことなく、私は手を脚の付け根に伸ばしていった。大きくなった私のものより大きなものを、撫で回して更に大きくしていく。触れられて、桔梗兄さんも内から熱くなってきて、堪らず私の腰を抱いて囁いた。
「あやめ、口でしてほしい」
「うん、私もそうしたい」
きつく押さえ込んだ逸る気持ちは、茶屋の二階の襖を煩わしく閉めた途端、破裂した。
桔梗兄さんを押し倒し、掴んだものを口いっぱいに頬張って舌を這わせた。
桔梗兄さんは子犬でもあやすように頭を撫でて、悦に浸って吐息混じりに労った。
「あやめ、とてもいいぞ」
熱くて、大きくて、とっても美味しい。そう桔梗兄さんに伝えたかったが、ひと時も口から離したくなくて、喘いでいるのが精一杯。
苦くて淡白な粘液が口いっぱいに広がって、私の後ろが疼いて堪らなくなってしまった。名残惜しく口から離し、たなびく糸を私の後ろに導くと、桔梗兄さんが嘲笑って秘所に触れてきた。
「あやめ、通和散を忘れているぞ」
「あ、ごめん……。久しぶりだったから」
口に含んだ通和散をふたりで溶かし、互いの舌に絡ませる。と、買い切り客に送られた山吹兄さんが板間に入り、すぐさま嫉妬を露わにした。
「ああっ! あやめ、ずるい! 私も欲しい!」
「山吹、あやめが先客だ。後でしてやるから」
山吹兄さんは不服そうにむくれて、待ち切れないと私の上に跨った。
「山吹兄さん、通和散──」
「いっぱい注いでもらったから、平気だよ」
そう、山吹兄さんは間もなく年季が明けるというのに、僧侶の寵愛を受けている。男の相手は山吹で女の相手は私でと、そうして茶屋を回している。
「待て、山吹。入れると後ろが締まるから、まずはあやめからだ」
通和散を口から指で取り出して、後ろに塗り込み桔梗兄さんを受け入れる。入口がめりめり広がって中のひだが踊らされ、膨れた先が身体をめくる。
「桔梗兄さん……心地いいよ……」
「あやめ、私にも頂戴」
山吹兄さんに弄ばれて、前が膨れて後ろがきゅうと締まっていった。食らいついた桔梗兄さんが更に怒張し、圧迫されて裏返ってしまいそう。
「あやめ、入れるね」
吐息混じりに告げられて、山吹兄さんがおねだりしているところから、誰かの白濁液がいきり立った私を汚す。そのぬめりが私を飲み込み、絡みついて締め上げる。
「あやめ、大きくて、凄くいいよ」
「あやめ、締まって……いい心地だ」
山吹兄さんが腰を下ろして上げて、桔梗兄さんが名残惜しく引き抜いてから突き上げてくる。前から後ろから弄ばれる木偶の悦びを享受するうち、ついに丹田が破裂して山吹兄さんの中で脈打って、桔梗兄さんに身体の芯から焦がされた。
ねっとりとした愉楽の海に溺れたまま、私たちは眠りについた。いつまで続いてくれるのかと願った日々が、突然終わりを迎えるのを知らないままに。
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